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ジョジョの奇妙な人口問題~「100人村」で理解する2065年日本の危機=東条雅彦

国立社会保障・人口問題研究所は4月10日、日本の人口が48年後の2065年には、およそ8800万人にまで減少して、高齢者の割合が40%に迫るという推計を発表しました。

5年前の推計と比べると、30~40代女性の出生率が上昇したことから、約670万人上方修正されています。しかし、それでもかなりの勢いで人口が減っていくことには変わりありません。

いろいろな経済予想の中で「人口推計」は、唯一ほぼ当たる予想だと言われています。平均寿命と出生率という2つの変数が分かっていれば、日本経済の未来を大雑把ではあっても見通せるのです。2065年、そのとき日本は一体どうなっているのか?「100人の村」形式で見てみましょう。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

増え続ける借金。政府は日本国民のスタンドであるという事実…

一直線に落ち続ける日本の人口

国立社会保障・人口問題研究所は4月10日、日本の人口が48年後の2065年には、およそ8800万人にまで減少して、高齢者の割合が40%に迫るという推計を発表しました。

<人口推計(2015年~2065年)>

(参考)2017年推計:1億2,653万人

<人口推計グラフ(2015年~2065年)>

「平均寿命」と「出生率」という2つの変数がわかれば、かなりの精度で将来の人口が予想できます。数ある経済指標の中で、ほぼ確実に当たるのが「人口推計」です。

【関連】日本財政破綻!その時あなたが返済中の「住宅ローン」はどうなる?=東条雅彦

なお、上記の人口推計は、平均寿命と出生率を次の値を使って算出しています。

平均寿命:男=84.95年/女=91.35年
出生率:1.44

同研究所では出生率が1.65、1.25のパターンでも推計していて、1.44という値は中位仮定(中間の値)と呼ばれるものです。

2065年は今から48年後の話で、今、生まれてきている子どもたちが確実に遭遇する未来です。

2015年の人口は1億2709万人ですが、5年後の2020年には1億2,532万人に減ります。たった5年で177万人の人口減です。

現在、この人口に匹敵する市町村は、北海道札幌市の196万人、福岡県福岡市155万人、兵庫県神戸市153万人等です。

今後、我が国では、5年ごとに県庁所在地クラスの巨大都市が消えていく規模で、人口減が進行していきます。これは短期間では変更できない、確定した未来なのです。

「100人村」で表すと危機の本質が見える

65歳以上の人が全体の人口に占める割合を「高齢化率」と言います。同研究所の推計によると、次のように推移する予定です。

<日本の高齢化率>

この状況を「もし100人の村だったら」形式で表すと、今後の日本はどのような社会になっていくのかよくわかります。2017年現在から48年後の2065年までに、100人の村人たちは次のように推移していきます。

0~14歳(水色):12人⇒10人
15~64歳(オレンジ色):60人⇒52人
65歳以上(緑色):28人⇒38人

<2017年現在の人口構成>

<2065年の人口構成>

今は、2人の働き手(生産人口:15~64歳)で、1人の高齢者(65歳以上)を支えています。ところが48年後の2065年には、1.3人の働き手で1人の高齢者を支える必要があります。

厳密には、働き手は22歳から64歳に集中しており、この年齢層の村人が子どもと高齢者を支えるというのが今の社会制度です。ですから今後も、村のコミュニティが今の仕組みを保てるか?と言うと、それはとても不確実性が高い状況です。

Next: 日本人の半分が「無職」に。いったい誰が引退世代を支えるのか?



100人村でよくわかる日本村の現状

2017年現在における100人村の年齢構成は、次のようになっています。

<100人村(年齢構成)>

統計上、この中で15~64歳のゾーンが「働き手」と定義されていますが、実際に100人村の中で働いている人が何人いるかを調べてみたいと思います。

総務省統計局が2017年3月31日に発表した就業者数は、6427万人(2017年2月時点)です。
※以下、統計局の「労働力調査」(2017年2月速報/PDF形式)のデータを元に話を進めます。

2017年の総人口の推計値は1億2,653万人となっています。つまり、働いている人は全人口の50%(6427万人÷1億2,653万人)です。

<100人村(働いている人)>

現在、働き口を探している完全失業者数は188万人(1.49%)です。

<100人村(失業している人)>

雇用形態別には次のようになっています。

<100人村(雇用形態)>

産業別には次のようになっています。

<100人村(産業別)>

私たちの村は今後、どうなっていくのでしょうか?

