“狂犬マティス”ことマティス米国防長官が、2月2日に韓国、3・4日に日本を訪問することになりました。大統領不在の韓国と日本をアメリカの国防長官が訪れる狙いは何か、すでにいろいろな思惑が取りざたされています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年1月27日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
北朝鮮の「南進」が近い? アメリカが注視する2つの韓国問題
マティス米国防長官が日韓訪問、主目的は韓国
“狂犬マティス”ことマティス米国防長官が、2月2日に韓国、3・4日に日本を訪問することになりました。大統領不在の韓国と日本を国防長官が訪れる狙いは何か、すでにいろいろな思惑が取りざたされています。少なくとも、「セイ・ハロー」でないことは確かです。
日本のメディアは日米同盟の重要性を確認するためと書いていますが、今回の主眼は恐らく韓国です。日本はそのついでとは言わないまでも、朝鮮半島問題との関連、ないしは沖縄の米軍駐留費用問題が中心でしょう。
では、今なぜ韓国なのでしょうか。いくつか喫緊の問題があって、次の韓国大統領、政治体制が固まるまで待てなかったのだと思います。喫緊の問題とは、北朝鮮問題と、米国が韓国に高高度ミサイル防衛システム“THAAD”を配備することに対して中国が韓国に揺さぶりをかけていて、そのことで韓国に動揺が見られることです。
米国の最大関心事は「朝鮮半島の統一」
まず北朝鮮問題ですが、米国は表向きこそ朝鮮戦争で韓国とともに戦い、停戦中の今日も同盟国ということになっています。そして北朝鮮は表向き「反米」を前面に出し、核弾頭を米国本土に到達させる脅威を喧伝しています。しかし、金正恩委員長の周辺はウォルト・ディズニーや米プロバスケットボールのグッズであふれています。
経済力の乏しい北朝鮮が、カネのかかるミサイル発射を繰り返し、核実験を繰り返す状況は不自然と見るべきで、北朝鮮の「中国向け石炭輸出で外貨を稼いでいるから」との説明では不十分です。為替、金利が落ち着いていることを考えると、裏で誰かが金を出し、技術支援をしていると考えるのが自然で、米英パトロン説が有力です。
米国は朝鮮半島統一に関心があり、それは韓国主導でも北朝鮮主導でも構わないはずです。朝鮮半島を基地として、そこから北京を監視するシナリオがあります。韓国が政治的に混乱し、北朝鮮にとっては南進(南攻)のチャンスでもあります。北が攻めてきた場合に、在韓米軍が北と戦う保証はなく、むしろ在韓米軍を引き揚げる可能性さえあります。
今回の訪韓では、北朝鮮の状況・情勢を探るとともに、在韓米軍の扱いについて、単に駐留経費の引き上げだけでなく、そもそも在韓米軍を残しておいてよいのかも検討し、韓国の意向を探るものと見られます。裏を返すと、もし米国が在韓米軍を近いうちに引き揚げる話が出てくれば、北朝鮮の南進が近い、というシグナルになります。
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米国の狙いはすでにかなりの程度実現
米国が韓国に主眼を置く理由のもう一つ、米国が韓国に“THAAD”を配備することを決めましたが、中国が米国にではなく韓国に対して報復に出ているため、韓国経済がダメージを受け、韓国内に動揺が広がっていることについてです。北京政府は中国人の韓国旅行を抑制したり、韓国芸能人を中国から排除したり、韓国のチャーター便の認可をしなかったり、様々な形での経済的報復が目立ちます。
米国としては、中国政府の動きを監視する目的もあり、何が何でもTHAADの配備は進めたいわけで、韓国世論の反対を抑える必要があります。朴大統領の弾劾についても米国の影響が少なくないようですが、最高裁がどのような判断を下すかはともかく、韓国財閥の弱体化は進んだわけで、その面では米国の狙いはすでにかなりの程度実現しました。
搾り取られる日本
この韓国問題が米国には喫緊の問題で、今回、日本訪問は付け足しの面があります。朝鮮半島有事が起これば、その際に日米がどう対応するかも議論しておく必要があります。その辺は表立って報道されることはないと思われますが。あとは経済ディールで日本から何を得るか、ということになります。
米国の意向としては、日本にも軍事費の拡大をさせ、GDP比で2%まで引き上げさせたい、との思いがあるようです。そして米軍の駐留経費の負担増も持ち出される可能性があります。日米同盟の強化というのは上辺の話で、TPPに拘る安倍総理はうるさいので当面首脳会談は持たず、今回は代わりにマティス長官に総理を表敬訪問させる模様です。必要があれば当面は麻生・ペンス会談で代行させる模様です。その点、麻生大臣の健康状態が不安ですが。
※編注:本稿執筆後、安倍首相とトランプ大統領は電話で会談を行い、2月10日にワシントンで日米首脳会談を行うことで合意した
こうした空気が伝わったか、さすがに安倍総理もTPPに替わって日米二国間協議もやぶさかでない、と姿勢を修正しつつあります。国内では敵なしの安倍総理も、「俺様大統領」の相手は楽ではなさそうです。
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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年1月27日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
『マンさんの経済あらかると』(2017年1月27日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。