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現実味を帯びてきた安倍政権の退陣。アベノミクス終焉がもたらす皮肉な経済成長=斎藤満

日米首脳会談終了後、今国会中に安倍政権は退陣を決断するかもしれません。その後の政権混乱は、どんな形で市場や経済に影響を与えるのかを考えます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年4月18日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

アベノミクス終焉でも影響は限定的。長い目でみれば経済は上向く

政治リスクを市場は無視できない

内外の政治リスクが高まっているとの認識は広まっている一方で、市場や経済への影響については「無視できる」あるいはあえて「無視すべき」とのコメントが有力投資家からも聞かれます。

しかし、米中貿易戦争こそ大騒ぎさせた一方で「やらせ」的な面が露呈しましたが、差し迫る内外の政治リスクには、無視できないものがあります

確かに「米中貿易戦争」はプロレスショー的な面があり、トランプ大統領が秋の中間選挙を意識してあえて「危機感」を募らせている面はあります。最終的には中国の譲歩を引き出して「戦争」は回避される、と足元を見られ始めました。日本の鉄鋼、アルミ・メーカーへの関税増の影響も限定的とされます。

また、シリアへのミサイル攻撃も、中間選挙を狙った「やらせ」的な面が指摘され、一部には化学兵器の使用は、シリアではなく、イスラエルや米国の諜報機関が画策したもので、シリアが使用したと言うのは「濡れ衣」との見方さえあります。

それでもこの問題はこれで終わりでなく、次のイラン攻撃への伏線、という面があります。そのためにあえてロシアとの関係を悪く見せる「工作」もしたようで、その点でもプロレスショー的な側面は否めませんが、結果としてロシア・ルーブルやロシア株は急落し、新興国通貨も大きく下落しています。さらにブレントの先物が70ドルを超えるなど、原油価格も上がっています。

ワシントンの求心力回復、中間選挙へのキャンペーンでは済まされない影響が現実に市場に、そして海外経済に出始めています。

今後、米朝会談の結果いかんで、朝鮮半島情勢、北東アジアの地政学、核のリスク、日本の核戦略などに大きな影響が及ぶ可能性があります。そして日米関係も動いています。

そこで、以下では安倍政権混乱がこれからどんな形で市場や経済に影響するか、考えてみましょう。政権混乱には、安倍政権の弱体化による影響と、政権が交代した時の影響とがあります。

安倍政権の弱体化がもたらす悪影響

安倍政権の弱体化が、ここへきて急ピッチで進んでいます。森友学園問題では資料の書き換えが問題となりましたが、さらに不当な値引きに対して口裏合わせをしていたことが露呈し、政府の「うそ」が国民に広く疑われるようになり、加計学園問題では、総理秘書官が「首相案件」と言って圧力をかけていたことが暴露されました。

さらに自衛隊の「ない」はずの日報が出てきて、「戦闘」の文字が数多く見られ、非戦闘地域への派遣という政府の説明が覆されました。安保関連法案自体もうその説明の中で強行採決されたことになります。

そこへ財務省事務次官のセクハラ疑惑で、その問題自体はともかく、これへの財務省ならびに政府の対応が、非常識で、政府官僚への信頼を著しく傷つける結果となりました。

これら一連の事件発覚で、野党はもとより、与党内からも安倍退陣を求める声が出る始末。本人だけが今後の外交成果にかけて、また居座るつもりのようです。

NNNの世論調査では支持率が26.7%と、ついに30%を割り込みました。この安倍政権混乱は米国の耳にも入っているはずです。その米国とこの状況で日米首脳会談を持つことになりました。

Next: 拉致問題は進展せず? 安倍首相は日米首脳会談で挽回を狙っていたが…



トランプ優位で進む日米会談

この日米首脳会談、当初は4月上旬の予定でしたが一旦延期となりました。その裏に、米国キッシンジャー系から安倍総理への批判が高まり、会談のキャンセルも懸念されたのですが、トランプ大統領があえて日を変えて会うことにしました。何かを得られると、安倍総理の足元を見た可能性があります。力関係は明らかにトランプ優位となります。

そこで安倍総理は、何とかトランプ氏に拉致問題解決を依頼し、その成果をもって危機脱却、起死回生策としたいようです(編注:原稿執筆時点4月17日。初日の会談でトランプ大統領は、6月初旬までの実現を目指す米朝首脳会談で拉致問題を取り上げる意向を示しました)。

