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北朝鮮は誰からミサイル技術を入手したのか?米国も恐れるパンドラの箱=日暮昭

オバマ前大統領が手をこまねいているうちに、北朝鮮は核ミサイルをアメリカ本土に打ち込む能力を備えてしまった。この驚くべき技術開発力には裏があった。(『資産運用のブティック街』日暮昭)

プロフィール:日暮昭(ひぐらしあきら)
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を用いた客観的な投資判断のための市場・銘柄分析を得意とする。

※本記事は有料メルマガ『資産運用のブティック街』2017年11月21日号を一部抜粋・再構成したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

人材流出の始まりは「ソ連崩壊」最重要国営企業の技術者はどこへ

脱北技術者「我々はロシアとウクライナの技術者に育てられた」

世界のホット・イッシューの1つは、北朝鮮ミサイル問題だ。核拡散防止条約が成立して以降、核開発を公然と進め、敵対国をせん滅するというような挑発的発言を続ける国は初めてのことだ。臆病(strategic patient)なオバマ前大統領がスピーチを考えるだけで何の行動も取らないうちに、北朝鮮は核ミサイルをアメリカ本土に打ち込む能力を備えてしまった

後世の歴史家たちは、オバマ大統領を「平和主義者」というよりも「スピーチだけはうまかった」と評価することになるのかもしれない。北朝鮮は世界が思いもよらぬペースでミサイルを量産できるようになっている。核シェルターを販売する商売が急成長しているというセンセーショナルな話が聞こえてくる。

この驚くべき技術開発力には裏があった。イギリス国際戦略研究所による「ロケットはウクライナ製ではないかと推測される」という、今年8月14日付けの論文をニューヨークタイムズが取り上げた。ウクライナ危機で行き場を失ったミサイル部品や技術が、ブラックマーケットを通じてほぼそっくりそのまま北朝鮮に移転していたと推測されている。

不思議なことに、この「北朝鮮はウクライナからロケットや技術を入手していたのではないのか」という指摘は、その後ぱったりと報道されなくなった。うがった見方をすれば、この問題を詮索していくとアメリカ国内政治、国際関係等々でパンドラの箱を開けるような事実が次々と出てくるので、どこかで情報回路が封じられてしまった可能性がある。逆に、水面下の揣摩臆測(しまおくそく)が間歇的(かんけつてき)に顔を出す。在韓の脱北技術者が「我々はロシアとウクライナの技術者に育てられた」と言っている、という風評が流れている。

ソ連崩壊後、宇宙航空機・武器産業はどうなったのか?

旧ソ連のミサイルの主力生産基地は、ウクライナ東部の工業都市ドニプロペトロフスク(最近ドニプロに改名)のユジマシとハリコフのハルトロン・アルコスだった。スプートニクス以来の人工衛星、スペースシャトル、ICBMのほぼ全量がここで作られていた。

キエフ工科大学、キエフ国立大学、ハリコフ工科大学、キエフ航空大学(全ソ航空大学の本校)の優れものたちがユジマシを中心に集まり、かつてフルシチョフが「ソーセージのようにロケットを作ることができる」と豪語したとされる宇宙航空産業の礎を造り、育ててきたのだ。カザフスタンのバイコヌール宇宙センターで働く科学者もウクライナで教育を受けユジマシやハルトロン・アスコスに勤務していた者が主体だった。

ソ連が崩壊し、15の国に分かれると産業連関の鎖がズタズタになり、防衛(宇宙航空機武器)産業は縮小した。現場はロシアとウクライナに集中しており、各100(ウクライナ)、200(ロシア)万人の雇用を抱えていた。世界はパニックに陥った。核弾頭を集中管理しないと大変なことになるからだ。

ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに展開されていた核弾頭はすべてロシアに管理されることになり、核のボタンはエリツィン大統領にゆだねられた。世界はこれで核非拡散が保てる、とほっとして、旧ソ連の防衛産業の縮小問題、つまり、人工衛星やICBMのロケット装置の非拡散を忘れてしまった

