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高島屋、中国撤退の大誤算。なぜシンガポールでの大成功を活かせなかったのか=児島康孝

高島屋が「上海 高島屋」の撤退を発表して波紋が広がっています。シンガポール店での成功ノウハウを上海に持ち込んだ高島屋にいったい何が起きたのでしょうか?(『「ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!」連動メルマガ』児島康孝)

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本社・タイ・ベトナムは大丈夫か?上海店は2019年8月末に閉店へ

高島屋、上海から撤退を発表

高島屋が2019年6月25日に「海外連結子会社の清算に関するお知らせ」として発表した今回の「上海 高島屋」の撤退。この1本のプレスリリースが大きな波紋を呼んでいます。

直接の上海撤退の原因は、高島屋の連結子会社である上海高島屋百貨有限公司が、家主と進めていた賃料(テナント料)の減額交渉が成立しなかったためとのこと。

しかし、この撤退はそうかんたんな話ではありません。

2012年にオープンした「上海 高島屋」とは

「上海 高島屋」は、2012年12月にオープン。地下1階・地上7階で、テナントとして出店。シンガポール高島屋の成功ノウハウを、中国・上海でも活かそうという狙いでした。

背景には、日本国内の「高島屋」の収益力が、限界を示しているという現状があり、シンガポールのように収益力が高い店舗をさらに展開しようというのが狙いでした。

「上海 高島屋」は海外連結子会社

高島屋の店舗には、同じ高島屋に見えても2種類があります。高島屋本体の店舗と、連結子会社の店舗です。

日本国内でも、難波にある大阪店、東京の日本橋店、新宿店などは、いわば「直営」とも言える本体の店舗です。

最大の売上高を誇る大阪店(難波)は、大阪を南北に走る南海電鉄の終着駅と一体で、1店舗で年商(売上高)1473億円(2019年2月期)です。

一方、岡山高島屋(年商184億円)や高崎高島屋(年商159億円)などは、「直営」ではなくて
連結子会社です。

同じ高島屋に見えてもいろいろ、というわけです。

今回の「上海 高島屋」は、海外に展開する連結子会社となります。また、シンガポールの高島屋も連結子会社です。

「上海 高島屋」の売上げは…

さて、「上海 高島屋」の売上げの推移ですが、
2017年2月期:63億円
2018年2月期:70億円
です。

順調かと思えますが、
2019年2月期:純額31億円(31億8600万円)
となっています。

2019年2月期は「純額」として計上方式(集計方式)を変更しているため、「総額」表示である
2018年2月期との比較は複雑となり、そのまま比較することはできません。

しかし、経常損益や当期損益(純損益)をみますと、厳しい状況が透けて見えます。

<「上海 高島屋」経常損益ベース>

2017年2月期:赤字15億円(ー15億8,900万円)
2018年2月期:赤字14億円(ー14億6,300万円)
2019年2月期:赤字15億円(ー15億2,700万円)

<「上海 高島屋」当期損益(純損益)ベース>

2017年2月期:赤字16億円(ー16億500万円)
2018年2月期:赤字30億円(ー30億8,600万円)
2019年2月期:赤字15億円(ー15億2,800万円)

ちなみに2月期というのは、前年の3月1日から当年の2月末までの1年間です。2019年2月期とは、2018年3月1日から2019年2月末までです。流通企業の多くは2月期決算を多く採用しています。

Next: なぜ上海進出は失敗した?大成功のシンガポール店を見れば原因がわかる



「シンガポール高島屋」の利益を脅かした?

上海 高島屋」のここ数年の売上は、総額ベースで60億円から70億円、純額ベースで30億円というわけですが、毎年15億円前後以上の経常赤字・当期赤字が続いています。

対して、1994年にシンガポールのオーチャード通りにオープンして25年間続く「シンガポール高島屋」は、当初は苦戦したものの、その後は高収益の百貨店です。

東南アジア各国からシンガポールへは、まるでちょっと買い物という感じで、いわば「国内感覚」で富裕層が買い物に来ますし、観光客も買い物をします。

このため、「シンガポール高島屋」は極めて収益力が高い店舗となっています。

「シンガポール高島屋」は、
2019年2月期:年商(売上高)181億円
経常利益:40億円(40億8600万円)
当期利益(純利益):33億円(33億1000万円)
となっています。

次の決算となる、2020年2月期の高島屋の計画でも、
経常利益:25億円(25億6500万円)
当期利益(純利益):21億円(21億2800万円)
と、堅調な業績を見込んでいます。

このように好調な「シンガポール高島屋」ですが、「上海 高島屋」の数字をみてわかりますように、このまま「上海 高島屋」を放置すると「シンガポール高島屋」の利益を食いつぶしかねません

今回の「上海 高島屋」の撤退には、このような事情があったわけです。

高島屋全体と、ベトナム、タイ出店の状況は…

高島屋の2019年2月期決算(連結)は、
売上高:9128億円(9,128億4,800万円)+0.6%
経常利益:312億円(312億3,400万円)ー19.1%
当期利益:164億円(164億4,300万円)ー30.5%
です。

この高島屋全体の数字は「上海 高島屋」撤退の発表以前のものですが、当期利益が164億円の水準ですから、「上海 高島屋」の撤退でどうにかなることはありません

また、2016年に出店したベトナム高島屋(ホーチミン)、2018年11月出店のサイアム高島屋(タイ・バンコク)の状況はどうでしょうか。

<ベトナム高島屋(ホーチミン)2019年2月期>

売上高:17億円(17億7,800万円) 
経常損益:赤字9,200万円
当期損益:赤字9,400万円

<サイアム高島屋(タイ)2019年2月期>

売上高:3億円(3億1,800万円)
経常損益:赤字4億円(ー4億8,400万円)
当期損益:赤字4億円(ー4億9,100万円)
となっています。

こちらのベトナム(ホーチミン)とタイ(サイアム)の出店は、初期投資の範囲内ということでしょう。とくにサイアム(タイ)は、まだオープンから1年経っていません。ですから、数ヶ月の数字になります。

Next: 東南アジアと中国はまったく違う。上海撤退はダメージとなるか?



東南アジアと中国はまったく違う

今回の「上海 高島屋」の撤退でわかったことは、「東南アジア」と「中国」は違うということでしょうね。

シンガポールには多くの中国人が住んでいたり買い物をしたりしているので、高島屋がシンガポールと上海を同じように考えるのも無理はありません。

さて、高島屋は、2019年8月25日で「上海 高島屋」を閉店し、2020年2月期の決算で「上海 高島屋」の清算に伴い、20億円から30億円の損失が発生する可能性があるとしています。

高島屋は以前に、2018年2月期でも「上海 高島屋」の減損処理で15億9,800万円の特別損失を計上しています。

これも合わせて考えますと、「上海 高島屋」出店と撤退の費用は、かなり高くついたと言えそうです。

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「ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!」連動メルマガ』(2019年6月28日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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