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なぜトランプは中国を許さないのか?「中国製造2025」が着々と奪うハイテク覇権

終わりが見えない米中貿易戦争。とにかく中国側がハイテク産業育成の姿勢を見せている間は、米国による攻撃の手は緩むことがないという状況です。具体的に、中国はどんな戦略で米国の覇権を奪おうとしているのでしょうか?(『らぽーる・マガジン』)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2019年5月6日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

IT産業覇権を死守する米国。中国は3ステップで製造強国になる?

実弾のかわりに関税が飛び交う

米中紛争の本質が、次世代IT覇権争いであることは既に語られています。この紛争は実弾が飛ばないかわりに「貿易戦争」の形で米中が戦っていて、その方法が「関税強化」という手段となっています。

この関税強化の手法は、貿易量から見て米国が有利なのは明白ですが、中国側も量ではかなわないまでも質での抵抗をしています。例えば中国がアップル製品を買わないだけで、アップルの業績は大きく低下してしまいます。

とにかく中国側がハイテク産業育成の姿勢を見せている間は、米国による攻撃の手は緩むことがないという状況です。

中国の産業補助金を米国が猛烈に非難

米国の怒りの矛先が向かったのが、中国の産業補助金です。米経済団体幹部は「米中協議は知財保護など90%を超える部分で決着していた。ただ、中国の産業補助金を巡って最後の最後まで折り合えていなかった」と明かしています。

「経済強国」を目指す中国の習近平政権は産業育成策「中国製造2025」を掲げ、ハイテク産業などに巨額の補助金を投じてきました。

米トランプ政権は、世界貿易機関(WTO)ルールに抵触する産業補助金の全面撤廃を要求しています。

中国が重視する高速通信網「5G」人工知能(AI)は、軍事技術にも直結するだけに、ナバロ大統領補佐官は中国のハイテク政策は極めて危険と目の敵にし続けてきました。

中国は米国に配慮したのか、全人代では「中国製造2025」を全面に出すことは控えました。

中国側も「中国製造2025」を公に掲げるのを取りやめ、産業補助金の削減も協議に応じるなど、米国に譲歩する姿勢をみせてきました。

これを米国側は「中国は産業補助金の撤廃策を小出しにし始めた」と、まだまだ十分でないと主張しています。

当然中国にとっては、巨額の産業補助金は中国の急成長を支えた「国家資本主義」の根幹ですので、そうたやすくは米国の言うとおりにはできないでしょう。

今度は米国側は、「中国は中央政府の補助金削減は認めたが、その裏で地方政府の補助金の見直しを渋るなど小出しの姿勢に終始した」と言ってきています。

とにかく、米国は、中国が「中国製造2025」の旗を降ろすまでは攻撃の手を緩めない構えです。

Next: 「中国製造2025」が癇に障る米国。中国は3ステップで製造強国になれる?



「中国製造2025」が癇に障る米国

「中国製造2025」は「3ステップ」で製造強国になるという戦略になっています。

世界の安価な労働力でGDPを押し上げ(世界の下請工場)、その後は世界の消費国としてGDPを押し上げ、仕上げは、世界の製造業の地位を得ようというのが、中国経済発展のプロセスです。上記3ステップは、その最後の仕上げである製造強国になるための工程表になっています。

また「中国製造2025」は、「9大戦略目標」展開と「5大プロジェクト」に重点を置いています。

<9大戦略目標>

  1. 国家製造業イノベーション能力の向上
  2. 情報化・工業化融合の深化(スマート製造)
  3. 製造業分野の基礎技術強化
  4. グリーン製造の全面推進
  5. 10大重点産業分野の革新的発展
  6. 品質・ブランド構築の強化
  7. 製造業構造の調整深化
  8. サービス型製造と生産性サービス業の発展
  9. 製造業の国際化水準引き上げ

<5大プロジェクト>

  1. 工業基礎力強化プロジェクト
  2. 製造業イノベーションセンター設立プロジェクト
  3. スマート製造プロジェクト
  4. グリーン製造プロジェクト
  5. ハイエンド設備イノベーションプロジェクト

工業基礎力強化プロジェクトの中身は、「9大戦略目標」の(1)〜(5)です。またハイエンド設備とは、国民経済や国防安全の核心として進めるものとなっています。

さらに、10大重点産業分野として、次世代情報技術(1分野)、ハイエンド設備(7分野)、新材料(1分野)、バイオ・医療(1分野)を指定しており、それぞれ以下になります。

  1. 次世代情報通信技術
  2. 先端デジタル制御工作機械とロボット
  3. 航空・宇宙設備
  4. 海洋工程設備・ハイテク船舶
  5. 先進軌道交通設備
  6. 省エネルギー・新エネルギー自動車
  7. 電力設備
  8. 新材料
  9. バイオ医療・高性能医療機器
  10. 農業機械設備