人口減少で最も懸念されるのは、働き手が減る中、若い人たちだけで引退世代の人たちを支えられるのかどうか?という点です。

Next: 今の「100人村」が48年後には「70人村」になり、借金だけが増えていく



村の借金は増大しているのに、村人は減っていくという現実

2017年現在、1億2,653万人の人口が、48年後の2065年には約3割減の8,807万人まで減ります。100人の村人が、48年後には70人になるのです。

<100人村は48年後には70人村になる>

単純に村の人口が少なくなるだけではなく、高齢化率が急速に上昇していきます。

65歳以上の村人は1人(28人→27人)しか減っていないのに、15~64歳の村人は24人(60人→36人)も減ってしまいます。

働き手が4割も減って、今の人数の6割(36人÷60人)にまで落ち込みます。その一方で、村が抱える借金は一直線に増えていっています。

増加し続ける村の借金

財務省は先月3月31日に、2015年度の「国の財政書類」を公表しました。コチラの資料(2016年3月/PDF)がそのポイントをまとめた資料となります。

この資料は、一般会計と特別会計を連結した決算書となります。年金、医療などの社会保障にかかる行政サービスも、すべて含んだ金額が記されています。つまり、これを見れば国全体の財政状況がわかるというわけです。

まずはバランスシートから見ていきます。

<国のバランスシート(2015年度確定値)>

既に国全体では520.8兆円の債務超過に陥っています。国民一人当たりに換算すると、次のようになります。

<国民一人当たりに換算したバランスシート>

イメージしやすいように金額を10倍にして、100人村で例えます。

<100人村のバランスシート>

100人村で例えると言っても、前項でも述べたように、この村で働いている人は半分の50人です。実質的に借金を返済できるのは、村人の中でも「働いている人」だけになります。

半分の50人で換算した場合、一人当たりの借金額は2倍の1,880万円となってしまいます。

Next: 人口の多い時に作った借金を、少ない人口でどう返済するのか?



借金の増加ペースに歯止めがかからない

「国の財政書類」には、今まで資産と負債がどのように推移してきたかを示しています。

<国の財務状況(1998~2015年)>

エコノミストの中には、「政府の借金ばかりに焦点をあてるのは間違いである。多くの資産も持っているから大丈夫」(いわゆる俗論)と言う人もいますが、実際には債務超過が続いています。

誤解がないように言いますが、その債務超過自体が問題なのではありません

資産の増加ペースよりも、負債の増加ペースの方が速くなっていて、負債の膨張を抑えられなくなっていることが問題なのです。

1998年度末の資産合計額は679兆円で、その17年後の2015年はほぼ同じ672兆円に留まっています。その間、負債合計額は813兆円から1.47倍の1193兆円に膨張しています。

負債には利子があるので、ある一定ラインを超えると、数列の発散のように無限大に拡大していくという性質を持っています。

「負債の増加が永久に続く」と大多数の人に見なされれば、新たな資金調達ができなくなり、財政持続が不可能になります。

経済規模を示す名目GDPは長年500兆円前後に留まっており、すでに財政の持続可能性が失われていると見なす人が出てきても、何ら不思議ではありません。

そして今後、「資産の増加ペース<負債の増加ペース」の状態が永久に続き、財政持続性が懸念される大きな要因の1つが人口減なのです。

借金地獄からの脱出には「奇跡」が必要!?

この100人村は48年後には70人村になることが確定しています。働き手の15~64歳のゾーンが60人から36人に減ってしまいます。ここが一番、深刻な問題です。

人口の多い時に作った借金を、少ない人口で返済しようとするのは、なかなか大変なことです。

今、日本の名目GDPは約500兆円です。国の借金は1000兆円を超えていて、GDPの2倍以上で推移しています。人口は約1億2700万人なので、一人当たりGDPは約390万円です。

100人村で換算した場合、村全体のGDPは3億9000万円になります。

働き手の人口が4割も減る中で(60人→36人)、現状の経済規模を維持しようとした場合、働き手は以前よりも約1.66倍も稼がなければいけません。一人あたりGDPで見ても、約1.43倍の稼ぎが必要です。

<働き手が60人から36人になる>

さらに付け加えると、財政破綻を回避するためには、現状の経済規模(GDP)を維持するだけではいけません

もし現状維持に踏みとどまった場合、今のペースで借金が加算されていってしまいます。どうにかして「経済成長速度>借金の増加速度」という状態を作りだなければいけないのです。これは相当、困難なことだと思われます。

戦後の復興期から奇跡的な経済成長を遂げた「東洋の奇跡」を、もう一度起こすぐらいの気持ちで立ち向かっていく必要があります(この件については来月のメルマガで取り上げます)。

Next: 「国民は債務者ではなく債権者」の俗論をジョジョのスタンドが斬る!



