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イラクが捕虜にしたイスラム国兵士は「イスラエル軍の大佐」だった=高島康司

日本では、重要な事実がほとんど報道されなくなっている。例えば我が国の主要メディアは、先週行われたプーチン大統領のブリーフィングの具体的な内容を伝えていない。そのようななか、イランの政府系メディア『FARSニュース』が興味深い事件を報じた。イスラエル軍の将兵が「イスラム国」に参加している可能性である。(未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ/高島康司)

イスラエル軍将兵が「イスラム国」に参加、ロシアと不測の衝突も?

「悲願」達成に向け突き進むイスラエル

いまアメリカを始め、欧米諸国と有志連合諸国が「イスラム国」を実質的に支援しているが、前回はイスラエルが「イスラム国」を支援している理由と実態について詳しく解説した。

以前の記事でも解説したように、イスラエルは、1967年の第3次中東戦争で実効支配したシリア領のゴラン高原を拠点に「イスラム国」を支援している。

この地域にあるイスラエル軍の病院で「イスラム国」の戦闘員の治療に当たっているほか、イスラエル軍屈指の特殊部隊である「ゴラニ歩兵大隊」を通して、「イスラム国」の司令官や幹部クラスを訓練している。次の大規模な攻撃の目標がエジプトになるので、これに対応した訓練である。

イスラエルがこのように「イスラム国」を支援するのはそれなりの理由がある。それはイスラエルのエネルギー政策と深く関連している。

周知のようにイスラエルは、周辺を敵国に囲まれているため、周辺諸国からパイプラインでエネルギーを輸送するのが困難な状況にある。必要となる原油と天然ガスのほとんどは、地中海経由でタンカーで運ばれている。だが戦争の勃発でタンカーの輸送が困難になると、イスラエルは窮地に追い込まれる。

国内にエネルギーの供給源を持ち、エネルギーを完全に自給することが、イスラエルの安全保障上、悲願となっていた。

これまでイスラエル国内には油田もガス田も存在しないとされていた。だが、2013年、イスラエル第3の都市、ハイファの地中海沖に巨大なガス田が複数発見された。イスラエルの国内需要を十分に賄えるだけではなく、将来イスラエルが天然ガスの輸出国になれるだけの規模であった。

また、2014年にはイスラエルが実効支配しているシリア領のゴラン高原で、複数の大きな油田が発見された。国内の需要を賄うには十分な埋蔵量が存在している。

したがってもし、イスラエルがゴラン高原の油田を開発できれば、イスラエルは悲願だったエネルギーの完全な自給体制を築くことが可能になる。これは願ってもないことである。

一方、イスラエルに敵対的なシリアのアサド政権が存続する限り、ゴラン高原の油田を自由に開発することはできない。アサド政権はゴラン高原の領有を強く主張しており、油田の所有権もシリアにあると主張している。

イスラエルから見るなら、こうしたアサド政権を崩壊させ、イスラエルや欧米寄りの政権がシリアにできると、ゴラン高原を併合できるのでイスラエルのエネルギー自給体制構築の悲願は達成される。

このような視点から見ると、なぜイスラエルが「イスラム国」を支援するのかその理由がはっきりする。アサド政権に敵対し、これを打倒しようとしている「イスラム国」は、イスラエルから見ると、アサド政権排除という目標を達成するための道具だ。これがイスラエルが「イスラム国」を支援する理由である。

前回はこのような内容を詳しく解説した。

重要な事実を報道しない日本の主要メディア

あいかわらず日本の主要メディアでは、重要な事実がほとんど報道されなくなっている。先週プーチン大統領は大規模なブリーフィングを開催し、「イスラム国」が盗んだ原油を輸送するタンクローリーの隊列がトルコ国境を越えている衛星写真を提示しながら、トルコが「イスラム国」の原油を買っている確たる証拠を示した。

そして、このタンクローリーの隊列を運営しているのが、トルコのエルドアン大統領の長男の会社であることも暴露した。

このような事実の公表にもかかわらず、日本の主要メディアは「ロシアは、トルコがイスラム国の原油を買っていると非難。両国の激しい非難合戦が続いている」と一言で片付け、プーチン大統領のブリーフィングの具体的な内容は伝えなかった。

