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From 首相官邸ホームページ

株価2万円回復からの衆参ダブル選挙をもくろむ安倍政権「4つの盲点」

政府は株価を2万円台に乗せて、衆参ダブル選挙に持ち込みたいと考えています。しかし景気が思い通りに回復せず、株価が反落でもすれば、ダブル選挙は不可能になります。(『マンさんの経済あらかると』)

株価下落を放置し、消費税引き上げの再延期を打ち出す可能性も

2016年度1.7%成長は達成困難

政府は今年度の成長率見通しを1.2%に下方修正しましたが、2016年度については1.7%成長に高まる、と予想しています。

夏の参院選挙を控え、景気を盛り上げて選挙に勝利したい、と期待しています。そのために15年度の補正予算を組み、更に低所得年金生活者に3万円を支給し、最低賃金を毎年3%ずつ引き上げて時給千円を目指します。

しかし、この願望的予想は下振れの可能性が大きく、来年度も1%成長に届くかどうか。理由は以下の点です。

生産年齢人口の減少で潜在成長率が低下していること、消費税再引き上げはしたくないこと、選挙対策を進める政策手段が行き詰まっていること、米国の利上げの副作用が大きいこと、中国や新興国で金融不安が高まり経済が悪化すること、などです。

何と言っても選挙がカギとなります。政府は株価を2万円台に乗せて、衆参ダブル選挙に持ち込みたいと考えています。そのために、ダブル選挙を嫌がる公明党に、軽減税率で貸しを作りました。

また、これまで円安を避けるために封印していた日銀の追加緩和も活用し、円安で株価を押し上げるつもりでいます。年末も準公的資金を使ってドル円の120円割れを防戦しています。

しかしダブル選挙の実現は依然として不透明です。景気が思い通りに回復せず、株価が反落でもすれば、ダブル選挙は不可能になります。

1. 生産年齢人口の減少で潜在成長率が低下

まず、GDP成長が人口動態、潜在成長の壁によってハードルが高くなっています。日本の生産年齢人口(15歳から64歳)はこのところ年間100万人以上減少し、労働投入面からGDPを1.2%ほど押し下げる力になっています。

これを労働時間の増加や女性、高齢者、外国人労働者で補う必要がありますが、日本の労働時間は低下傾向で、OECDの平均以下になっています。

これらで補えない分は生産性上昇率を高める必要がありますが、かつての円高時代と異なり、製造部門は円安のぬるま湯に浸って競争力の上昇につながるような合理化、生産性上昇の努力を怠っているように見えます。生産性上昇率も近年むしろ伸び悩みにあります。

その分、低生産性部門とされる農業やサービス部門で、TPPが刺激になり、生産性上昇の期待がかかります。

これらは一朝一夕には解決されるものではなく、潜在成長率は近年0.5%程度と見られていましたが、最近では日銀内部でも限りなくゼロに近くなっているとの見方が有力です。

失業率が3.3%まで低下し、ほぼ完全雇用状態になり、7-9月のGDPギャップが0.4%程度とすれば、今後はこの潜在成長率が天井となって成長の頭を押さえつけます。政府の1.7%成長論には無理があります。

Next: 「軽減税率の財源手当て未着手」は消費税再延期を念頭か



2. 政府債務が膨らみ政策手段に限界

次に、政策手段に限界が見えてきたことです。政府債務がGDPの240%になりプライマリー・バランスの均衡が見えない中で、政府は補正予算の編成にも苦しんでいます。

15年度の税収上振れ分や利払い費などの浮いた分を原資に3.3兆円程度の補正を組むのがやっとで、これでも「増収分をみな使ってしまう」との批判を浴びています。

また金融政策は、先のQQE補完策が不評を買い、却って株価を下げてしまったトラウマが日銀に広がっています。補完策の提示は結果として資産買い入れの限界を認識させるもので、これで次の追加緩和余地ができたとしても、市場に金融政策の限界、行き詰まりを意識させてしまった分、これまでのような円安、株価上昇の「ミラクル」は期待薄となりました。

3. 「前代未聞のタイミング」米利上げの悪影響

次に、米国の利上げが曲者です。そもそも、製造業ISMが50を割り込み、製造部門での景気縮小のなかで利上げに出たこと自体が前代未聞ですが、次回3月も、世界市場に不透明感があっても、新保守派の圧力もあってFRBは追加利上げに出ると見られます。新興国や中国には負担になり、米国のジャンク債、エネルギー部門にも負担となります。

4. 中国や新興国における金融不安の高まり

その影響で、前号でも紹介したように、新興国の過剰債務問題が契機となって、金融不安が生じ、これが先進国の投資家にも波及します。中国やアジア新興国への依存度が高い日本経済は当然この影響を受けます。金融危機が広がればリスク・オフとなって円高、株安にもなります。

官邸は株価を放置し消費税引き上げの再延期を打ち出すことに?

そうなると安倍政権はダブル選挙をあきらめ、消費税の再引き上げも難しくなります。もともと消費税に後ろ向きな総理官邸は、今度は株価下落を放置して、経済危機をたてにして消費税引き上げの再延期を打ち出すのではないかと見ます。

軽減税率適用で1兆円余りの財源が必要ですが、未だに手当てをしないのは、再延期を考えての事と見られます。

夏の選挙は野党の体制が整わないなかで、与党楽勝のムードがありますが、官邸は慎重で、大阪維新の橋下グループから何人採れるのか、必要なら民主党を分断して、前原グループも取り入れ、憲法改正への体制作りを着々と進めることになると見られます。

【関連】2016年、安倍総理「2つの選択」~消費増税凍結と衆参W選挙の可能性=落合陽平

【関連】ルービニ教授が警告する日本財政破綻の条件~絶対に売ってはいけない米国債24時!?

マンさんの経済あらかると』(2016年1月4日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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