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戦争か和平か?「平昌オリンピック後」の朝鮮半島、4つのシナリオ=斎藤満

南北対話や北朝鮮の平昌五輪参加で融和ムードが広がる一方、米国による軍事介入の可能性も充分に残っています。今後の展開と投資チャンスを考えてみましょう。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年1月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

短期軍事介入なら投資チャンス。北朝鮮を巡る「4つのシナリオ」

神風にも嵐にもなり得る地政学リスク

地政学リスクは一般に株式市場など、資産市場にとっては相場の重しになります。それだけに、このリスクの現れ方いかんでは、相場にとって嵐にもなり、神風にもなります。

それだけに、この動向には十分関心を持っていたいと思います。当面の地政学リスクとしては、北朝鮮問題イラン中東問題が筆頭となっています。ここでは北朝鮮問題を中心に検討してみます。

少なくとも「五輪終了まで軍事介入はない」が

北朝鮮と米国の主張がかみ合わないために、どこかの時点で米軍が軍事行動に出るのでは、との懸念が市場を圧迫してきました。北朝鮮は米国との交渉力を確保するために、核兵器保有が不可欠と考え、米国は北朝鮮の核保有を認めない立場にあります。両者の妥協はほぼ不可能と見られています。

ところが、韓国に亡命した北朝鮮の元駐英公使によると、北朝鮮の金正恩労働党委員長が、「新年の辞」で北朝鮮の選手をピョンチャン・オリンピックに派遣する可能性を含め、韓国に対して融和姿勢を見せたと言い、ここから事態は急展開しました。トランプ大統領も、少なくとも、南北が交渉中は、そして冬季五輪の開催中は、米韓合同軍事演習は行わないと、柔軟姿勢を見せました。

一時はピョンチャン・オリンピック前にも軍事行動の可能性が指摘され、五輪開催も危ぶまれましたが、現時点では少なくとも冬季五輪終了までは、米軍の軍事介入はないだろう、との見方が広がっています。

もっとも楽観的なシナリオ「相互凍結」

そこで北朝鮮リスクにおいて、最も楽観的なシナリオとして、中露が提案する「相互凍結」、つまり米韓が永久に軍事演習を「凍結」し、それと引き換えに北朝鮮が核ミサイル開発を永久に「凍結」する、というものが考えられます。この場合は北の脅威がこれ以上高まらず、米軍も軍事介入には出ない、という融和シナリオが実現することになり、株式市場は歓喜の大幅上昇で迎えることになるでしょう。

当初は米国がこれに妥協する可能性はほとんどないと見られ、このシナリオは無視されてきましたが、トランプ氏本人は軍事介入を望んでいるわけではなく、本来は軍産複合体支配を終わらせたいと考えていたと言われます。従って、彼が軍産を説得し、軍事介入を封じ込めれば、このシナリオが浮上します。目下のところ、その可能性は20%程度かと思われます。

Next: 米国が北の核保有を認めない場合、最も確率が高いシナリオは?



米国が「北の核保有」を断固として認めない場合の3シナリオ

しかし、米国は北朝鮮の核保有を何としても認めない可能性があり、その場合、以下のように大別すると3つのシナリオが考えられます。

<シナリオ1:限定的超短期の軍事介入>

1つは、この中で市場には最もフェイバーな形ですが、米国が韓国、中国、ロシアの協力のもとに、限定的超短期の軍事介入に出て、北の核施設を管理下に収めるケースで、金正恩委員長は恐らくロシアの誘導によってロシアに亡命する可能性があります。

ここでは、中国、韓国の協力があれば万全で、ティラーソン国務長官は以前、中国とこれを想定した打ち合わせをしていた節があります。米軍による軍事介入とテロップが流れた瞬間、株価は急落すると思われますが、何時間かで平定され、介入が終了すれば、相場は一気に反転急騰する可能性があります。かつての大統領選でのトランプ勝利の時の相場をさらに極端にした形が考えられます。

この場合、中国、韓国の協力が得られずに、米軍が単独で介入する可能性もあります。米国は十分に情報を集め、綿密な計画のもとに、短時間でキー・ポイントを空爆し、北の無力化ができる、とのシミュレーションもあるようです。この短期間で北を無力化する軍事介入の可能性が30%程度と見ます。相場が急落したところで買えれば最高です。

<シナリオ2:北朝鮮によるミサイル攻撃>

しかし、計画通りにいかない場合もあります。2つめのシナリオは、米国の想定とは異なり、北が反撃のミサイルを放ち、韓国日本に飛来し、多くの犠牲者が出るケースです。特に、中国や韓国の協力が得られないケースでこのリスクがあります。この場合は相場が大きく・長時間下げると見られ、慌てて買うわけにはいきません。

特に韓国や日本では政変に至る可能性もあり、世界に不安が広がるとともに、米国の信用・信頼度が大きく低下します。この可能性は20%程度かと思われます。

<シナリオ3:米朝間のミニ冷戦>

3つめのシナリオは、米国が決断できずに、米朝間がミニ冷戦のように、いつまでもにらみ合ったまま、不安定な状況が長期化するケースです。北ははなから米国に宣戦布告する気はないと思われます。自国の力を認識していれば、これが自殺行為であることは誰にもわかります。そして米国を刺激するようなレッドラインを超える行為も自粛します。

米国としては軍産複合体が介入意欲を見せるものの、中国の協力が得られないとか、軍産勢力を抑え込みたいグループもおり、米国がなかなか1枚岩になれない可能性があります。北が実験やミサイル発射を行っても、米国が動けない場合、米国は足元を見られます。このため、北が下手に挑発するとシナリオ1のケースになりますが、米国が決断できずにずるずる睨み合いが長期化するケースが考えられます。この可能性は30%程度と高いと見ますが、それでも50%は超えません。

このケースの場合、いつ軍事行動があるのか、不安が付きまとうので、相場には常に下押し圧力となり、市場としてはあまり嬉しくないパターンです。それでも戦争にならないだけましで、資産が紙くずになるリスクも限られます。

Next: 投資家にチャンスは訪れるか?シナリオの早期見極めが重要



シナリオの早期見極めが重要

ここへきて北朝鮮問題に融和ムードが広がりましたが、まだ軍事介入になるリスクが半分程度あると見ます。その場合でも市場にチャンスとなる短期終結の可能性もあり、シナリオを早めに見極めることが重要になります。

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image by:Nicole S Glass | aradaphotography / Shutterstock.com, Wikimedia Commons

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年1月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2018年1月17日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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