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安倍内閣がひた隠す景気後退「いざなぎ詐欺」の忖度と不正を暴く=斎藤満

政府が「戦後2位のいざなぎ景気に並ぶ景気回復」をアピールしています。しかしこれは、安倍政権の意向を忖度した内閣府の不正による「偽りの成果」です。これに国民が騙されてはいけませんので、その実情を紹介しましょう。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年9月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

アベノミクスの半分は景気後退期間、回復の実感がないのは当然だ

内閣府の「忖度」を超えた不正行為

先の国会会期中に、加計問題で関係部門の官僚が大臣に代わって答弁した際、内閣府の担当官が「記憶にございません」を繰り返し、必要な情報を提供せず、安倍総理の立場を守ることに専念していた姿が、テレビ・カメラの前に映し出されました。

国民の目に内閣府の答弁は、文科省の現役官僚とともに不信感を持って受け止められました。

官僚も所詮はサラリーマンなので、将来の天下り先を含め、職の確保を優先し、そのためには内閣人事局、官邸の覚えを良くしておかねばならない立場は理解できます。

官僚の問題というよりも、その人事権を官邸が握る体制にしてしまったことが本来的な問題で、ここに手を付けない限り、今後も官僚が身を捨てた正義を示すことはまず期待できません。

しかし、「経済最優先」を打ち出す安倍政権の立場を考えてのこととはいえ、客観的な景気指標の評価、判断までゆがめ、2年近く続いた「景気後退」をなかったことにし、アベノミクスの成果に傷がつかないようにすることは、「忖度」を超えた不正行為と言わざるを得ません。

「いざなぎ景気に並んだ」という大ウソ

茂木経済担当大臣が、現在の日本経済が「いざなぎ景気」に並んだ可能性を示唆し、アベノミクスの成果を訴えた際に、筆者はブログで、これは実体のない無意味な発言だと書きました。

私のようなエコノミストの目から見ると不自然な発言も、一般国民からすると「実感はない」と言いつつ、騙されかねないので、少し実情を紹介しましょう。

「いざなぎ景気」とは1965年から70年にかけての、高度成長期最後の長期景気拡大期を指します。そして茂木大臣の主張では、今回の景気は2012年11月を底に、以降5年近い景気拡大が続いている、ということになるのですが、両者はあまりに違い過ぎて、比較すること自体おこがましい話です。

そもそも、今回の景気が5年近く拡大を続けている、という認識からして疑わしいのです。

Next: 揉み消された景気後退。これが内閣府「不正」の手口だ



内閣府による「不正」の手口とは?

景気が拡大局面にあるのか後退局面にあるのか、その判断をするのは、内閣府内に設置された「景気動向指数研究会」で、これは内閣府が「事務局」を務めるものの、実際の判断を下すのは「研究会」のメンバーたる民間エコノミストや経済学者になります。

そしてここが重要なのですが、従来の景気判断では、この「事務局」はデータと材料を提供するのみで、その結論は「研究会」のメンバーに委ねていました。

例えば、2013年8月の会合では事務局から「12年4月が景気の山の候補になる」との材料、14年5月の会合では「12年11月が景気の谷の候補となる」との材料がそれぞれ提供され、そのデータを研究会のメンバーがチェックする形で結論を導いていました。

そして結果的には、事務局が候補として挙げた12年4月を「景気の山」、12年11月を「景気の谷」とする認定につながりました。

この判断のもとになるのは、景気動向指数のうち、一致指数を構成する9つの指標です。それぞれについて、12カ月移動平均を計算し、そのピーク時点を求め、その翌月から傾向として下降した時のボトムを求めます。その間が「下降」期間となり、指標によってこれは変わりうるのですが、「上昇」を示唆する指標の割合が14年4月に50%を割り込み、その状況が16年2月まで続きました

揉み消された「23カ月間の景気後退」

この場合、通常なら景気の「山」が14年3月となり、翌4月から16年2月までが景気後退局面となります。これまで、この方法で求められた景気の「山」「谷」がこの指標から導かれた結論とすべて一致し、その間が景気後退期と認定されてきました。

ところが、今年6月の会合では、「14年3月に山は設定されない、と考える」と、先に事務局が結論を出してしまい、研究会のメンバーはこれを了承するしかない状況となりました。

従来通りのやり方であれば、14年3月が景気のピークとなり、その後16年2月までの23カ月間は「景気後退」ということになります。ところが、内閣府の独断で、後退なしに5年近く拡大が続いている、とされてしまったのです。

Next: 安倍政権の都合に悪い「景気後退」は認めないのか?



今回だけ「景気後退」を認めないのは不自然

事務局が景気後退はなかったと言い張る根拠としては、第1に、ピークが確認できなかった指標がある(有効求人倍率)こと、第2に、一致指数の変化率がマイナス6%と小幅だったこと、などを挙げています。

しかし、これらは根拠になりません

例えば、12年4月から11月までの景気後退期には、有効求人倍率のほか、生産もピークを打っていません

そもそも、前にも紹介しましたように、有効求人倍率は、分母の求職者数が景気変動をそのまま反映するわけではありません

高齢化で職がなくてもハローワークに行かない人が増え、失業保険受給資格が厳しくなったために、制度的に求職者が減っている面もあるからです。

つまり、有効求人倍率はもはや景気を説明する指標としては相応しくないのです。それを裏付ける事実として、前回後退期にもこの指標はピークをつけず、さらに生産までピークをつけなかったのに、景気後退と認定しています。

今回だけ、これを材料に認めないのは不自然です。

さらに、一致指数の低下幅が6%と小さいと言いますが、12年の後退期は5.8%の低下で認定されています。そもそも、経済の幅広い分野で、半年以上の間収縮が見られる場合に後退とするわけで、14年からの局面はこれに十分該当します。

安倍政権にとって都合が悪い

ところが、これを認めてしまうと、アベノミクスの期間中の半分近くが「景気後退」にあったということになり、経済優先の安倍政権には都合が悪いわけです。

Next: 国民の信頼を欺く、景気判断の「粉飾」に要注意



景気判断の「粉飾」に要注意

このため、内閣府としては、安倍政権になってからはずっと景気は拡大しており、景気後退などなかったと言わざるを得なかったようです。

しかし、表現や認識をいくらつくろっても、経済の実態がついてこず、とりわけ個人の所得も消費も増えず、生活が良くなっていないという、国民の生活実感まで騙すことはできません

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今では「いざなぎ景気」を経験した人が少なくなり、これに「並んだ」と言ってもピンとこない人が多数で、実際、景気回復を実感できない人がほとんどだというサーベイも見られます。

政権の成果を化粧してごまかしたい気持ちもわかりますが、あまりの厚化粧では国民の不信感を募らせるだけです。内閣府は信頼回復を急がないと、何も信用されなくなります。

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マンさんの経済あらかると』(2017年9月1日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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