一方のトランプ氏は、中間選挙を意識し、日本からとれるだけとって成果をアピールするつもりです。成果としては、まず日米二国間協議に持ち込み、有利な力をもって米農産物、自動車の輸出拡大、対日赤字の大幅削減を約束させる意向のようです。

対日赤字削減の一環として、日本が米国のミサイルなど武器の大量購入を約束し、自動車輸出の自主規制を促す可能性があります。また、農産物面では、米国の遺伝子組み換え種子の受け入れ、専用農薬の受け入れを求めてくる可能性があります。安倍総理がどこまで防御できるかです。

安倍首相は会談後に退陣を迫られる

結果としては、拉致問題は一応「聞き置いた」形にするものの、具体的には行動はしてもらえず、反面、二国間協議(FTA)を受け入れさせられ、農産物や自動車で大幅譲歩させられるリスクがあります。日本の農業や自動車関連には無視できない影響が及ぶことになります。その場合、安倍総理は「得点」にならず、帰国後に「退陣」を求める嵐にさらされます

拉致問題を「聞き置いた」ことで、しばらく期待を持たせる可能性はありますが、北朝鮮が頑なに拒否しているだけに、拉致問題はなかなか埒が明かないかもしれません。中国が日本に接近していますが、これも安倍政権を支援するというより、今の政権なら得るものが大きいと見られている可能性があり、外交で起死回生、というのは期待が大きすぎるように見えます。

もり・かけ、日報、財務次官のセクハラ疑惑と、どれも破壊力の大きい爆弾で、これが同時に破裂すれば、安倍退陣の声は一層強まると見られます。

Next: 今国会中に退陣決断か。日本経済への影響は?



アベノミクス終焉も、長い目で見れば経済成長に繋がる

今国会中に決断する可能性があります。その場合、総理が任命した日銀のリフレ派は力を失い、物価目標の見直しとともに大規模緩和は次第に修正される方向と見られます。少なくともイールドカーブは引き上げられるでしょう。

政策の主眼が企業から家計にも配慮され、国家改革特区も見直しが必要になります。財政の大盤振る舞いは修正され、財政金融政策からの「リフレ策」は後退すると見られます。

その分、為替は円高にブレますが、金融セクターの経営環境は最悪期を脱し、収益に改善期待が出て、金融株が買われやすくなります。消費、内需関連にもプラスです。

企業への後押しが弱くなるように見えますが、結果的に資源配分の歪み(企業収益増、賃金消費低迷、企業の内部留保増)が是正され、その分経済効率が改善し、国内市場回復期待から設備投資意欲向上も期待されます。国有財産が特定の個人に優先配分されることなく、広く国民のために利用されれば、これも効率アップとなります。

これまで企業利益を促進しながら、その多くが内部留保という貯蓄になり、国内需要を抑制していた分が改善されれば、経済成長にはむしろプラスになります。

アベノミクス終焉が一旦は株売り・円高に作用するとしても、長い目で見れば国内需要の維持拡大で収益が支えられ、株価の押し下げも長くは続かないと見ます。

悪徳代官が一部の業者と手を組んで利益をむさぼる経済がベストのはずがありません。トランプ台風にみすみす農業や自動車、予算がむしり取られる前に、政権交代した方がよかったかもしれません。


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・無視できない政治混乱の影響(4/18)
・無理筋な日銀の物価目標(4/16)
・米為替報告書に注目(4/13)
・米はシリアで多国間軍事対応を検討(4/11)
・安倍政権維持への3つのハードル(4/9)
・物価上昇の内容が変わる(4/6)
・FRBはどこまで利上げできるか(4/4)
・キーパーソンはH.キッシンジャー氏(4/2)

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3月配信分
・ハイテク株にもトランプ・リスク(3/30)
・見えてきた点と線(3/28)
・見えてきたドル円の100円割れ(3/26)
・姿を現したパウエルFED(3/23)
・自動車業界と流通業界とのコラボ(3/19)
・日銀の金融政策も政権如何(3/16)
・安倍政権に春の嵐(3/14)
・雇用絶好調でなぜ賃金が上がらない(3/12)
・金利差円安論はすでに破たん(3/9)
・二転三転する黒田発言の真意は(3/7)
・トランプならではの貿易戦争リスク(3/5)
・エネルギー株に3つのリスク(3/2)

