北朝鮮がミサイル発射や核実験を強行し、日本を含む周辺国への挑発行為を続けています。一方、冒険投資家のジム・ロジャーズは「今、最も有望な投資先は北朝鮮だ」「数年以内に北朝鮮と韓国は統合する」との意外な主張を展開しています。いったい、その真意はどこにあるのでしょうか?北朝鮮の経済データをもとに考察してみましょう。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)
ジム・ロジャーズ「あと数年で韓国と北朝鮮は統合する」の真意
日本人には謎すぎる「北朝鮮」という国
9月9日9時半、マグニチュード5.0規模の人工的な地震波が観測されました。北朝鮮は、建国記念日であるこの日に5回目の核実験を断行しました。
9月5日にも、中距離弾道ミサイル「ノドン」(射程1300キロ)とみられるミサイル3発を連続発射し、日本の排他的経済水域内に落下させたばかりです。
北朝鮮は実験を繰り返して、着々と技術力を向上させています。一連の行動は、私たち日本人にとっては脅威でしかありません。
そんな中、北朝鮮に熱い視線を送る投資家がいます。それは世界三大投資家の一人、ジム・ロジャーズです。
ジム・ロジャーズは「冒険投資家」の異名を持ち、バイクやベンツで世界中を旅して、走行距離と走破した国の数で2回もギネスブックに登録されています。
そんな彼はなぜ今、北朝鮮に興味を持っているのでしょうか。本稿ではその理由に迫りたいと思います。
ここではあえて北朝鮮の政治的なイデオロギーは抜きにして、純粋にマクロ経済のデータから北朝鮮の実態に迫ります。また、北朝鮮は自国の経済データを他国に公表していないので、国連や世界銀行が発表している推定値から考察を進めていきます。その点は予めご了承願います。
ジム・ロジャーズ氏「北朝鮮に移住したい」
世界三大投資家(ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズ)の中でも、ジム・ロジャーズ氏は、定期的にメディアに出てインタビューに応えるのが特徴です。
2015年2月28日のインタビューでは、次のように語っています。
――移住するとしたらどこへ?
おカネをすべて持って行けるなら北朝鮮でしょうね。1980年の中国、2010年のミャンマー、そして今の北朝鮮の状況は非常によく似ていて、北朝鮮は今後の展開が楽しみなところです。
ジム・ロジャーズの目には、今の北朝鮮は以前の中国やミャンマーのように映っているとのことです。そして先月、2016年8月29日のインタビューでは、さらに大胆な発言が飛び出しました。
――他に注目する国や地域の状況も教えてください。
まずは朝鮮半島です。あと数年で、韓国と北朝鮮は統合するでしょう。1つの国家になれば人口は約7600万人。北朝鮮の中国との国境付近には、教育水準が高い、安価な労働力が豊富にあります。北朝鮮には天然資源があるし、国土を開放して農家をたくさん受け入れようとする動きにもなるでしょう。
また韓国ではたくさんの資本や知識が集積しています。あなたもバイクで今すぐ朝鮮半島に行くべきです。やるべきことはたくさんあります。
なんと、韓国と北朝鮮はあと数年で統一するという予想を発表しました。
マクロ経済データから見えてくる北朝鮮の現状とは?
国連や世界銀行が推計で出している北朝鮮のマクロ経済情報を元に、私の方でグラフを作成しました。(※グラフ1~6 『GLOBAL NOTE』データより東条作成)
北朝鮮の本当の実態については、ジム・ロジャーズの言うように、バイクで現地に行くしかないかもしれません。しかしながら、マクロ経済の推移を見れば大まかな傾向や状況は把握できます。ぜひ北朝鮮の実態を、その目で確認してみてください。
1. 北朝鮮 名目GDPの推移(1994~2014年)
国連が推計した最新の2012、2013、2014年のデータでは次の通りです。単位は100万USドルとなります。
2012年 15,907(百万ドル)
2013年 16,565(百万ドル)
2014年 17,396(百万ドル)
3~5%のペースで上昇しています。1ドル=100円の換算で、直近の2014年の名目GDPは1兆7396億円となります。この北朝鮮の経済規模は、日本で言えば鳥取県とほぼ互角の規模です。
※鳥取県の名目GDPは2013年の実績(内閣府、最新)で1兆7680億円でした。
2. 北朝鮮 一人あたり名目GDPの推移(1994~2014年)
北朝鮮の一人あたり名目GDPも上昇してきています。
2012年 643ドル
2013年 666ドル
2014年 696ドル
