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バックは中国共産党。世界最大ゲーム会社「テンセント」の強みと弱みとは=栫井駿介

中国で代表的なネット企業はBAT(百度、アリババ、テンセント)と呼ばれ、中でもテンセントは驚異的な成長を遂げています。数年前まで単なるゲーム会社にすぎませんでしたが、今ではアリババと競って中国のネット業界を支配しようとしています。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

スマホ普及で急成長。中国当局が庇護するテンセントは買いなのか

任天堂をしのぐ世界最大のゲーム会社

中国の民間企業は、ここ数年で劇的な成長を遂げており、時価総額ランキングにも米国企業に次いで上位に登場します。その中でも特に有力とされているのがBAT(Baidu / Alibaba / Tencent)と呼ばれる3社であり、テンセントはその一角を占めます。時価総額4,000億ドル(45兆円)は世界第8位、中国企業ではアリババに次いで2位です。

日本では聞き覚えのない会社かもしれません。1998年にPCオンラインゲームの会社として創業しました。現在でも収益の5割はゲームによるものです。

ゲーム会社と言えば、日本の任天堂やソニーの独壇場のように見えますが、売上高だけ見ればテンセントが世界最大の企業です。

中国では最近までコンソール型ゲーム(任天堂Switchのようにゲームのハードが独立しているもの)が禁止されていたこともあり、最初からオンラインゲームが主流です。そのため、日本勢の攻勢を受けることもなく、ゲームのスマホ化にもいち早く対応できたと考えられます。

成長はスマホの普及と共にある

テンセントの成長は、スマートフォンの普及なくしては語れません。ゲームがPCからスマホに移行したことにより、ユーザー人口が急拡大しました。日本ではいくつもの新興企業が競争を繰り広げていますが、中国におけるテンセントのシェアは5割にのぼり、独占的に市場の成長を享受できたのです。

ゲームだけではありません。オンラインチャットのQQ(PC向け)やWeChat(スマホ向け、日本のLINEに相当)など独占的なシェアを誇るアプリを有し、オンラインゲームとも融合することで相乗効果を生み出してきました。

WeChatをベースに、さらなる成長をとげようとしています。ゲームから生み出されるキャッシュを多額の企業買収に投じ、事業拡大を続けています。

出典:Stockclip

その中で目下注目されているのがキャッシュレス決済です。中国では、スマートフォンでQRコードを読み取ることで即座に支払いができるキャッシュレス決済が急速に普及しています。テンセントが提供する「WeChatペイ」は、アリババの「アリペイ」と並んでその二大アプリです(市場シェアはアリペイが50%、WeChatペイが38%)。

決済の履歴が取得できれば、ユーザーの様々な消費行動を追跡することができます。そのビッグデータを元に、テンセントやアリババは巨大な中国のインターネット経済圏を支配しようとしているのです。

Next: 中国共産党という「後ろ盾」がもたらすテンセントの強みと弱み



規制は最大の堀であると同時に最大のリスク

中国企業の最大の強みは、規制によって守られていることです。中国共産党の意図に沿わない外国企業は簡単に締め出されてしまいます。GoogleやFacebookも中国では撤退を余儀なくされています。その空いた穴を埋めることで、自国企業は人口13億人の巨大な市場を獲得することができるのです。

もっとも、規制は最大のリスクでもあります。国内企業であっても政府の気に入らないことがあれば簡単に潰されてしまいます。こればかりは国外からのリスク管理は難しく、中国株への投資を躊躇させる障壁です。

目下開催中の中国共産党大会では、習近平国家主席の権力集中があらわになっています。習近平の逆鱗に触れるようなことがあれば、ある日突然事業を停止しなければならないということも起こりうるのです。

また、中国企業は自国で巨大な市場を抱えるが故に、海外進出はあまり得意ではありません。テンセントのオンラインゲームやWeChatも世界標準とは到底言い難く、良くも悪くも中国の経済成長に左右される部分があります。

もっとも、中国経済はなお6.5%の高成長が見込まれ、輸出主導から内需主導へと経済構成が転換する中で、国内消費を対象としたサービスはこれからますます伸びていくと考えられます。仮に世界進出がままならなかったとしても、テンセントの今後の成長性をかげらせるようなものではありません。

現時点でのテンセントへの投資判断

PERは40倍にのぼり、バリュー株投資としては簡単に買える水準ではありません。それでも、昨年の売上高成長率がほぼ50%あったことや、相変わらずのオンラインゲームでの強さを考えるとつい手を出したくなってしまいます。

目下株価は大きく上昇し、この1年の上昇率は6割、5年で7倍となっています。無謀な水準とは言えず、まだ伸びてもおかしくありません。

出典:Bloomberg

しかし、短期的なリスクは否定できません。市場は「世界同時株高」の様相を呈していて、テンセントもその例外ではありません。今後何らかのリスクの顕在化により、市場全体が大きく下がる可能性があります。

(以下、テンセントへの投資判断は有料会員限定コンテンツです。)

これから世界経済の成長を牽引するのは間違いなく中国であり、無視することはできません。当社では、今後ますます中国経済および中国株の調査を進めていきます。

【関連】中国3強(百度・アリババ・テンセント) vs 日本3強(ヤフー・楽天・LINE)の決算比較から見える厳しい現実=シバタナオキ


つばめ投資顧問は相場変動に左右されない「バリュー株投資」を提唱しています。バリュー株投資についてはこちらのページをご覧ください。記事に関する質問も受け付けています。

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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2017年11月1日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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