ビットコイン先物が米CMEに年内にも上場するようです。日本ではまだ「ヤバい」存在という先入観がある仮想通貨ですが、はたして取引は拡大するでしょうか。(『高梨彰『しん・古今東西』高梨彰)
※本記事は有料メルマガ『高梨彰『しん・古今東西』』2017年11月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
日経先物より何倍も高い変動率。ビットコイン先物は定着するか?
米CMEの「ビットコイン先物」年内上場へ
「ビットコイン先物」が年内にも上場するとのことです。
「ビットコイン」と聞くと、日本では依然として取引業者の破綻が印象深く、「ヤバい」存在という感覚をお持ちの方が少なからずいらっしゃるかと思います。また「先物」と聞けば、『ナニワ金融道』や『ミナミの帝王』のような「ヤバい」絵巻を想起させることもあるかと存じます。
てことで「ビットコイン先物」は、「ヤバい、ヤバい、マジでヤバい」存在…との先入観を抱きがちかもしれません。でも、今回のビットコイン先物上場は、そんな些末な印象よりも大きな意味があるはずです。
ビットコイン先物取引が拡大すれば、それだけでビットコインの世界的な認知度は上がったと証明されます。問題は「取引が拡大」するかどうかです。
「ビットコイン」にしても「先物」にしても、「ヤバい」印象を与えがちなのは、どちらもどんな仕組みであるか、一般的に知られていないためではないかと考えられます。「ビットコイン」は最近になって出て来たものなので、「新参者」への偏見が強い感じです。対して「先物」は前からあるのに「ヤバい」感覚だけが先行してしまっています。
「ビットコイン先物」の基本的な仕組み
「先物」は英語でfuturesと表します。「未来・将来」という意味です。市場価格に使われるので、「未来の価格」です。
具体的には、例えば「2018年3月31日のビットコイン価格」を考え、価格を決めていきます。これは株価指数先物でも債券先物でも原油先物でもすべて一緒です。ちなみに、「2018年3月の価格」を示す先物を「2018年3月限(サンガツギリ)」と呼びます。「先物」はこんな形で「とある時点の価格によって『決済』する」商品です。
ビットコインだとまだ具体的な仕組みがわからないので、日経平均先物を例にしますと、「日経平均先物12月限」であれば、「日経平均株価の12月第2週の寄付(取引最初の価格)の価格で決済をする商品」となります。
12月の決済価格が25,000円であれば、25,000円が基準です。決済までに先物取引にて22,000円で買っていれば、決済により25,000-22,000=3,000円分の利益が発生します。このため、将来価格が上がると思えば「先物」を買い、下がると思えば「先物」を売る動機が起こるわけです。
しかも「先物」自体、架空の存在です。取引所で管理・運営がされますが、先物を買った後、決済日が来る前に売ることも可能です。22,000円で買って22,500円で売れば、500円分の利益が手元に入ってきます。「先物」が架空の存在であるからこそ可能な手段です。このような決済を「差金(さきん)決済」と呼びます。ちなみに私は今朝、8時45分01秒に日経平均先物を買って、8時45分48秒に売る取引を実行、1分足らずの買いと売りが「差金決済」されています。
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巨額な取引を可能にする先物取引
加えて、「先物」は最終的な決済日と決済価格の決まりが定まっているだけで、規制が無く、取引相手さえ存在すればどれだけ多くの金額でも買うことも売ることも可能です。決済時に損失が発生した際、損失金額を支払うことが可能かどうか、それだけが問題です。
原油先物のように、最終決済にて「差金決済」ではなく、先物を買ったまま決済日を迎えた人は、買った時の先物価格にて原油の現物を入手、売った人は原油の現物を手渡すという方法もあります。
先物価格が安い時に買えば、現物を将来その価格で手に入れることができて便利です。しかし、元手よりも大きな金額の先物を買ったり売ったりしてしまうと、決済時に金額の支払いができなかったり、原油の現物を用意できなくて困ったり。はたまた先物を安い時に買ったは良いものの、決済分の原油を置いておく場所が無くて困ってしまったり。そんな例も有り得ます。実際、先物を高値で買ってしまって、損失を確定するのが嫌で現物決済を選択したものの、商品を置くところはない。仕方なく、急遽商品を備蓄する施設を建設、そんな国があったとか無かったとか。
どう影響?ビットコイン価格の大きな変動率
「ビットコイン先物」は、最後に「決済価格にて差金決済」をする商品のようです。ビットコインの規模(確か約1,100億ドル)の小ささや市場の未熟さを考慮すると、現物の受け渡しにしたら相当の混乱が起こるでしょうから。
あとは「ビットコイン先物」にどれだけの人が参加するかです。何たって値動きが大きいです。ビットコインの変動率は現在年70%ほど。これは約3分の2の確率で価格が70%くらい動く可能性があることを示しています。
ちなみに、日経平均先物の変動率指数は17%、米株変動率指数VIXは現在10%程度です。山っ気の多い人には適していますが…。
Next: 現物価格にも影響大、ビットコイン先物は生き残れるか?
ビットコイン先物は生き残れるか?
ビットコインに限らず、「先物」は本当に色んな商品が登場します。そして、登場して間もなく消える商品も山ほどあります。日本の国債市場では「長期国債先物」が1985年から取引されていますが、その間に「中期(5年)国債先物」や「超長期(20年)国債先物」なども上場しています。しかし、どちらも人気が出ませんでした。取引(出来高)はサッパリです。
それだけに「ビットコイン先物」がどれだけ盛り上がるか、とても関心があります。取引が継続されれば、それだけビットコインの認知度も高まります。金融市場での存在感も高まります。
同時に、ビットコインの荒っぽい値動きにより、金融市場が慌てる可能性も高まります。先物取引が活発になれば、ビットコインのETF(Exchange-Traded Funds:上場投資信託)組成も容易です。ETFまで行くと、存在感も結構なものとなってきます。「ヤバい」ビットコインなのに、ETFという「投資信託」ですから。
「ビットコインETF10%、(普通)預金90%」という投信を作れば、「ビットコイン入門ファンド」も出来上がります。そんな意味でも「ビットコイン先物」を1年後も見ることがあるのか、注目したいところです。
今回のまとめ
- 「ビットコイン先物」年内上場
- 「先物」は数多あれども、取引が続く商品は少ない
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・「ビットコイン先物」に思う(11/2)
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『高梨彰『しん・古今東西』』(2017年11月2日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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