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高所恐怖症に苦しむ市場、1987年ブラックマンデーとの気になる類似点=斎藤満

米FRBが利上げを模索して苦労するなか、日欧が追加緩和で穴埋めするという構図を期待していた市場は裏切られました。今まさに、債券バブルが弾けようとしています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年9月12日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

29年前よりも深刻。世界的な株高の「前提条件」は崩れつつある

ニューヨーク市場の不気味さ

先週金曜日の米国株の下げが不気味だと、ブログにも書きました。

29年前の1987年10月に起こったブラックマンデーでは、まさかのドイツによる金利引き上げが、ニューヨーク・ダウの22%下げ(508ドル)の引き金になった、と言われます。

また、ボルカー氏を引き継いだ新任のグリーンスパンFRB議長に、金融市場の「主」が誰かを知らしめるための謀略的な株価下げ説もあります。

実際のところ、何が原因で当時の株価が急落したのかは定かではありませんが、今日の世界的な株高は、長年のゼロ金利、マイナスの長期金利に示されるような異常なまでの超低金利のもとに成り立っていることは否定できません。

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米国株も企業収益が悪化する中で、過熱感がない中で、それでも割高と思われながら、高値を更新、維持されてきました。

S&P500が2200ポイント手前で頭を押さえられ、上抜けできない中で一部に「高所恐怖症」も見られるようになりました。そのなかで、主要国の長期金利が一斉に上昇し、これが金曜日のNYダウを400ドル近く押し下げた直接的なきっかけとなっています。

これは、29年前のドイツ金利の上昇とつながる面があります。

「肝試し」は済んでいるのか?

その点で2つの気になる問題があります。1つは、米国ではFRB議長が変わると、ほぼ例外なく、市場の混乱による議長への「肝試し」があり、金融市場の「主」への忠誠を問う機会が与えられるということです。

ブラックマンデーも、グリーンスパン新議長が試されたわけで、彼は機動的に金融緩和策をとって許された形になっています。

その点、現在のイエレンFRB体制になって、すでにその「肝試し」はなされたのか?昨年夏の中国ショックがそれなら、その後の利上げ見送りで「合格」となったのか?あるいはまだ試験は終わっていないのか?微妙です。

米大統領選挙前に「肝試し」がなされる可能性を指摘する向きもあります。特に、接戦が続く中で、トランプ陣営は、市場混乱カードを利用するとの見方もあります。

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もう金融緩和では防戦できない

気になるもう1つの点は、1987年当時以上に株式市場が金融緩和依存を強めている上に、その金融緩和が「限界」に差し掛かっていることで、それが今回の長期金利上昇につながった面があります。

かつてのドイツ中銀と違って人為的なものではなく、金融緩和そのものの限界を意識されると、それだけ「投機の鬼」に攻撃の余地を与えます。攻撃されても、もう金融緩和では防戦できないためです。

Next: ボストン連銀総裁のタカ派発言ではない、長期金利上昇「本当の原因」



長期金利上昇「本当の原因」

今回の長期金利上昇のきっかけは、市場が説明するボストン連銀のローゼングレン総裁のタカ派発言でも、原油価格の上昇でもないと思います。

FRB幹部によるタカ派発言は、彼以前にも何人からかなされていて、しかもまだFRBが一枚岩になっていないために、9月利上げの織り込みも進んでいません。しかし長期金利は直近2日で急上昇しています。

原油価格に至っては、水、木と上昇しましたが、金曜日には大きく反落しています。そのなかで、長期金利は急騰しました。

金利上昇の直接的な原因は、ECBの緩和行き詰まり露呈と、日銀の「副作用認識」ならびにイールドカーブの修正発言が効いているように見えます。これは29年前のドイツ金利の上昇より深刻な問題をはらんでいます。

つまり、今回の金利上昇は、人為的になされたものではなく、ECB、日銀の追加緩和に限界が意識されたことによるもので、政策当局としては如何ともしがたい面があり、その失望が、債券バブルを弾けさせる可能性を秘めているためです。

ECBはマイナス金利を限界と見、資産買い入れも現行スキームでは限界と言っているようなものです。つまり、今のECB法の下では、ECB預け金金利のマイナス0.4%より低い金利の債券は買えず、1銘柄のECB占有率は33%と上限を定めています。

このままではドイツ国債がいずれ33%の上限に達するので、資産の買い増しも、買い入れ期間の延長もできません。追加買い入れには、法改正が必要ですが、すぐにはできません。

この「緩和の限界」が露呈したため、欧州金利が上昇し、これが米国金利にも伝染しました。

そこへさらに、ロイター通信が日銀の桜井審議委員のコメントを紹介し、日銀がイールドカーブのフラット化による副作用を認識し、これを修正する可能性を紹介しました。日本でも、一時ゼロまで低下した20年債の利回りが0.4%台に大きく上昇しました。

Next: 裏切られた市場の期待。ブラックマンデー以来の嵐が近づいている



ブラックマンデー以来の嵐が近づいている

米国でFRBが利上げを模索して苦労している中で、日欧が追加緩和で穴埋めする構図を期待していた市場は裏切られました。

日欧がともに追加緩和の限界ないしイールドカーブの修正を余儀なくされるなかで、米国が利上げを模索する、となったために、日米欧の長期金利が同時に急騰し、債券バブルが弾けようとしています。

国債利回りの異常な低下が、株の益回りの低下、株価上昇を支えていたわけで、その支えがなくなれば、それだけ株式市場は不安定になります。金利裁定からすれば、株価が下落しても良いことになり、利回り面からは株よりも債券の方が有利になります。

もっとも、債券バブルが弾ければ、すぐに債券にも金は入らず、株の下げ余地は大きくなります。

この状況を投機筋が利用すれば、より大きな市場の変動が生じかねません。米国ではまさにその機会を虎視眈々と狙う向きがあります。

先週の日本市場は、日銀のETF買い支えと、米国金利の上昇、ドル高円安を好感して株価は高値維持をしています。しかし、金曜日の米国株の400ドル弱の下げは、ブラックマンデー以来の嵐を予感させる不気味さを秘めています。


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年9月12日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2016年9月12日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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