他方、トルコに関しては、1890年に和歌山県沖で難破したオスマントルコ海軍の軍艦から日本人が乗組員を救出した「エルトゥールル号遭難事件」がなんの脈略もなく繰り返し報じられている。

もちろん救出にあたった当時の和歌山県串本町の町民の努力は称賛に値するが、100年以上も前の事件がいまの時期に取り上げられるのは、トルコによいイメージを持つように仕向けるための印象操作にほかならない。

日本では、アメリカとそれにつらなる同盟国を絶対的な善とし、それとは相反する立場のロシア、イラン、中国などを悪魔化する勧善懲悪のシナリオに基づいた報道がなされている。

このシナリオに合致しない事実は排除され、シナリオの世界こそまさに現実であるかのようなイメージが喧伝されている。

これは、やはり同じシナリオが繰り返し演じられる水戸黄門のドラマとまったく同じようなものだ。ただ、水戸黄門をだれも現実の世界の事実とは思っていないのとは異なり、アメリカを絶対善とする勧善懲悪ドラマは、あたかもそれが現実であるかのような錯覚を作り出す。これは実に悪質である。

Next: 「イスラム国」にイスラエル軍の大佐が直接参加していたことが明らかに



「イスラム国」にイスラエル軍の大佐が直接参加していた

日本の報道がこのような状態なので、特にシリアと「イスラム国」に関する情勢は、ほとんど報道されることはない。そのため日本では、実際なにが起こっているのか皆目分からない状況が続いている。

そのようななか、イランの政府系メディア『FARSニュース』が興味深い事件を報じた。これは10月末に起こった出来事だが、最近明らかにされた。

イラク国内で「イスラム国」掃討作戦を実施していたイラク軍は、数名の「イスラム国」の戦闘員を捕虜にした。すると、そのうちの1人がイスラエル軍の現役の大佐であることが分かった。

捕虜となったのは、ユーシ・オウレン・シャーハク大佐で、イスラエルが実効支配しているシリア領ゴラン高原に展開する特殊部隊の「ゴラニ歩兵大隊」に所属する現役の大佐であった。

前回の記事にも詳しく書いたように、ゴラン高原の「ゴラニ歩兵大隊」は「イスラム国」の幹部クラスに軍事訓練を実施している。「イスラム国」が次の活動拠点となるエジプトに侵入するために必要な訓練を行っているのだ。

ところが、今回「ゴラニ歩兵大隊」の現役の大佐が捕虜になったことで、「ゴラニ歩兵大隊」は「イスラム国」の戦闘員を訓練しているだけではなく、イスラエル軍の将兵が「イスラム国」に参加している可能性が極めて高いことが明らかになった。

もしロシア軍とイスラエル軍が衝突すれば――

もしこれが事実であれば、この状況は潜在的に大きな危険性を内包していることが分かる。

いまロシアでは、「イスラム国」を完全に壊滅するためには、地上部隊の派兵はどうしても必要だとの主張がある。もしロシアがこれを実施した場合、「イスラム国」に参加しているイスラエル軍とロシア軍が衝突する可能性も決して否定できないことになる。

たしかに今回、イスラエル軍の大佐が捕虜となったのはイラクであった。いまロシアが空爆している地域はシリアに限られる。したがって、ロシア軍の地上部隊がイラクに展開しない限り、このような衝突は起こらないとも言える。

しかしイスラエル軍が、シリアの「イスラム国」には絶対に参加していないと言うことはできない。今回たまたまイラクで捕虜となっただけで、「イスラム国」の本拠地シリアにも相当数が実際にいる可能性があるはずだ――


未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガは有料メルマガです。今回ご紹介した2015年12月11日号では、この続きとして以下の内容を解説しています。

欧米諸国と有志連合はなにを攻撃しているのか?

トルコ軍のイラク派兵

トルコ軍の本当の目的

高まる敵対関係と緊張

止まらないトルコからの資本流出

IMFが招集した専門家会議

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【関連】北朝鮮とヒラリー、ゴールドマンを結ぶ点と線~半島有事は近いのか=高島康司

未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』(2015年12月11日号)より一部抜粋
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