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自宅の生前贈与を無税で行える「おしどり贈与」は、節税にほんとうに効果的なのか=小櫃麻衣

贈与税の節税を考えたとき、おしどり贈与という方法があります。これは果たして本当に効果的なのでしょうか。自宅の生前贈与における注意点について解説します。(『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』小櫃麻衣)

生前贈与をすれば、必ずしも節税になるとは限らない…

税率が最も高い贈与税を無税にするケース

生前贈与を上手く使いこなせば、将来納めることになる相続税を大幅に減らすことが出来るというのはよく聞くことだと思います。なぜ、生前贈与が相続税対策に繋がるのかというと、贈与を行うことによって本人の所有財産を減らすことができるから。

つまり、相続税の課税対象となる範囲を減少させることができるというわけです。

したがって、不動産などの評価額が何千万円にもなる財産を生前のうちに贈与しておけば、相続時にその不動産が相続財産としてカウントされずに済むので、残された家族の相続税負担を軽減させることができます。

しかし、贈与税は税率が最も高い税金で有名ですよね。

よって贈与税を一銭も支払わずに、数百万円・数千万円の贈与を行うのは正直難しいのが現実なのですが、贈与税の特例を用いることで、無税で贈与を行うことができるケースもあります。

相続税対策の一環でこういった贈与税の特例を使い、将来の相続時に所有財産を最低限まで減らしておこうとする方も大勢いらっしゃります。

しかし、贈与税の特例には思わぬ盲点が隠されていることが多いため、実際に行動に移す際には、細心の注意が必要となります。

そこで今回は、自宅の贈与における注意点について解説していきましょう。

“自宅の生前贈与を無税で行う”と聞くと、真っ先に思い浮かぶのは、おしどり贈与ではないでしょうか。

おしどり贈与とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で行われる自宅の贈与、もしくは自宅の購入資金に充てるための金銭の贈与であれば、2,000万円の非課税枠の他に年間110万円の非課税枠をプラスした2,110万円までの贈与まで贈与税が課税されないといった制度を指します。

2,110万円までの自宅にかかる贈与は無税で行える

ちなみに、おしどり贈与と呼ばれているのはあくまで通称で、正式には夫婦間で居住用不動産を贈与した際の配偶者控除という名称です。

配偶者控除と聞くと、配偶者の相続により取得した財産が1億6,000万円もしくは配偶者の法定相続分のどちらか大きい金額までは相続税が課税されないといった制度を思い浮かべるかもしれませんが、自宅の贈与における配偶者控除も存在しますので、混合しないようにしましょう。

話が脱線してしまいましたが、おしどり贈与では、この特例による非課税枠2,000万円にプラスして贈与税の非課税枠年間110万円を合計した2,110万円までの贈与であれば、非課税で自宅にかかる贈与を行うことが出来ますので、自宅の評価額が2,110万円以下であれば無税で贈与ができ、さらに住宅購入資金に充てるための金銭の贈与であっても同様に2,110万円までは無税というわけです。

2,110万円以下の贈与で済むのであれば、無税で自宅にかかる贈与が行えるため、相続時の所有財産を減らすことにも繋がり、相続税対策に一役買う!と思っている方は多いのですが、盲点が隠されています。

たしかに、自宅にかかる贈与が2,110万円まで無税というのは聞こえがいいですが、相続が発生し、配偶者が相続人となる場合には、配偶者に向けた税制面での優遇措置が数多く設けられています。

代表的なものでいえば、先ほど触れた配偶者控除。

先ほど説明したように、配偶者が相続人となる場合には、配偶者の法定相続分か1億6,000万円のどちらか大きい金額までは相続税が課税されません。

配偶者控除を適用させたことによって、相続税の納税義務が生じなかったというケースも少なくありません。

つまり、おしどり贈与によって自宅を贈与しなくても、相続時の配偶者控除によって相続税が課税されずに済む可能性が非常に高いのです。

Next: 相続税対策をするにあたり、そのほかに注意すべき点とは?



おしどり贈与を使ったほうが、税金が高くなる可能性も

他にも注意点が存在します。それは、小規模宅地の特例

小規模宅地の特例とは、死亡した方が所有する自宅の土地部分を相続する際に、最大で評価額を80%減額出来る制度です。

この特例を使うことが出来れば、1億円の土地であっても、2,000万円の評価になるわけです。

小規模宅地の特例では、死亡した方が所有する自宅を誰が相続するのかによって適用させることができるかどうかが変わってくるのですが、配偶者が相続する場合には、無条件で適用させることが出来るのです。

つまり、配偶者が自宅を相続することになれば、無条件で8割引となるのです。

このように、配偶者が相続人となる場合には、税制面での優遇措置が数多く設けられているので、わざわざおしどり贈与を使わなくても、将来相続税が発生する可能性が低いのです。

そしておしどり贈与で最も気を付けなければならないのは、贈与税は無税であってもその他の税金が課税されるということ。

不動産を取得する際には、不動産取得税と登録免許税を支払わなければなりませんよね。

当然、相続によって不動産を取得する際にも、このような税金が課税されるわけですが、贈与によって取得した不動産に適用される税率はかなり高く設定されているのです。

相続・贈与によって、不動産を取得する際に課税される不動産取得税と登録免許税の税率を比較してみると、相続によって不動産を取得した場合には、不動産取得税はゼロ、登録免許税は0.4%

対して、贈与によって不動産を取得した場合には、不動産取得税は3%、登録免許税は2%

つまり、贈与税を一銭も支払わずに自宅の贈与が出来たとしても、その他の税金が大きく課税されることになり、相続によって不動産を取得した場合にはかからない不動産取得税までも納税しなければならないのです。

おしどり贈与は、住宅の購入資金に充てると効果的

また、おしどり贈与によって取得した不動産に関しては、特別受益、つまり贈与を受けた相続人と受けていない相続人の間に生まれる不公平を是正するための措置の対象になってしまうというのもデメリットの一つですが、相続法改正により特別受益の対象外となりましたので、正式に法律が施行された後であればこの点については気にする必要はないでしょう。

さておしどり贈与の制度概要だけをみると、メリットしかないような気になってしまいますが、今回解説したように、デメリットの方が多い制度であるかもしれませんね。

ただし、おしどり贈与では自宅の贈与だけでなく、住宅の購入資金に充てるための金銭の贈与であっても同様に2,110万円までは無税です。

住宅の購入資金のための贈与であれば、不動産取得税や登録免許税などの心配はないので、最大限に活用させることができるでしょう。

夫婦で長年住んでいた自宅を手放し、新たに自宅を購入するというのは少数派であるかもしれませんが、万が一このような選択肢を考えているのであれば、おしどり贈与を使ってみるのも良いかもしれないですね。

さて、生前贈与は相続税対策に繋がるというのは、決して間違えた情報ではありません。

しかし、特例を用いて贈与を行う際には、その制度にはどんな盲点が隠されているのかまで把握したうえで、行動に移さなければ後に後悔することになるかもしれません。

残された家族が税負担の面で困らないようにするためにも、制度概要を隅々まで把握することを心掛けましょう。

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FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』(2019年1月30日・2月1日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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