いつの日か誰もが迎える定年退職。これは仕事からの収入がなくなるということも意味します。インデックス投資アドバイザーのカン・チュンドさんは「定年後は誰もが公的年金やその他の年金、自己資産を取り崩しながら、毎月の収入を把握し、支出を管理しながら生活していくことになる。これって、それなりのスキルが必要だと思いませんか?」と、その難しさを指摘します。そこで重要になるのが資産運用。今回は、定年退職後の生活をより豊かにするために守るべき5つの資産運用ルールをご紹介しましょう。
幸せなセカンドライフを送るために守るべき5つの資産運用ルール
資産運用ルール(1)~定年退職後も資産運用は続ける
よく、アメリカ人はリタイアを指折り数えて「とても楽しみ!」と言いますが、日本人はリタイアのことを考えると、「とても不安だ!」と口にします。
同じリタイアなのに、Why?
日本人は定年退職のあとの、お金の管理のことをちょっと後ろ向きに捉えすぎではないでしょうか。より正確にいうと、わたしが先ほど「取り崩し」と言ったように、「セカンドライフでは、お金が減っていくばかりだから、あんまり使い過ぎないようにしないとね。ああ、心配だ、心配だ……」となってしまうわけです。
たしかに取り崩すのは取り崩すのですが、それは「運用をしながら、取り崩す」という意味です(ここ、重要!)
「運用」と「取り崩し」は、両立できるのです。と言いますか、長生きするリスクに対応するために、両立する必要があります。
資産運用ルール(2)~定期収入型の商品を持つ必要はない
よ~く考えてみてください。
そもそも、金融機関側、あるいは住宅・不動産業界側が、特定の世代をターゲットに、特定のキャッチコピーで、特定の金融商品(毎月分配型ファンドや、個別の外国債券、ワンルームマンションなど)を勧めてくるのにはどこか胡散臭さが漂います。
インカム(定期収入)は、自ら投資している金融商品を定期的に部分解約することで、自分で作ればよいのです。それが、もっともコストが安く、もっとも効率的で、もっとも自由度が高い資産管理のやり方であると考えます。
「運用が必要っていうことは分かったけど、じゃあ、どのくらい運用すればいいの?」ハイ、いい質問です。
それは、「あなたがこの世からサヨナラするときに、自身のご資産をどうしておきたいのか?」によるのです。
今、仮に退職金を含めて、あなたに5000万円の資産があるとしましょう。お子さんやお孫さんの顔、甥っ子さんや姪っ子さんの顔でも構いません、思い浮かべてみてください。
あなたはこの5000万円の資産を、自分がこの世からサヨナラするまでに、A、B、C、のうちどのようにするのを希望されますか?
- A.8000万円とか9000万円とかにできるだけ増やしたい!
- B.その間の物価上昇分の実質的な目減りは許容する。同じ5000万円くらいでいい!
- C.3000万円とか2000万円とかに減っていて全然かまわない!
「良い」「悪い」の問題ではありません。これは、あなたという人間の「価値観の問題」です。
資産運用ルール(3)~最終的にどれくらいお金を増やすかイメージする
そもそも、ABCのどれがあなたの希望なのかを決めないと、5000万円の資産の中で、投資に回さないお金「安全資産」と、投資に回すお金「ポートフォリオ」の割合を決めることすらできません。
もしAの「できるだけ増やしたい!」なら、ある程度のリスクを背負って、投資に回す「ポートフォリオ」の割合を多めにする必要があります。
逆にCの「減っていて全然かまわない!」なら、そんなにリスクを取る必要はなく、安全資産の割合を多めにしておけばよいわけです。
お金を増やすためのリスクは、それが必要な人が取るべきリスクであって、それが必要でない人が、わざわざ取るべきものではありません。
実は、上記のABCの質問は、わたしがシニアのお客様にコンサルティングをする際に必ずお聞きすることです。
あと、これは「周辺のお話」になりますが、セカンドライフでのトータル資産を増やす1案として、もし、郊外に一戸建ての家をお持ちで、かつ、部屋が余っているような状況なら、手ごろな大きさの中心部のマンションなどに買い替えることをお勧めします。
日本の住宅地の不動産価格は人口減少、超少子高齢化の進展で、今後下落していく可能性がきわめて高いです。
それから、もし終身保険をお持ちなら、あなたが元気なうちに解約して、今あるまとまったお金にプラスしてあげてください。
あなたが死んでから出る死亡保険金に、どれほどの意味があるのでしょうか?それよりも、あなたやあなたの配偶者が元気なうちに、そのお金を生かしてあげてください。
いずれにしても、今、日本に住んでいる定年退職前後の皆さんは人類史上もっともエネルギッシュなシニアであるはずです。定年退職を機に、膨大な自由時間を手に入れられる。これは、まさに人生からの贈り物です。
決して傍観者にならずに、セカンドライフという舞台に上がって、大いに自身を演じて、楽しむべきだと思いませんか?資産管理はそのための手段に過ぎないのです。
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「同じ5000万円くらいでいい!」というBを選んだあなたは?
