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【Q&A】2016年の相場環境を理解する~投機筋に付け込まれた日米金融当局=矢口新

日欧中国の緩和政策継続は、カネ余り環境が続くことを意味します。これはレバレッジをかけやすいことも意味します。昨年の損失を取り戻したいヘッジファンド連中にとってパワープレーがやりやすい環境だと言えます。(『相場を知る・より安定した将来設計のために』矢口新)

全面安の原因は、追い詰められて勝負に出たヘッジファンドの売買?

緊急仮想対談:株式、年初から大幅安

<Q>
大変な年明けですね。年初から株やドル円相場が急落しています。日本株はほぼすべての識者の「2016年の予想レンジ」の下限を割り込みました。ここまでの下げ幅は予想外ですか?

<A>
まだ世界的なカネ余りが続いていることを鑑みれば、全面安は予想外です。もっとも、ボラティリティが高まることは、私だけでなく多くの人が予想していたことだと思います。

<Q>
どうして、値動きが激しくなるのでしょう?

<A>
私は2016年の相場環境を次のようなものだと理解しています。

1.日欧中国の緩和政策継続は、カネ余り環境が続くことを意味します。これはレバレッジをかけやすいことも意味します。パワープレーがやりやすい環境だと言えます。

2.米連銀は巨大なバランスシートの規模こそ維持しますが、2016年は3、4回の利上げを行うと見込まれています。これは、いずれ米国のMMFなど、短期金利商品に資金が集まることを示唆しますが、少なくとも年後半以降の話です。

3.商品価格がここまで下げれば、生産意欲が鈍り、需要の高まりが見込まれるようになります。カネ余り環境が続くことを鑑みれば、年内に商品相場が底打ちする可能性が高まってきました。これも先の見通しですね。

4.地政学的リスクの広がりで、安全資産が好まれるようになります。金利収入が得られる安全資産が最も魅力的で、いずれ米国のMMFがその対象になりますが、現状はまだ低金利なので、一時的な避難場所にすぎません。

5.難民問題は、ユーロ圏諸国の国境を低くし、自由に人とカネの往来を促すというユーロの理念に問題を投げかけました。これまでの、各国に独自の経済政策がないという構造的な問題点と合わせると、ユーロは存続の危機に面していると言えるかも知れません。

6.世界第二位の規模を持つ中国経済の減速懸念、株価の動向、IMFのSDR採用が決まった元の動向は、世界の金融市場を不安定にします。

これは、中国共産党1党独裁による計画経済の行き詰まりから、より積極的に市場経済へ移行すること、つまり、中国が国際金融の世界で独り立ちするための産みの苦しみとも言えるもので、無事に行くことを願うしかありません。

7.中国が元を自由化し、国際金融の世界で独り立ちすることは、後戻りできない、避けられないものだと見ています。米ドルが安い間は、中国元を事実上ドル連動することで、中国経済は恩恵を受けてきました。しかし、ドルが高くなると中国元も高くなり、このままでは経済が失速してしまいます。1990年代後半のアジア通貨と同じで、元の自由化、国際化を早急に進めないと、ドル連動では通貨危機が訪れる可能性が高いのです。

同じことは新興国市場通貨にも言えて、産油国などのドルペッグ離れを加速させる可能性が出てきました。

8.米国が予測通りに利上げし、MMFで利回りが得られるようになると、プエルトリコを含む、米国のジャンク債市場やベネズエラなどのハイイールド市場の崩壊が加速します。

9.米大統領選挙も不透明感を高めます。仮に共和党候補が勝つと、イエレン議長が解任されるという噂も出ています。日本でも参院選がありますね。

これだけの不透明感があって、カネ余りという流動性があると、ボラティリティが高まることは避けられないと見ています。

<Q>
それにしても、ものすごい値動きですね。

<A>
昨年の損失を取り戻したいヘッジファンド連中が、日米の金融政策のまずさに付け込んだ可能性がありますね。ヘッジファンドは追い詰められていましたから、勝負する必要がありました。

Next: ヘッジファンドはパワープレーが得意/日米の金融政策のまずさとは?