同じく年率3~5%弱のペースで伸びています。1ドル=100円の換算で、7万円弱です。比較のために挙げますが、日本の一人当たりGDPは2016年の実績で約400万円となります。
北朝鮮はまだまだ開発途上国ですが、近年の経済成長率は目を見張るものがあります。
仮に成長率4%で見積もった場合、「72の法則」により、北朝鮮のGDPは18年(72÷4=18)で今の2倍になります。
1995年は大水害が発生した年で大きく落ち込んでいますが、それ以外の年では右肩上がりで成長が続いています。
国連のGDP統計は1年遅れで発表されるので、直近の2015年のGDPは不明です。しかしながら、過去20年間の長期傾向から確実に言えるのは、近年の北朝鮮経済は極めて堅調に成長が継続しているということです。
Next: ジム・ロジャーズ垂涎!? 北朝鮮の人口推移から特許出願数まで驚きの実態
3. 北朝鮮 人口の推移(1995~2015年)
北朝鮮は人口も増えてきています。人口については、国連が2015年までの推計値を発表していました。
2013年 2,489万人
2014年 2,502万人
2015年 2,515万人
直近3年では、毎年12~13万人ずつ人口が増えてきています。過去20年間、一直線に上昇しています。
4. 北朝鮮 失業率の推移(1996~2014年)
次に失業率を見てみましょう。
2012年 4.2%
2013年 4.1%
2014年 4.1%
国連の専門機関であるILO(国際労働機関)が発表している数値です。失業率は4%台前半で推移しています。かなりの長期間にわたり、この低い失業率を維持しているのには驚きです(経済学的には、ほぼ完全雇用と呼べる程の低さです)。
北朝鮮の経済は近年の経済制裁でダメージを受けていると思いきや、マクロ経済のデータからはそれがまったく読み取れません。
経済規模こそまだ小さいのですが、国民の大半はちゃんと仕事があり、毎年3~5%ずつ豊かになってきています。
5. 北朝鮮 平均寿命(1995~2015年)
次に北朝鮮の平均寿命を見てみましょう。世界銀行が推計したものです。
2013年 69.79歳
2014年 70.07歳
2015年 70.33歳
長期的に平均寿命も上昇してきています。この20年間で平均寿命が5歳(65歳→70歳)も伸びています。
6. 北朝鮮 特許出願数
最後に、北朝鮮の科学技術が上昇してきていることが伺えるグラフを提示します。
2013年 1
2014年 4
2015年 6
閉鎖的な国であり、特許申請など出さないのかと思いきや、2003年からは積極的で、これも上昇傾向です。2015年の特許出願数(6件)は、165カ国中78位につけています。
北朝鮮と国交がある国は、国連加盟国193カ国中170カ国近いと言われています。ミサイル発射や核実験で周りの国に脅威を振りまいているにもかかわらず、多くの国と付き合いがあるのには驚かされます。
日本は国交がないので、北朝鮮の実態はよくわかりません。しかし、過去20年の長期傾向(マクロ経済の数値)を確認する限り、近年の北朝鮮経済はかなり好調であることが伺えます。
Next: 意外すぎる韓国の可能性。ジム・ロジャーズの名言に学ぶ投資手法とは?
実は韓国もスゴイ勢いで経済成長が続いている
ジム・ロジャーズは「数年以内に韓国と北朝鮮が統一する」と主張しています。そこで、韓国のマクロ経済のデータもあわせて確認していきましょう。
現在の韓国は、密かに一人当たりGDPで日本を追い抜きそうな勢いで伸びてきています。
※一人当たりの名目GDP(USドル)の推移(1980~2016年)(韓国, 日本) – 世界経済のネタ帳
<1995年実績>
韓国:12,340ドル
日本:42,536ドル
↓20年後↓
<2015年実績>
韓国:27,195ドル
日本:32,485ドル
一人当たりGDPだけはなく、韓国経済はマクロ経済全体で見ても、どんどん拡大してきています。名目GDP、実質GDP、ドル換算でのGDP、どの方面から確認しても、一直線に伸びています。
※韓国のGDPの推移 – 世界経済のネタ帳
ジム・ロジャーズが言うように、韓国の技術力と北朝鮮の天然資源が合わさると、お互いに欠点を補う形になって、さらに飛躍していくことが予想されます。失われた10年、20年、25年と長期停滞する日本も、どこかで巻き返しを図りたいものです。
ジム・ロジャーズの名言に学ぶ投資手法
ジム・ロジャーズの次の名言を読めば、韓国と北朝鮮の統一が決して夢物語ではないこと、そして、朝鮮半島に投資のチャンスが来ていることを推察できます。
世界は常に変化してきたことを理解し、将来を見通せるようになるために、歴史を学ぶべきです。
どの年でもいいから選んで、それから50年後の世界は実際にどうなったか調べてみてください。