2月配信分
・親子バトルが銀行株を圧迫(2/28)
・裁量労働制論議で露呈した日本の問題(2/26)
・中央銀行の支配者(2/23)
・半島融和の裏で中東に火種(2/21)
・(金利差・ドル円・株の関係が崩れる2/19)
・米国債のバブル性(2/16)
・トランプ予算教書に2つの危険性(2/14)
・日銀人事の裏側(2/13)
・市場不安定化が3月利上げの負担に(2/9)
・適温経済と適温相場は別(2/7)
・米金利とドル円の関係、ここに注意(2/5)
・米金利高が日本の投資家を襲う(2/2)

1月配信分
・個人消費の低迷に歯止めがかからず(1/31)
・物価本位主義見直しの時(1/29)
・安倍総理の密かな戦略を探る(1/26)
・規律を失い惰性に走る財政金融政策(1/24)
・米長期金利上昇は「吉」か「凶」か(1/22)
・強まる中国への風当たり(1/19)
・地政学リスクとビジネス・チャンス(1/17)
・粉砕される円安期待(1/)
・デフレ脱却宣言を拒む実質賃金の低迷(1/12)
・北朝鮮問題に新展開か(1/10)
・インフレ如何で変わる米国リスク(1/5)

12月配信分
・新年に注意すべきブラック・スワン(12/29)
・新年経済は波乱含み(12/27)
・日銀の過ちを安倍政権が救済の皮肉(12/25)
・金利差と為替の感応度が低下(12/22)
・インフレ追及の危険性(12/20)
・日銀が動くなら最後のチャンス(12/18)
・不可思議の裏に潜むもの(12/15)
・制約強まるFOMC(12/13)
・生産性革命、人材投資政策パッケージを発表(12/11)
・米国に新たな低インフレ圧力(12/8)
・政府と市場の知恵比べ(12/6)
・長短金利差縮小がFRBの利上げにどう影響するか(12/4)
・原田日銀委員の「緩和に副作用なし」発言が示唆するもの(12/1)

11月配信分
・中国リスクを警戒する時期に(11/29)
・会計検査院報告をフォローせよ(11/27)
・改めて地政学リスク(11/24)
・低金利で行き詰まった金融資本(11/22)
・内部留保活用に乗り出す政府与党(11/20)
・日銀の大規模緩和に圧力がかかった可能性(11/17)
・リスク無頓着相場に修正の動き(11/15)
・トランプ大統領のアジア歴訪の裏で(11/13)
・異次元緩和の金融圧迫が露呈(11/10)
・戦争リスクと異常に低いVIXのかい離(11/8)
・変わる景気変動パターン(11/6)
・日本的経営の再評価(11/1)

10月配信分
・日本の株価の2面性(10/30)
・FRBの資産圧縮が米株価を圧迫か(10/27)
・リセット機会を失った日銀(10/25)
・低インフレバブルと中銀の責任(10/23)
・フェイク・ニュースはトランプ氏の専売特許ではない(10/20)
・金利相場の虚と実(10/18)
・米イラン対立の深刻度(10/16)
・自公大勝予想が示唆するもの(10/13)
・中国経済に立ちはだかる3つの壁(10/11)
・自民党の選挙公約は大きなハンデ(10/6)
・当面の市場リスク要因(10/4)
・景気に良い話、悪い話(10/2)

9月配信分
・アベノミクスの反省を生かす(9/29)
・高まった安倍総理退陣の可能性(9/27)
・日銀も米国に取り込まれた(9/25)
・安倍総理の早期解散に計算違いはないか(9/22)
・日銀は物価点検でどうする(9/20)
・中国経済は嵐の前の静けさか(9/15)
・トランプ政権はドル安志向を強める(9/13)
・気になる米国の核戦略(9/11)
・日銀の政策矛盾が露呈しやすくなった(9/8)
・ハリケーン「ハービー」の思わぬ効果(9/6)
・北朝鮮核実験の落とし前(9/4)
・内閣府は信頼回復が急務(9/1)

8月配信分
・個人消費の回復に疑問符(8/30)
・あらためて秋以降の中国リスクに警戒(8/28)
・米債務上限引き上げかデフォルトか(8/25)
・利用される「北朝鮮脅威」(8/23)
・バノン氏解任でトランプ政権は結束できるか(8/21)
・日銀の「ステルス・テーパー」も円安を抑制(8/18)
・中国習近平長期政権の前途多難(8/16)
・北朝鮮の行動を左右する周辺国の事情(8/14)
・経常黒字20兆円強のデフレ圧力(8/9)
・日銀の物価目標が最も現実離れ(8/7)
・内閣改造効果に過大な期待は禁物(8/4)
・ユーロ悲観論が後退、なお先高観(8/2)
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マンさんの経済あらかると』(2018年4月18日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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