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アメリカ長期金利の臨界点「3%ライン」突破で何が起こるか?=田口美一

ヨーロッパの諸問題(難民・失業率・テロ・選挙など)、米国経済の行方と金利動向、日本の上がらない金利について、金融アナリストで前クレディ・スイス証券副会長の田口美一氏が分析します。(『グローバルマネー・ジャーナル』田口美一)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2017年1月25日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※1月15日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております

プロフィール:田口美一(たぐちよしいち)
金融経済アナリスト、前クレディ・スイス証券副会長、ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座講師。専門分野は金融経済全般、資産運用、年金問題など。

金融アナリストで前クレディ・スイス証券副会長の田口美一氏が分析

【欧州】ヨーロッパの問題は永久に終わらない

ヨーロッパの問題は難民問題であり、宗教問題であり、ドイツの歴史的認識が重要です。さらにEUという通貨のみ共通にしている国々が持っている歪みが、一度に出てきているのです。これには終わりがありません。私の知っている金融関係者らは100年は終わらないと言っています。

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ジハードは死ぬことによって救われるなどとなれば、永久に終わらないのです。ヨーロッパの宗教戦争がそんなに短く終わったことはこれまでないと言うのです。しかもそのドイツがEUのサポート役なのです。ドイツは立場上「難民」も「EU」もサポートせざるを得ないわけで、非常に厄介だといえます。

ヨーロッパの失業率を見ると、各国驚くほど高くなっています。そうした国々はドイツに言われて財政緊縮をしています。マーストリヒト条約でGDP3%以内に赤字を調整するようにとの約束でEUに入っているため、年金を減らしたり公務員をカットしたりしているわけです。

失業率を具体的に見ると、ギリシャは23%、スペインは下がったものの19%、フランスも10%近くとなっています。今回選挙をするオランダは5.6%と下がってきています。ドイツは4.1%、アメリカは下がったとはいえ、まだ4.6%です。一方、日本は3.1%と、この中では最高のパフォーマンスです。

ヨーロッパは失業が多いうえに、しかも失業者が若者です。さらにそこに難民が増え、かつテロが起きているという状況です。こうした中、今年はヨーロッパで選挙が相次ぎます。3月にオランダ4月にフランス、そして9月にドイツです。これらの選挙では、今は勝たないと言われているところが全部勝つことになってもおかしくないと思います。

オランダでは自由党がキャスティングボートをとっていて、連立を組んだときに強くなる可能性があります。フランスではル・ペンの国民戦線が1回目の選挙では勝つと言われています。2回目では50%取れないと言われていますが、結果どうなるかは分かりません。その後ヨーロッパで二度サミットが行われ、9月のドイツ議会選挙です。今はメルケル氏が圧倒的にサポートされていますが、どうなることでしょうか。

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【米国】「10年債利回り3%」で何が起こるか?

アメリカは確かに良い状況ですが、目先の良いところはマーケットに既に織り込まれてしまっています。金利が3%になったり、為替政策でドル安を仕掛けられたりといった恐ろしいお化けがアメリカにはまだ残っているのです。一方、ヨーロッパはまだ恐ろしい状況が出まくっていて、終わる見通しが立ちません。どちらも相当きつい状況だと言えます。

アメリカではFRBが自信たっぷりです。去年は中国が心配、BREXITが心配などと言いながらなかなか利上げをせず、満を持して12月に利上げを行いました。とは言え、まだ1%にも達していないところです。2017年には3回利上げすると言っていますが、去年の今頃も同じようなことを言っていました。私は3回は無理だと思っています

あと1回利上げを行い、10年債が3%に乗ってきたら、まず自動車売れ行きの伸びが落ちます原油も上がっているので自動車販売はまず落ちてくるでしょう。さらに、金利が3%に乗せるとモーゲージレートが上がるので、住宅も落ちてきます。

そして、トランプの言っていたことで少しでも気になるところ、例えば雇用がそれほど増えるのか、為替のドル高は続くのか、むしろドル高が続けば輸出メーカーに悪影響ではないかなどといった話が出てくれば、失速のリスクは大いにあると思っています。米国国債が3%を超えるようだと、さすがに黄信号から赤信号という段階だと思います。

Next: 【日本】日銀券残高推移に注意。上がらない金利は何を意味するのか?



【日本】上がらない金利は何を意味するのか?

今後注目すべき数字として、日銀券残高推移を見ておきましょう。私はバブルの時この数字を見ていました。この数字が勢いを増したら、お金がどんどん世の中に出ていることになります。現在102兆円まで伸びていますが、これが120、140と出ていけばすごいことだと言えます。ただし、それは貸し出しなど何らかの行動に変化が起きないと出てこない数字です。増加ペースは毎年1兆円から4兆円にアップしていますが、全く大したことはありません

金利は今後もどんどん上がるということはないと思います。今はほとんどゼロであり、マイナス金利は私自身も買いたくありませんし、大手銀行なども買わないと言っています。マイナスの投資をすることはありません。ただ、借りるのであれば、今の限りなく低い所で借りておくのが正解です。企業も金利を固定したいので、必要もないのに借りまくっています。

しかし、そうすればするほど先取りをすることになり、来年再来年の需要を先食いしてしまいます。それにより、来年再来年の需要が減り金利はむしろさらに上がりづらくなるのです。需要が先取りされれば、先の需要を食ってしまうので、先々需要がなくなることになり、価格が下がるのと同じです。

国債はこれまで、私のこれまでの人生と重なる時期、グラフでわかるようにベストフォーマンスを見せてきました。これについては今の段階では10年国債で0.5%より上は考えづらい状況です。0.5%より上がってくれば、生命保険会社をはじめ、買いたい投資家がたくさん出てくるでしょう。ただ間違ってこの金利が上がってくるようだと本当に気をつけなければいけません。住宅ローン等は固定物で借り、もし変動にしている場合はなるべく借り換えた方がよいでしょう。

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グローバルマネー・ジャーナル』(2017年1月25日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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