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市場全体が割高のいま、それでも割高な優良株へ投資すべきか?=栫井駿介

日米では長期的な上昇相場が10年続き、市場全体が割高となっています。割安な優良銘柄はあまり残っていない現状で、バリュー株投資家は何をすべきでしょうか?(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

割高なら大きな下げは来る。バリュー株投資家が取るべき行動は?

割安な優良銘柄は残っていない?

日米については、長期的な上昇相場が10年続き、市場全体が割高となっています。特に、安心して保有できる優良銘柄については割安なものはあまり残っていません。

日経平均株価 月足(SBI証券提供)

NYダウ 月足(SBI証券提供)

多くの投資家は、相場の割高感や不透明感を持っています。一方で、これまで投資していれば儲かる状況だったので、その「おいしさ」も忘れられずにいるというジレンマに襲われているのです。

優良銘柄へ資金が流れている

このような時に起こるのが、「質への逃避」です。一般的には国債などの安全資産に資金が集中することを意味しますが、ここでは優良銘柄へ資金が流れていることを示します。

国債は利回りが低下していることや金利の上昇(価格は低下)が見込まれることから、むしろ敬遠されている状況です。それなりのリターンを見込め、かつ値下がりリスクが低い投資対象として誰もが認める優良銘柄に資金が流れ込んでいるのです。

米国株で言えば、Amazonやネットフリックスです。これらのPERは80倍を超え、現在の利益水準ではとても正当化できない水準となっています。日本株で言えば、オリエンタルランド(PER47倍)、ファーストリテイリング(39倍)、ピジョン(40倍)などです。

もともとPER水準の高い銘柄群ではありますが、ここにきてさらに高止まりする様子が見られます。「PERが高くても下がらない」という点は、業績不振企業や新興企業に投資するよりは安心感があるかもしれませんが、下がらないのは上昇相場での経験則にすぎません

バリュー投資で知られ、当社推奨書籍『投資で一番大切な20の教え』(日本経済新聞出版社)の著者であるハワード・マークス氏は、全員が同じ方向を向く投資方法に警鐘を鳴らします。

1970年前後の米国では「ニフティ・フィフティ」(素晴らしい50銘柄)と呼ばれる銘柄群への投資が隆盛しました。IBMやマクドナルド、GEなど今でも優良企業としてその名をとどろかせる企業群が並びます。現代からさかのぼっても、企業自体が「優良」であることは間違いありませんでした

問題は株価です。ニフティ・フィフティのPERは40~60倍で取引され、100倍を超えるものもありました。それでも、投資家は「値下がりしない」という安心感から、株を保有し続けたのです。

しかし、FRBが金利引き上げに舵を切ると、株式市場から資金が枯渇してきました。当然株価は下落しますから、投資家は不安になります。株を売ろうと考えると、割高な銘柄が優先されることになるため、ニフティ・フィフティは他銘柄以上に売り込まれました。50銘柄のうち27銘柄は高値から84%も下落したと言います。

米国ではその後株式市場ブームが去り、「株式の死」と言われる10年間を迎えることになります。

Next: 特別なことは一切しない。バリュー投資家が取るべき行動とは?



いい株が安くなるのを待って買い、じっくり上がるのを待つ

このような相場でバリュー株投資家が取るべき行動は何でしょうか。私からアドバイスできることは「難しいことはしない」ということです。

優良株への資金集中で、これらの株価が短期的には上昇する可能性は否定しません。しかし、優良銘柄でもPERが高ければ、やがて大きな下落がやってきます。その前に逃げればいいと思うかもしれませんが、株価は日々アップダウンを繰り返しますから、どれが本当の下落なのか見極めるのは容易ではありません

暴落は急激に訪れます。直前で逃れることはほとんど不可能と思った方が良いのです。

そもそも、「いつか逃げよう」と考える投資は、精神衛生上望ましくありません。投資が実生活に悪影響を及ぼすようなことになれば本末転倒です。精神的に苦しい投資はなかなか続かないでしょう。

バリュー株投資家は、急ぐ必要はありません。ニフティ・フィフティの例で言えば、株価が下落した後に訪れた「株式の死」の10年間でせっせと仕込みを行えば良いのです。

成果が出るまでには時間がかかるかもしれませんが、それこそ株式投資の王道です。いくら株価が下がったとしても、企業の価値が変化するわけではありませんから、株価が下がってから優良企業に投資しても決して遅くはないのです。

いい株が安くなるのを待って買い、じっくり上がるのを待つ」。このスタイルを確立できれば、長期投資で成功する確率を大きく高めることができるでしょう。


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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2018年7月5日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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