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甘利大臣「ここが正念場」のカン違い根性論で日本の貧困が加速する=三橋貴明

総務省の調査によると、2015年10月の2人以上世帯の実質消費は対前年比で▲2.4%。消費税増税の影響を受けた2014年の実質消費と比べても大幅なマイナスとなりました。

「ここが正念場」という甘利明経済財政・再生相に対し、作家の三橋貴明さんは「抽象用語で乗りきろうとしている」としたうえで、継続的な経済成長に必要なのは、外国人労働者で「労働力」を確保することではなく「生産者1人の生産性を拡大すること」という見方を示しています。

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015年11月28日号、29日号より
※本記事のタイトル・リード文・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

経済成長に必要なのは「労働力」ではない、「生産性の拡大」だ

まさに「奈落」。日本国民の貧困化が止まらない

総務省が11月17日に発表した10月の家計調査によると、2人以上世帯の実質消費は対前年比▲2.4%に終わりました。実質的に、モノやサービスを購入できなくなっている。日本国民の貧困化が続きます。

また、10月の勤労者世帯の実収入は、1世帯当たり48万5330円となり、実質前年比で▲0.9%。まずいことに、実質のみならず、名目でも対前年比▲0.6%となってしまっています。

日本国民は、14年4月の消費税増税で、実質賃金を一気に引き下げられました。当然、実質消費も大幅にマイナス。その14年と比べてすら、15年の日本国民は実質の所得や消費を減らしている(減っている)という話です。

日本の実質消費(二人以上の世帯)の推移(対前年比%)

2014年10月の実質消費は、対前年比▲4.0%と、悲惨な数値に終わりました。その14年10月と比べてすら、15年10月の実質消費は▲2.4%となってしまったのです。

まさに、奈落という表現がぴったりです。

甘利明経済財政・再生相は27日午前の閣議後の記者会見で、同日に総務省が発表した10月の家計調査で実質消費支出がマイナスとなったことについて「ここが正念場になっているのだと思う」と話した。失業率などの指標が改善している中での減少に「良い状況が整いながら、いまひとつ将来に対する消費者の自信が持てないところ」との見方を示した。

今後はアベノミクスの恩恵を受けていない人にも安心感を与えて消費を底上げするなど「しっかりと経済を回していく要素に活力を投入して、成長へと結びつけていきたい」と話した。

出典:甘利経財相、実質消費支出の低迷「正念場になっている」 – 日本経済新聞(2015年11月27日)

今度は「正念場」「安心感」ですか……。

この手の抽象用語で政治家や官僚が「乗り切ろう」としている以上、我が国が「国民が豊かになる日本」を取り戻せる日は訪れないでしょう。

安倍政権は消費を増やす基本を理解していない

経営者は100%同意してくれるでしょうが、我々が安心して投資を増やせる環境とは、「仕事が溢れている環境」になります。

目の前に手に余るほどの仕事があり、しかも継続的に増えていくことが期待されて初めて、経営者はおカネを借りてでも設備投資を増やしていきます。

消費者も同じです。消費者が安心して消費を増やせる環境とは、「雇用が安定し、所得が継続的に増えていく環境」になります。

現在、十分な所得を稼いでおり、しかも継続的に仕事を続けられることが確実になって初めて、消費者は「安心して」消費を増やしていくことになります。消費者は「生産者」でもあるのです。

ところが、安倍政権は口先では「消費者に安心感を」などと言いつつ、労働者派遣法改正外国人労働者受け入れ拡大等、雇用を不安定化させ、生産者の実質賃金を引き下げる政策ばかりを推進しています。

挙句の果てに「一億総活躍」ときたものです……。すなわち、1億人が生産者として活躍できるよう、労働市場に日本人を投入していくという話なのでしょうが、当たり前ですが需要が不十分な状況で労働者の投入ばかりを増やせば、実質賃金は下がり、雇用は不安定化します。

安倍政権は自ら「生産者=消費者」の自信を奪い、不安感を高めておきながら、「消費者に安心感を」などと適当なことを言っているわけです。

結局、甘利大臣や安倍総理を含め、現在の安倍内閣の閣僚たちは「経済」を理解していません。あるいは「理解していないふりをしている」のです。

実質消費を高めるには、実質賃金を拡大する必要があるという基本的なことすら理解しておらず、「安心感」「自信」といった抽象的な用語で説明しようとするわけです。

ちなみに、甘利大臣は「良い状況が整いながら」などと、例により抽象的でよくわからない表現をしていますが、消費者にとって「良い状況」とは、生産者として「実質賃金が上昇し、雇用が安定化する環境」を意味するのです。

「消費者」の消費を増やすためには、「生産者」の実質賃金上昇雇用安定化が不可欠である。この基本を、政治家の頭の中に叩き込む必要があります。

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高度経済成長期の日本の成長率が他国を凌駕した理由

1950年代からオイルショックまで、西側先進国は「人類として前例がない」急成長時代を経験しました。日本の高度成長期は、ドイツの「経済の奇跡」、フランスの「栄光の30年間」の時期に該当します。当時の西側先進国の急成長は、総称として「黄金の四半世紀」と呼ばれたりしています。

とはいえ、高度成長期の各国の成長率には、やはり「差」がありました。50年代から70年代にかけ、日本の成長率は10%近い(しかも「実質」で)状況だったのですが、ドイツやフランス6%前後アメリカ4%程度でした。

すでに、世界最大の経済大国に成長していたアメリカはともかく、独仏両国の経済成長率が日本に及ばなかったのはなぜなのでしょうか。日本人と、独仏両国人の「能力」や「努力」の差なのでしょうか。そうは思いません。

データを見れば、日本と独仏両国の経済成長率の差が、「生産性向上の速度の違い」により発生したことが分かります。総人口や生産年齢人口、あるいは輸出の増加ではなく、「生産者1人当たりの生産の拡大」のスピードが違ったことが、3カ国の経済成長の速度に差をもたらしたのです。

継続的な経済成長路線を歩むための「正解」とは

それでは、なぜ日本の生産性向上速度が、独仏両国を上回ったのか。独仏両国は「外国移民」を受け入れ、インフレギャップを「労働投入量」を増やすことで埋めました。それに対し、日本はインフレギャップを「労働者」で埋めることができませんでした。高度成長期の日本は、完全雇用が成立していた上、近隣諸国から外国人労働者を受け入れることも不可能でした。

というわけで、日本は「生産者1人当たりの生産の拡大」すなわち生産性向上でインフレギャップを埋めるしか道がありませんでした。それが、幸いしたのです。生産性が向上すると、「定義的に」国民が豊かになります。豊かになった国民は消費や投資という需要を増やすため、またもやインフレギャップ。

生産性向上によりギャップを埋めても埋めても、すぐにインフレギャップが生まれ、いつまで経っても生産性向上の努力を続けなければなりませんでした。そして、それが「正解」だったのです。

継続的な経済成長は、インフレギャップ下の生産性向上以外の理由では、まず起きません。そして、日本の高度成長期は、まさにインフレギャップ下の生産性向上により、独仏両国の2倍近い平均経済成長率を達成することができたのです。

この「史実」を前にしながら、あるいは現在の「移民国家・欧州」の混乱を目にしながら、未だに、「人手不足を外国移民受入で解消を」などと主張する愚かな日本人が後を絶たないわけです。この手の連中との「言論戦」に勝たない限り、我が国が再び継続的な経済成長路線を歩む日は訪れないように思えるわけです。

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三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015/11/28号、2015/11/29号より

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