政府も企業も「スタンド」である!

国民1人当たり約◯◯万円の借金を抱えていることになる」という話をすると、必ず、次のように反論するエコノミストがいます。

それは国の借金ではなく“政府”の借金である。国民は債務者ではなく債権者だから、政府の借金は国民には無関係だ!

この主張は正しいのでしょうか?結論を先に言うと、残念ながら、これも「俗論」になります。

経済の主体は家計(国民)、企業、政府の3者で成り立っています。この3者でお金をやり取りしています。そのため、政府の負債は確かに、家計にも企業にも無関係のように思えます。

しかし、無関係ではありません

少し話が逸れるかもしれませんが、『ジョジョの奇妙な冒険』というマンガをご存知でしょうか。このマンガには「スタンド」という概念が存在します。

「スタンド」とは、「パワーを持った像」で、敵を攻撃したり自分の身を守ったりする、守護霊のような存在です。ジョジョを知らない人は「スタンド=守護霊」だと捉えてください。

スタンドは、超能力を持つ人間が放った存在です。戦いにおいて、スタンドがダメージを受けた場合、そのスタンドを出した本人(人間)もダメージを受けます。もし本人が直接、敵から攻撃を受けてしまった場合、スタンドも弱ってしまいます

ジョジョにおける戦闘で、「スタンドがやられてしまったけど、本人は大丈夫だ」という論理は通用しません。

人間=こっちが本体
スタンド=人間が生み出した存在で、人間とリンクしている

経済の3主体である家計(国民)、企業、政府も、これと同じような構造になっています。

家計(国民)=自然人
企業=スタンド
政府=スタンド

企業も政府も、自然人である人間がルールを決めて作ったものです。

政府であれば、「ここからここまでは我が国の領土で、こういう法律で運営します」と、観念の世界で決めているのに過ぎません。

企業は、その法律で定義された活動体(=法人)となります。

国民は債務者ではなく債権者だ論」は、財政破綻をしなかった場合においては有効です。スタンドがダメージを受けていない場合、本体もノーダメージです。

しかし、政府が借金を返済できずに資金繰りが詰まった場合、国民は債権者から債務者にすり替わります

歴史的には100年に1回あるかないかの確率ですが、財政破綻の度に、国民はインフレ税と財産税を支払って政府の損失を補填してきました。

企業が倒産した場合、ステークホルダーの人のみがダメージを受けます。しかし、政府が倒産した場合、全国民がダメージを受けます

反対に国民(本体)が傷だらけになっていた場合も、スタンドである企業や政府が悪影響を受けます。

「国民は債務者ではなく債権者だ論」は、スタンドと本体の関係を完全に無視してしまっているのです。

財政問題は、スタンド(企業、政府)が勝手に動いて解決してくれるようなものではありません。村の主人公は、スタンドではなく私たちだからです。

本質的には、村人一人あたりGDPを増やしていくしか方法はありません。村人一人ひとりが現状を正しく認識して、行動していくことが大切です。

Next: 日本が財政危機を脱出する糸口はあるのか?今回のまとめ



今回のまとめ

今後、日本社会は急速に人口減少と高齢化が進みます。

<100人村は48年後には70人村になる>

村の負債が一直線に増え続ける中、今後は、少ない人口でも持続可能な社会を作っていかなければいけません。

<村人一人あたりに換算したバランスシート>

現状の経済規模を維持しようとした場合、一人あたりの稼ぎを今の1.4~1.7倍ぐらいに増やす必要があります。

<働き手が60人から36人になる>

このことは、人口の多い世代が作った借金を、人口の少ない世代で返済していくことの困難さを示しています。

どうして国の借金が1000兆円を突破して、GDP500兆円の2倍を超える水準まで膨れ上がってしまったのか?財政危機を脱出する糸口はあるのか?等々、この話の続きは、来月のメルマガでお届けしていきます。

100人村シリーズ、まだまだ続きます。次回もお楽しみに!

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2017年4月16日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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