ロシアとウクライナに国は分かれても、ソ連時代の本支店工場間の部品、加工、ソフトのサプライチェーン、特に防衛産業のそれは国を越えて維持された。ハードもソフトも他に代替ソースがなく、お互い以上に効率の良い市場を他に求めることはできなかった。

ただ、ソ連の崩壊は経済的崩壊でもあり、防衛産業は急速な縮減状態に陥る。ロシアもウクライナも縮小する旧ソ連市場から目を海外に向け、武器輸出国に転じた。その過程で、相互に部品供給を依存する関係は低級品から崩れ、輸出競争が始まった。ただ、ミサイルなど先端技術に絡むものはそうは行かなかった。

ロシアは経済危機下でもノウハウや技術移転に慎重であったが、ウクライナはそんなことは言っていられなかった。オレンジ革命はユーシェンコ大統領の無能と腐敗から尻すぼみに終わり、政治生命を絶たれたはずのヤヌコビッチがほどなく復活し、防衛産業の連帯は大きく棄損しなかったが、2014年のロシアのクリミア併合と東部内戦以降、ウクライナの防衛産業は突如機能停止に陥った。

ユジマシやアントノフ(巨大輸送機)幹部が、金融支援を求めているという風評が流れるようになり、支払い不能が重なり、近く倒産するというと伝えられるようになった。日経新聞でもユジマシの倒産を一面で伝えたことがあった。ドニプロペトロフスク、ハリコフをはじめザポロジエ、ヘルソン、ミコライエフなど企業城下町からは技術者が職を求めて世界に散った

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「新たな道」を歩み出したミサイル開発企業関係者たちの行方

ミサイル開発の総本山だったユジマシは旧ソ連でも最重要国営企業だった。崩壊後もウクライナでは突出した存在で、その社長だったクチマは初代大統領フラフチュクの再選を阻止して第2代大統領に就き、ユジマシの幹部が続々とキエフの大統領府に乗り込んだ。クチマはこれまでで再選された唯一の大統領で、そのユジマシ時代からの側近や関係者たちは、その後ウクライナの代表的な新興財閥(オリガルヒ)や有力政治家に転身していった。しかし、こうした華麗な転身に成功した人々はひと握りだった。

軍事用タンクを数台積んで空を飛び、アメリカを仰天させた巨大航空輸送機で世界的に知られるアントノフにも悲劇が襲ったが、立ち至らなくなった軍事部門を離れた幹部が苦し紛れに起業した従業員やその家族向け生活物資供給部門が、ウクライナ最大の砂糖会社に生まれ変わるという瓢箪から駒もあった。

一方、アントノフ本体では、幹部がウクライナ東部関係者で固められていたため、ユーシェンコやポロシェンコのような反露派が政権を握ると、直ちに政変の論功行賞として防衛産業のイロハもわからぬ者をトップに挿げ替えた。社内は混乱状態に陥り、人材は世界に職を求めて離散した。同じことが同業他社でも相次いだ。

技術者の多くはロシア、アメリカへ。だが一部は――

ロシアへの流出が一番多かった。ロシアは宇宙航空機武器産業のウクライナ依存を限りなくゼロにする必要に迫られていた。ただ、全部が全部ロシアに受け入れられるはずはなかった。

技術者はアメリカにも向かったと考えられる。連邦崩壊以降、大学間の連携や研究者交流は進んだ。こうした交流に惜しげもなく金をつぎ込むアメリカのNPOは少なくないし、その動きを支えるアメリカの軍産複合体の支援は公式非公式に多岐多様に存在する。

日本にもICBMの軌道計算を専門にしていた航空大学出のエリートが中小ソフト企業にSEとして出稼ぎに来ていた。高度先端技術開発を担っていた超エリートが日本の片隅でこんな仕事で食いつないでいるのかと驚かされたものだ。

薄く広く世界に散っていった中に、北朝鮮に向かった人材がいたとしても不思議はなかった。世界が、ウクライナ危機をまじめに振り返り、対応を見直す時が来ている。

ブラックマーケットとのつながりとも改めて向き合わなければならない。知らなかった方が良かったということもあろうが、大きな謎もないにこしたことはない。後続情報が待たれるゆえんである。

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資産運用のブティック街』(2017年11月21日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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