どれも米国が得意として今まで世界を牽引してきたものばかりです。

その地位に中国が急速に迫ろうというのですから、米国としては黙っているわけにはいかないでしょう。

Next: 焦る米国を尻目に、中国は広東・香港・マカオベイエリアの発展計画を発表



広東・香港・マカオベイエリア(粤港澳大湾区)発展計画

そんな環境下で2019年2月18日、中国共産党中央委員会および国務院は、広東・香港・マカオベイエリア(粤港澳大湾区)発展計画の綱要を発表しました。

中国本土の広東省と香港、マカオの一体的な発展をめざす大経済圏構想「大湾区計画」は、省都・広州、ハイテク企業が集積する深圳(しんせん)、国際金融センターの香港、カジノで有名なマカオを中心都市と設定し、経済連携を深めるもので、計画全域の域内総生産(GDP)は約1.644兆ドル(約184兆円)で、カナダの経済規模に相当します。

「広州-深圳-香港-マカオ」科学技術革新回廊の建設を推進し、人材、資本、情報、技術などの革新要素の地域の枠を超えた流動および地域間での調達にプラスとなる政策措置を模索し、広東・香港・マカオ大湾区ビッグデータセンターと国際化革新プラットフォームの協同建設を行おうとしています。

広東・香港・マカオベイエリア(粤港澳大湾区)発展計画綱要は、地域レベルの株式取引市場をよりどころとして、科学技術革新金融支援プラットフォームを構築し、知的財産権の証券化に向けたテスト事業を展開するよう提起しています。

<スマートシティ圏を構築>

また、次世代情報インフラを構築し、スマートシティ圏を構築し、サイバーセキュリティのレベルを引き上げることを提起しています。

広東、香港、マカオ間のインターネットブロードバンドの拡大を推進し、インターネットプロトコルバージョン6(IPv6)に基づく次世代インターネットを全面的に展開し、インターネットバックボーン、メトロポリタンエリアネットワーク(MAN)、アクセスネットワーク、インターネットデータセンター、サポートシステムからなるIPv6のバージョンアップ・改良を推進することを提起しています。

さらに広東・香港・マカオ間の携帯電話の長距離・ローミング料金の引き下げを推進するとともに、同料金廃止の実行可能性(FS)研究を積極的に展開し、スマートシティ建設に基礎的支援を提供しようとしています。

<銀行、証券、保険会社の相互支援体制を確立>

このエリアは1国2制度、3つの関税エリア、3つの通貨という条件の下で建設されていて、世界でも前例のないなかで、金融業の発展について、国際金融ハブを建設し、特色ある金融産業の発展に力を入れ、金融市場の相互接続を秩序をもって推進することを目指しています。

さらにb>同区内での地域の枠を超えた人民元の利用規模、利用範囲の段階的拡大を目指そうとしています。

域内の投資円滑化のために、銀行・証券・保険会社の相互支援体制を確立します。

<「中国製造2025」実現モデル区域としての実証の場>

次世代情報技術、バイオ技術、先端設備製造、新材料などを発展させ大きくして新たな基幹産業とし、新型ディスプレー、次世代通信技術、5Gとモバイルインターネット、タンパク質を利用したバイオ医薬品、先端の医療診断装置、遺伝子検査、現代中医薬、スマートロボット、3Dプリンター、北斗衛星の応用といった重点分野において一連の重大産業プロジェクトを育てることを推進します。

まさに「中国製造2025」実現モデル区域としての実証の場とも言えそうです。

もう中国側は、計画的に「中国製造2025」を推し進めています。ここまで巨額な投資もなされていて、いまさら米国に言われたからと言って引き返すことはできません

ただ米国にとって、この「中国製造2025」がどれだけ恐怖かはよく分かりますし、米国は防衛面ではすでに「サイバー領域」で中国の後塵を拝しているとも言われていますが、当然それは認めることはできないでしょう。

Next: 関税合戦は両国ともに大打撃、それでもなぜやめられない?



囚人のジレンマ

双方の関税強化合戦は、当然、両国経済には大打撃であることは間違いありません。

「囚人のジレンマ」と呼ばれるもので、お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなるという状況をこう呼ぶようで、どうにもならないジレンマとなっています。

ただ実際、関税教科品網を見れば、お互い急所ははずしているようにも見え、双方うまくやっていくほうが良いとは、どこかで思っているようにも思えます。

5Gにおいては、中国側の「ファーウェイ」と、米国側の「クアルコム」。この両社の今後の動きは注目です。

米中の落としどころは何処なのか、世界2大大国による世界戦略が合致したときに、お互いが手を結ぶのか、そのときの日本のたち位置はどうなっているのでしょう…。

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らぽーる・マガジン』(2019年5月6日号)より一部抜粋
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