日米の金融政策のまずさに付け込んだヘッジファンドのパワープレー

<Q>
ヘッジファンドですか?

<A>
ヘッジファンドはパワープレーが得意です。大量に売買することで、市場価格を変動させるのです。得意というより、それしかできないような連中さえいます。年初来のこの変動幅は、ヘッジファンドによるものと考えていいと思います。

<Q>
日米の金融政策のまずさとは?

<A>
米連銀の利上げが遅すぎましたね。米連銀の巨大なバランスシートと、ゼロ金利は、共に空前のオペレーションで、それ程サブプライムショック、リーマンショック後の金融危機を深刻に捉えていたということです。この点は、素晴らしかったと思います。

しかし、その後7年間も緊急事態を想定した、いわば戒厳令下の金融政策を維持したのは間違いです。その間に米経済は一部で新たなバブル入りするまで回復しました。経済成長のサイクルが熟し、バブル環境下で利上げすると、景気減速、バブル崩壊の懸念が出てきます。

ドル高も同じですね。下図右上の米ドル指数と、対主要7通貨での米ドルのチャートを見て分かるのは、ここでの利上げは更なるドル高の危険性を孕むということです。通貨高は企業の競争力を低下させ、景気減速の要因となります。ちなみに、下の4つは現地通貨を中心に見ていますので、右肩下がりがドル高です(※参照チャート)。

これでは、米連銀が本当に予想通りに利上げできるのか、あるいは利上げした時に、米経済が成長を維持できるのかが不安になってきます。

このチャートで、もう1つ分かるのは、ドル高以上に強いのが円(左上)だと言うことです。ファンダメンタルズ的には経常黒字を反映、また2016年に入っては、投機筋のポジションも円ロングです。中国景気に減速懸念がある時に、この円高では、日本株が不安になりますね。

日本の金融政策のまずさとは、現状のように本格的な追加緩和の必要性が出ている時に、お茶を濁すような緩和政策を行ったり、当局者たちが様々なコメントを出すことです。

これでは、ヘッジファンドに付け込まれますね。

<Q>
まともなのは欧州中銀だけですか?

<A>
しかし、欧州中銀はサブプライムショック後の2008年に利上げをして、ユーロ圏周辺国危機の主因をつくりましたから、まともな金融政策だとは、とても言えませんね。

Next: 個人投資家はどうすれば良いか/プロの投資家はどう対応?



個人投資家は発想の転換が必要に

<Q>
そうですか。では、我々個人投資家は、どうすれば良いのでしょう?

<A>
中長期の運用こそが投資だという発想を変えることだと思います。

ボラティリティが高い時の中長期投資は難しいですが、短期トレードでは絶好の収益機会です。私は、2016年というボラティリティが高い時を機会に、短期トレードに挑戦することをお勧めしています。

あえて中長期の相場観を述べるなら、米MMFや、業績見通しの良い株を選別して買うこと、年内に商品相場が底打ちする可能性があることなどですね。しかし、それは米連銀が予測通りに利上げを行えるということが前提となります。

日本株では、消費増税を2017年4月に予定通りに行うのなら、それまでに追加緩和が必要だと思いますので、金融相場が続き、市場全体では年末までには上げていると見ています。仮に消費増税を見送る、あるいは(所得税収増を見据えての)消費税率引き下げならば、個人消費拡大、経済成長からの上昇相場が期待できます。

もっとも、中長期投資の難しさは、そういった見方が正しく、環境も大きくは変化しないことが前提となることです。

<Q>
プロの投資家はどうなのですか?

<A>
プロは、特にディーラーの運用は、現状への対処です。環境の変化に応じて、刻々と値動きが変わるので、それに対処し続けるのがプロの運用です。

<Q>
それも難しそうですね?

<A>
そう聞こえますか?では加減の調整と言い換えましょう。火加減、水加減、味加減など、刻々と変わる状態への対処と言うと難しく聞こえますが、何のことはない、慣れれば誰でもができることです。それが短期トレードです。

【関連】困難となりつつある政府・日銀の株価対策~国債市場動揺の恐れも=久保田博幸

相場を知る・より安定した将来設計のために』(2016年1月18日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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