IMF(国際通貨基金)は11月30日、大方の予想通り、来年10月から中国の人民元をSDR(特別通貨引き出し権)構成通貨に採用することを決めました。
中国はこの決定に、中国の国際的な地位向上、改革成果が評価されたと勝利宣言をしていますが、それほど単純ではありません。米国が従来の反対を翻して、条件付き賛成に転じた背景には、中国に対する「危険な計画」がありそうです。(『マンさんの経済あらかると』)
※「SDR(Special Drawing Rights:特別引き出し権)」とは
金融危機時などに加盟国の外貨不足を補うための国際通貨基金(IMF)の準備資産。現在は米ドル(41.9%)、ユーロ(37.4%)、ポンド(11.3%)、円(9.4%)の通貨バスケットで構成され、1SDRは約1.37USDとなっている。
SDR採用は諸刃の剣。実質ドルペッグ廃止で大混乱の可能性も
人民元が円やポンドを上回る第3の通貨に
IMF(国際通貨基金)は11月30日、大方の予想通り、中国の人民元をSDR(特別通貨引き出し権)構成通貨に採用することを決めました。
来年10月以降、人民元はSDRの10.92%のシェアを配分されることになりました。
これに伴って各通貨のシェアが変わりますが、今回目立つのは欧州通貨の退潮です。前回2010年に決めたシェアでは、米ドルが41.9%、ユーロが37.4%、ポンドが11.3%、円が9.4%でした。
しかし、来年10月からは、ドルが41.73%とあまり変わらないのに対し、ユーロが30.93%に、ポンドが8.09%に、ともに大きく低下、円も8.33%に低下します。
これで人民元が円やポンドを上回る第3の通貨になります。
中国の勝利宣言の裏に、「米国の危険な計画」
中国はこの決定に中国の国際的な地位向上、改革成果が評価されたと勝利宣言をしていますが、それほど単純ではありません。
前にも紹介しましたように、米国が従来の反対を翻して、条件付き賛成に転じた背景には、中国に対する「危険な計画」がありそうです。
市場には、人民元のSDR構成通貨採用が決まれば、中国はもう改革は進めないとの見方もありますが、そうではないと思います。
来年10月までの改革と、それ以降の中長期的な改革とが必要で、そのやり方を間違えると、中国ばかりか、周辺国にも大きな波紋を投げかけることになると思います。
そこで1人ほくそえむのが米国というわけです。
実質ドルペッグの廃止で何が起こるか?
まず、人民元は基本的に米ドルにペッグした通貨ですが、SDRの構成通貨にドルペッグのまま入ることは前代未聞で、来年10月までに人民元相場をドルから離し、市場に任せた変動に切り替えねばなりません。
その段階で、これまでドルに引っ張られて上昇していた分がはげ落ち、人民元が大幅な下落を見せる可能性があります。
そうなると、中国から一層の資本流出が予想されるうえに、周辺国に通貨安戦争を巻き起こします。人民元の大幅下落は、周辺国にとっては「近隣窮乏化策」になるためです。
中国政府は、ここまで為替管理の都合上、資本の流出入を厳しく管理してきましたが、為替の自由化とともに、資本の自由化も求められます。それはIMFの条件でもあります。
そうなると、当座は資本の流入より流出が大きくなると見られます。人民元の先安観が強まれば余計拍車がかかります。これは意図しない金融引き締め効果を持ちます。
しかも、人民元の下落は、民間企業や個人の外貨建て債務を水膨れさせ、返済負担がより大きくなります。ドル建て債務やキャリーでの香港ドル債務が問題になります。
Next: 中国市場の混乱を予想する、欧米金融資本の「深謀遠慮」とは
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欧米金融資本の「深謀遠慮」
これらの改革がある程度進めば、世界の中央銀行が人民元を準備通貨として持ち始めるので、人民元安にも歯止めがかかり、人民元需要が高まれば、また上昇する可能性もあります。
しかし、これで安心というわけにはいきません。
人民元がSDRの構成通貨となった後は、かつての日本でも見られたような、金融市場での「国際化」で中国の金融市場が大きく揺さぶられます。
巨大な国有銀行がBIS規制の対象になり、自己資本規制で縛られるようになります。
80年代に日本の銀行は8%の自己資本を求められましたが、大銀行にはより高い数字が求められます。
中国の4大国有銀行は、世界での地位が高く、高い自己資本が求められますが、そう簡単にこれを満たせるものではありません。
欧米金融資本は、西側のルールで中国の金融市場を縛る過程で、中国市場で混乱が生じることを読んでいます。
資本不足の銀行には欧米資本が参加しようということになり、経営の実権を握ることも考えられます。
中国発の大混乱の可能性も
中国が金融の国際化を急げば、中国発の大混乱が生じるとの警告も見られます。
中国は日本の金融自由化、バブル、金融危機を見て研究したと言われるので、相応の対応をすると見られますが、やってみないとわからない面もあり、中国がこれらをどうかじ取りするかで、来年、再来年の世界経済は大きく変わります。
それほど大きな問題が控えているのです。
『マンさんの経済あらかると』(2015年12月2日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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