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なぜ今、欲しいモノもお金もない「消費しない日本人」が増えているのか?=斎藤満

総務省が先日発表した最新の「家計調査」は、日本人の所得減少と消費意欲減退をあらためて浮き彫りにするものでした。欲しいモノがなくお金もない日本人は、今、何にお金を使っているのでしょうか?メルマガ『マンさんの経済あらかると』を配信中のエコノミスト斎藤満氏が分析します。

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年5月31日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

若者と高齢者のクルマ離れが同時進行。変わりゆく消費構造の行方

「家計調査」に注目すべき変化

総務省は5月30日、4月分の「家計調査」を発表しました。年度替わりの最初の月ということでもあり、いくつか注目すべき変化が見られます。

同時に、短期循環的ではなく、より構造的な変化も見られ、消費関連業界は、こうした変化に対応できるかどうかが、大きな分かれ目になりそうです。

所得の減少により低迷する消費

まず、実質消費水準は、いまだ低下傾向を脱していません。いわば構造的な弱さを示しています。4月の実質消費水準は2015年を100とした指数で97.8と、2015年8月を最後に、以来ずっと100を下回り、しかも低下基調にあります。なお、4月の実質消費水準は1-3月平均比ゼロ成長となっています。

この消費の弱さの背景として、所得の減少傾向があります。年金の実質減額は制度的に決められているだけに逃げようがありませんが、これに加えて、勤労者世帯の所得も実質減少が続いています。

4月の実質実収入は、世帯主分が前年比3.0%減、配偶者の所得が5.9%減、その他世帯員の所得は17.9%減と、いずれも減少しています。先立つものがなければ、消費にも限度があります

なぜ誰も車を買わなくなったのか?

次に、4月の消費内訳に、注目すべき動きが見られます。実質消費全体は前年比1.4%の減少ですが、減少に大きく寄与した費目をみると、自動車購入、および自動車関連用品の減少だけで消費を1.21%も押し下げています。

次に私立大学、専修学校の授業料が1.16%押し下げ、他に値上げの大きかった魚介類が0.15%、テレビ、楽器が0.11%押し下げました。

このうち、自動車には3つの構造的な変化が起きています。

1つは、高齢者の事故が増える中で、車に乗らないように自治体が推進しているケースが増え、実際車を手放す高齢者が増えていることです。

2つ目は逆に、若い人の自動車離れが進んでいることです。先日あるTV番組で、若い女性が「高級車やブランド品のバッグなどを持っていることはダサい」と発言していました。

実際、かつては若者が車の助手席に美しい女性を乗せるのを夢見て、高級車を買っていた時代がありましたが、現代の若い人には「冗談」としか思えないそうです。車は所有するものではなく、必要な時にレンタカーやカーシェアを利用すればよい、ということだそうで、そもそも免許を取らない若者も増えています。

所得制約ばかりか、高額品を所有したいという価値観がなくなったようです。

Next: 車も部屋もシェア。欲しいモノがない日本人は何にお金を使ってる?



欲しいモノがない日本人

従って、4月の消費内訳で注目すべき第3の動きとして、「シェア」の傾向が進んでいることが挙げられます。車に始まって、ブランドバッグ、さらにシェア・ルームも増えています。

かつては使わなくとも所有していることの喜びが重視され、その無駄、余裕分が、物的生産を増やす要因になっていました。

しかし、所有意欲が減退し、必要な時にシェアする時代になると、効率化は進みますが、物的生産は落ちるわけです。

大学授業料の減少が意味するもの

次に、私立大学の授業料減少が消費の足を引っ張っていますが、これは実質減少で、値段が安くなって消費が減ったわけではありません。

むしろ私立大学授業料は、今年10%前後値上げされたところが多くなっています。その中でこれが大きく減ったのは、学生の数が減ったこと、とくに値上げされた私立より公立が優先されたか、学費が高くてあきらめたか、です。

その次の魚介類は不漁で価格が高騰したことによる面がありますが、学費については少子化の影響で、定員割れの大学が増えていることにも表れています。

「家の修繕」「葬儀」「スマホ」にお金をかける

一方で、全体の消費が不振な中でも増加傾向のものもあります。4月の増加費目をみると、給排水工事など、設備修繕、維持費が全体を0.68%押し上げ、ついで贈与金などの交際費が0.58%、移動電話通信料が0.23%、葬儀、婚礼関係費が0.22%押し上げています。

このうち目立つのは、住宅の老朽化とともに設備の修繕維持費が増加し、高齢化とともに葬儀関係費も増加している点です。

そして、このところずっと消費を押し上げているのがスマホなど、移動電話通信料の増加です。特に若年層では携帯、スマホの費用が増大し、これがその他の消費を圧迫している面も否めません。

かといってスマホを止めるわけにいかず、結果として他の分野で「所有する」贅沢を捨て、必要な時に借りたりシェアしたりする生活パターンが増えているようです。

以前に高齢化の進行で、高齢世帯の将来不安が消費の節約を促し、消費全体の伸びを抑えている面を紹介しましたが、少子化の影響や若年世帯の消費行動の変化も、消費構造の変化に大きな影響を与えている可能性があることを、今回の「家計調査」は示唆しています。

Next: 高額すぎる日本の通信費/これからの日本で消費されるものとは?



高額すぎる日本の通信費

自動車の低需要は一時的でなく、構造的に弱さが続く可能性があるため、そのなかでカーシェアなど、新しい売り方、ビジネスの形態を考える必要があります。私立大学のみならず、これから少子化による需要減退は様々な形で現れてきます。

反面、高齢化は葬儀関連の支出増のみならず、子や孫への贈与が増え、相対的にエンゲル係数を高め、消費に占める食料需要の安定要因になります。

そしてスマホの拡大に伴い、通信費の増大が大きく、ある意味ではこれがその他の消費を圧迫します。

日本の通信費は香港その他海外に比べてかなり高く、消費全体に占める通信費の割合が他の国に比べてかなり高くなっています。

それだけ税金に近い圧迫要因であり、今後この分野での規制緩和、競争促進がなされて価格の引き下げ圧力が強まる可能性があります。

関連業界もそれに対する備え、対応が必要になると思われます。

これからの日本で消費されるもの

消費の場所は百貨店からネットにシフトし、消費のパターンはモノの所有型消費から体験型消費にシフトしています。そして所得、年金が増えなくなっているだけに、価格に敏感な消費者が増え、値上げが需要減退につながりやすくなっています。

これらの流れや変化に乗りそこなった業者は苦戦しますが、流れを掴んで成功する事例も少なくありません。
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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年5月31日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2017年5月31日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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