驚くべき変化が起きたことに気づくでしょう。
「やがてこうなる」と当時の人々が聞かされていたことは、50年経つとその通りにはならず、劇的に異なる世界になってしまった。
投資家として成功したいなら、投資の神様といわれている人々の話を聞くよりも、歴史や哲学を学んだほうがいい。
そのために欠かせないのが読書です。
歴史書や哲学書から歴史的教訓に学び、ものごとに対する洞察力を磨く。
そうすれば大局をつかむことができるし、将来の変化も予測できる。
歴史は繰り返すのです。
この2つのロジャーズの名言を要約すると、「人類は昔から根本的な部分は同じなので、歴史を見れば、同じパターンが将来にも出現する」と言っています。
その「過去と同じパターンの出現」を周囲よりも早く見つけて投資するのが、ロジャーズ流の投資手法です。
では「韓国と北朝鮮の統合」は、歴史的にはどのパターンと同じなのでしょうか?それはズバリ「西ドイツと東ドイツの統合」です。
Next: ベルリンの壁崩壊をなぞる「韓国・北朝鮮統合」のシナリオ
ベルリンの壁崩壊をなぞる「韓国・北朝鮮統合」のシナリオ
1945年、第二次世界大戦で敗戦したドイツは、ソ連(現ロシア)、イギリス、フランス、アメリカの4カ国によって東西分割占領されました。
東と西で1つの国が分断され、1949年10月7日に東ドイツが誕生すると、ソ連がこれを支援しました。
冷戦によりアメリカとソ連の緊張が高まった1961年8月13日には、東と西を分断する「ベルリンの壁」が作られます。
- 西ドイツ:資本主義
- 東ドイツ:社会主義
東ドイツは当初こそ経済が順調だったものの、次第に西ドイツに水をあけられるようになります。西ドイツは資本主義のシステムの下、経済が発展していき、国民は豊かになってきました。
どんどん貧しくなっていく東ドイツの国民は、不満を高めていきます。
国民の不満を抑えられなくなった東ドイツ政府は1989年11月9日、ついに「ベルリンの壁」の国境ゲートを開放します。翌日11月10日、東西ベルリン市民によって、「ベルリンの壁」は壊されました。
そして、西ドイツと東ドイツは元の1つの国に統合されていったのです。
北朝鮮と韓国も、ドイツと同じような歴史的背景を持ちます。北朝鮮はソ連による占領期に国家の基盤が形成されて、1948年9月9日に建国されました。
第二次世界大戦が終わる前までは朝鮮半島は日本が統治しており、もともと韓国と北朝鮮は1つでした。
第二次世界大戦後のソ連とアメリカの対立構造の中で生まれたという点で、北朝鮮と東ドイツは同じ背景を持っています。
建国のタイミングも、北朝鮮(1948年)と東ドイツ(1949年)はほぼ同時期です。
- 韓国:資本主義 (西ドイツと酷似)
- 北朝鮮:社会主義 (東ドイツと酷似)
ジム・ロジャーズは冒険家でもあり、歴史家でもあります。実際に朝鮮半島をバイクで走って、ドイツと同じパターンが発生する予兆を感じ取ったのでしょう。
Next: アジア最後のフロンティア・北朝鮮への投資方法は存在するのか?
北朝鮮への投資方法は存在するのか?
ジム・ロジャーズは、4年前に北朝鮮への投資を開始していました。
2012年、シンガポールで開催された国際コインフェアで、北朝鮮の企業がコイン収集家に対し出品した同国の金貨を全て購入したと、ウォールストリートジャーナルが報じています。
※北朝鮮の金貨に賭ける著名投資家ロジャーズ氏 – WSJ
ロジャーズは次のように発言しています。
「コインや切手は、わたしが北朝鮮に投資できる唯一の方法だ」
今のところ、北朝鮮には株式市場がありません。そのため、投資方法はかなり限られています。北朝鮮のコインは、将来的にアンティークコインとして価値が高まると予見しているのでしょう。
コインへの投資は、資産家が分散投資として重宝する投資法の1つです。切手も同じです。世界中に多くの収集家がいて、絶対数に限りがあるので、将来的にも価値が高まってきます。しかもコインや切手は、絵画などと違って保管するのも簡単です。
ジム・ロジャーズらしい投資法だと言えます。
「数年以内に韓国と北朝鮮が統一する!」という予想は、言い換えれば、北朝鮮の体制崩壊を意味します。
はたしてこのジム・ロジャーズの予想が当たるのかどうか、もうしばらく時間が経てば、おのずと明らかになるはずです。
『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2016年9月11日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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