あなたは5000万円の資産について、自分がこの世からサヨナラするときに、Bの「その間の物価上昇分の実質的な目減りは許容する。同じ5000万円くらいでいい!」と考えているとします。
あなたのふたりのお子さんはすでに独立していて、あなたと配偶者の公的年金を合わせて、毎月20万円の収入があるとします。
でも、セカンドライフを楽しく過ごすためには「あーあ、あと、毎月15万円は欲しいな……」と考えています。毎月のプラスアルファがあと15万円ということは、年間で180万円ですね。
さて、あなたの5000万円のうち、枕を高くして眠るために、投資には回さず、まさかの時も安心な緊急避難用の資金として1000万円はキープしておきます。
つまり「ポートフォリオ」を組むのは4000万円のみ。あなたの「ポートフォリオ」は、国内債券20%、先進国債券30%、日本株式10%、日本を除く全世界株式40%としましょう。
あなたは、4000万円のポートフォリオを運用しながら、年間180万円を部分解約していくことになります。
「えっ、でも、どんなふうに?」ハイ、保有している資産の配分通りにです。
国内債券20%、先進国債券30%、日本株式10%、日本を除く全世界株式40%という、保有するすべての投資信託を、1年に1回つまみ食いするイメージなのです。
資産運用ルール(4)~ポートフォリオからの部分解約は資産の配分通りに
ポートフォリオからの解約は、資産の配分通りに行う。これを堅持することが、すなわち「ポートフォリオを適切に管理する」ということなのです。
さて、「年間180万円を部分解約する!」というポリシーでもよいのですが、あなたにはさらに高みを目指してほしいのです。それは、「パーセンテージで資産を管理する」ということです。
4000万円のポートフォリオから年間180万円を部分解約することをパーセンテージ(引き出し率)に直すと、年4.5%になります。
あくまで長~い時間軸をイメージして欲しいのですが、たとえばポートフォリオを年4.5%で運用できたとして、毎年4.5% 資金の引き出しを行えば、30年経ってもポートフォリオの名目価値は変わりません。
もちろん、毎年の結果リターンはバラバラです。20年、30年という長期でならして考えています。
ちょっと想像してみてください。あなたのポーフォリオが膨らんだ年、すなわち儲かった年は、同じ4.5%でも引き出しの「金額ベース」は増えますね。
逆に、ポートフォリオが縮んでしまった年、すなわちマイナスになった年は、同じ4.5%でも、引き出しの「金額ベース」は減ります。
ココ、想像力が必要です。
ポートフォリオが縮んだ年に、前の年と同じ「金額ベース」で引き出しを行ってしまうと、ポートフォリオの「毀損率」が高くなってしまうのです。
わたしは、「長生きするリスク」に対応するためには、ポートフォリオを「%」で管理する。これが鉄則であると考えます。
その代わり、ポートフォリオがマイナスの年も、必ず引き出しは行ってくださいよ。なぜなら、この「%」によるポートフォリオ管理は、あくまで、あなたが楽しくお金を使うために行うものだからです!
わたしはこの15年間、たくさんのシニアのお客様と相対してきました。そこで学んだことがひとつあります。
それは、人がお金を積極的に使えるのは、60代ということです。わたしが見た限り、70代の半ばを過ぎると、もう人は、なかなかお金を使えません。
資産運用ルール(5)~ポートフォリオから解約したお金は使い切る
その年、ポートフォリオから解約したお金は使い切る。すなわち、お金を使うエネルギーを失わないこと!
29歳のあなたも、44歳のあなたも、58歳のあなたもよーく聞いてくださいよ。仮にあなたがこの世からサヨナラするときに、「65歳時点の資産残高より減っていてもよい」と割り切れるなら、ポートフォリオを年4.5% で運用しながら、60代は毎年5.5%の資金を引き出し、70代は毎年5.0% 資金の資金を引き出し、80代は毎年4.5% の資金を引き出すというアレンジ型でもぜんぜんOKだと思います。
定年退職後も資産運用は続くということは、セカンドライフでも、ポートフォリオのリバランスは続きます。
たとえば、4月と10月にリバランスを行う人は、4月か10月かを年に1度の引き出しの月にしてください。リバランスとポートフォリオからの解約を同時にしてしまうのが、いちばん効率的です。
もちろん「69歳になってリバランスなんて考えたくない」という人は、「世界経済インデックスファンド」のようなバランス型ファンドに資産をシフトしておけばよいのです。
『カン・チュンドの 投資信託 テッテイ 攻略法』2015年11月8日号、11月15日号より一部抜粋、再構成
※太字、見出しはMONEY VOICE編集部による
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