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超大型上場のウーバー、なぜ株価は不調?脱却困難な赤字経営と、自動運転がもたらす希望=栫井駿介

5月10日、ライドシェアサービスを提供するUberがNY証券取引所に上場しました。現在は公開価格を下回り苦戦していますが、将来はGoogleやAmazonと肩を並べる企業となるのでしょうか?その可能性を探ります。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

自動運転が普及すれば大躍進?ウーバーはGoogleと肩を並べるか

ウーバーは第2のフェイスブックになれるのか?

5月10日、ライドシェアサービスを提供するUber<UBER>がニューヨーク証券取引所に上場しました。時価総額は約9兆円と巨大です。日本企業でこれを上回るのはトヨタ自動車<7203>、ソフトバンクグループ<9984>、NTT<9432>の3社しかありません。

鳴り物入りで上場した同社ですが、上場後の株価は冴えません。5月14日時点で公開価格から11%下落しています。3月に上場した同業のLyft<LYFT>も上場から30%下落し、ライドシェアサービス全体の雲行きが怪しくなっています。

もっとも、上場直後に株価が下がったからと言って、全てが悪いわけではありません。例えば、いまや世界を代表するIT企業「GAFA」の一角となったFacebook<FB>も上場直後は株価下落に見舞われました。しかし、その後の株価は飛ぶ鳥を落とす勢いで、公開価格から5倍にまで上昇しました。

FACEBOOK INC A<FB> 月足(SBI証券提供)

果たしてUberは第2のFacebookになれるのでしょうか。その可能性を探ります。

ドライバーとユーザーをマッチング。世界的な社会現象となった「ライドシェア」とは?

Uberが提供する「ライドシェア」は、日本では馴染みが薄いかもしれません。というのも、日本では禁止されている「白タク」になってしまうため、同形態での営業ができないからです。

一方、本家のアメリカではすでに人々の生活に浸透しています。自家用車を持つ一般のドライバーがUberに登録し、ユーザーがアプリでUberを呼ぶと、ドライバーに呼び出しがかかります。ドライバーはユーザーをピックアップし、目的地にまで運ぶのです。

私が2年半前にニューヨークを訪れた時、空港で待っているのはタクシーではなくUberのドライバーたちでした。わずか10年前に生まれたスタートアップ企業のサービスが、これほど急速に浸透していることに驚いたものです。

このサービスは、ドライバーとユーザーの双方にとってメリットがあるものです。

ドライバーにとっては、自家用車さえ持っていれば、空いた時間を使ってお金を稼ぐことができます。勤務時間や服装も自由です。稼ぎたい時にだけ自由に働く、いかにも現代らしい働き方です。

一方、ユーザーにとっての最大のメリットは価格でしょう。多くの場合、Uberはタクシーより安く乗車することができます。呼び出しから目的地までの見積もり、決済までアプリ上で完結するので、手間もかかりません。

価格と使いやすさを武器に、Uberはあっという間に世界中に広がりました。今では世界700以上の都市で展開し、1億人近いユーザーを抱えます。各国でも類似アプリが誕生し、世界的な社会現象と言っても過言ではありません。

Next: 消えない赤字、要因はビジネスモデルにある?



保険料やドライバーの確保が足を引っ張り、赤字が続く

サービスの拡大とともに、売上高も大きく伸びています。直近3年間の売上高の伸びは倍々ゲームの様相です。これからも当面は伸び続けることが想定されます。

一方で、利益は赤字が続きます。スタートアップで赤字上場は珍しくありませんが、これだけ大きな時価総額のある企業としては異例です。Facebookも上場時から黒字でした。

赤字の要因は、そのビジネスモデルにあります。

Uberのビジネスモデルは、結局のところタクシー会社と変わりません。ユーザーが支払った運賃の7〜8割はドライバーに支払われます。残った2〜3割がUberの売上となり、そこからシステムや給与などの費用が支払われます。

費用のうち、特に大きな割合を占めるのが「売上原価」です。これが売上高の約50%に及びます。

売上原価は、売上が増えてもほぼ同じだけ増加する変動費ですから、事業が大きくなっても構造は変わりません。原価率が変わらない以上、会社に残る「粗利益」は、運賃収入の10〜15%に絞られてしまうのです。

売上原価のうち、大きな割合を占めるのが保険料です。これが厄介な問題となります。Uberの運転手は「片手間」ですから、事故率が高まる可能性があります。そうなると保型会社に支払う保険料は高止まりしてしまい、いつまでも利益を圧迫し続けるのです。

だからと言って、売上高を増やすためにドライバーの取り分を減らしたら、彼らは他のアプリに流れてしまうでしょう。仕組みそのものは難しいものではありませんから、Lyftをはじめ、様々な競合が虎視眈々とその地位を狙っています

すなわち、いくらシステムを整えたとしても、このままのビジネスモデルでは運転手による事故のリスクや労働力確保の問題から逃れようがないのです。

Next: 自動運転車が普及すればウーバーも大躍進する



Uberが目指す自動運転車の「未来予想図」

この状況を一気に打開する可能性があるのが、昨今あちらこちらで話題となっている自動運転車です。

事故原因の大半は、ドライバーの単純ミスと言われます。先日滋賀県で起きた保育園児の死亡事故も、右折車が前を見ていなかったことが原因でした。自動運転になれば、このような単純なミスは劇的に減少すると予測され、保険料はグッと下がるでしょう。

さらに、自動運転車となれば、Uberは自前で自動車を保有し、ドライバーを雇う必要はなくなります。そうなれば、運賃はすべて自らもらうことができますから、業績は劇的に改善するでしょう。

こうして見えるのが、未来の自動車社会の姿です。自動運転車をUberが保有し、流しのタクシーのように街中を走らせます。人々は必要に応じてスマートフォンでそれを呼び出し、目的地まで移動したらまたリリースするのです。

これはMaaS(Mobility as a Service)と呼ばれる形態で、未来の自動車の形です。完全な自動運転車が実現すれば、間違いなくどこかの会社がこのサービスを行うでしょう。その場合、市場は独占または寡占となる可能性が高いため、Uberはそこへ向けて全力をあげているのです。

ライドシェアの未来は前途多難

自動運転車によるMaaSの未来は夢があり、Uberにこれだけの時価総額がつくのも理解できます。

しかし、足元はそんなに生易しくはありません。

ライドシェアサービスは厳しい競争環境に置かれています。シェアを奪われないためには、ドライバーへのインセンティブや、広告宣伝費を注ぎ込まなければなりません。利益を出せるようになるには、まだ時間がかかるでしょう。

本業から利益が出ない一方で、自動運転車の研究開発も続けなければなりません。このような分野の研究開発は資金力がものを言いますから、お金がなくなったらお手上げです。資金の枯渇は、未来予想図の放棄を意味します。

Next: 弱ったところで大企業に買収される?ウーバーは進むも地獄、戻るも地獄



夢と現実の狭間で投資家は何を見る?

Uberが置かれている状況は「進むも地獄、戻るも地獄」と言ったところでしょう。もしかしたら、弱ったところに資金力のあるGAFAなどの大企業に買収されるのが現実的かもしれません。

少なくとも言えることは、当面利益が出る可能性は低いということです。Amazonのように、利益を「出さない」のではなく、ビジネスモデルの性格上「出せない」状況です

Uberに長期投資するなら、その状況に耐えることができ、未来予想図の実現を信じられる場合だけにすべきです。


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image by:MikeDotta / Shutterstock.com

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年5月16日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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