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日銀「マイナス金利」6つのポイント~円安を招くがデフレには効果なし=吉田繁治

日銀がついにマイナス金利に踏み込みました。これは追加緩和策です。審議委員のうち5名が賛成し、4名が有害な副作用を考慮して反対という僅差の決定でした。このマイナス金利がデフレ脱却に効果を生むかと言えば、それはほとんどないでしょう。数%の円安により輸入物価が上がる分の卸価格の上昇だけが起こります。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

日銀がついに踏み切った「マイナス金利」で何がどう変化する?

1.世帯や企業にとっては間接的な関係しかない

円相場と株価は、マイナス金利導入の決定が報じられるほぼ30分前から反応していました。1ドル118.6円だった円は、瞬間に、121円にまで2.4円(2%)下がりました。同時に、日経平均は1万6900円から1万7700円付近まで800円(4.7%)も上げたのです。

外部イベントに瞬間で反応するHFT(高頻度取引)が作った動きでした。1円(0.8%)の円安に、300円(1.8%)の株価が対応する感じでした。今朝(1月30日)は$1=121円、シカゴ日経平均先物(円建)1万7850円です。

経済学では、名目のマイナス金利を想定した経験も理論もなく、未知の領域です。現在の金融・経済が異常な時期にあることを示します。

ただしマイナス金利の対象は預金の金利(世帯と企業のマネー・ストック)ではない銀行が日銀に預けている当座預金(マネタリー・ベース)です。

マネタリー・ベースは、世帯や企業にとっては間接的な関係しかないので、金融のテクニカルな領域のものとも言えます。

2.先行事例はユーロ、スウェーデン、スイス、デンマーク

2014年6月から、当座預金の金利を-0.1%に下げた後のユーロを見ると、ユーロ安にする効果は生みました。マイナス金利のユーロが売られ、米ドルと円国債が買われたからです。

2014年6月の1ユーロは$1.4でした。2015年1月には$1.1に下げて、現在も$1.1です。

ユーロのマイナス金利は、ユーロ経済の不調、及びギリシア危機という2つの要素と合わさって、米ドルに対し、8ヵ月で$0.3(21%)も下げたのです。

ユーロ/米ドル 週足(SBI証券提供)

2015年に海外からの円国債の買いが増えた理由は、ユーロがドルに対して20%も下がり、円は相対的に上がる通貨になったからです。ユーロのようなマイナス金利は「自国の通貨売り/外貨買い」を増やして、通貨安をもたらします。

今回、東京市場の瞬間反応は、金利が下がる円が売られて、2.4円(2%)の円安でした。前日には0.229%だった10年債の金利は、瞬間で0.1%という極限値に下がっています。

これは平均残存期間7年の国債100万円が100万9000円に上がったことを示します。

日本の場合、売買額の50%以上を占めているHFT(超高速取引)で、最近、円安と株価は同時に動くようにプログラムされているので、円安=株価上昇になります。

今回、1円の円安につき、日経平均で300円(1.8%)の上昇が観察できました。リアルタイムの先物価格で眺めているとはっきり見えます。

Next: 3.通貨安にはなっても、デフレ対策としてはほとんど効果なし



3.デフレ対策としてはほとんど効果なし

ドルと円に対するユーロ安を生んだマイナス金利も、銀行融資をそれ以前より増やして、設備投資を生み、デフレの気分と行動を払拭(ふっしょく)する点では、影響を及ぼしていません

0.1%~0.7%程度のマイナスでは、影響がないのかもしれません。
(※注)デンマークとスイスは-0.7%です。

このためもあってか、日銀は「マイナス金利の幅を0.1%から大きくすることもある」という含みをもたせています。これが、「フォワード・ガイダンス(時間軸政策)」つまり金融政策の先行きを示唆して、金融市場を誘導することです。

4.マイナス0.1%の金利の適用範囲は、当座預金の増加分のみ

マイナス金利の内容を見ると、「現状の当座預金では0.1%の付利のままとし、マイナス金利は、今より増えた当座預金にのみ適用」とあります。

現在の当座預金残高は256兆円(16年1月22日)と巨大です。準備預金としては5兆円しかいらないので、251兆円もが、超過準備になっています。

全部の当座預金に対して-0.1%の金利なら衝撃は大きかったでしょうが、銀行の受け取り金利が減って経営を圧迫するという理由から避けられました。

現在は当座預金に特例として0.1%の金利をつけています。金額では、1年2560億円の補助金的な金利です。これを-0.1%に下げれば、銀行が、逆に金利2560億円を日銀に払うことになります。差引5000億円の差ですから、いかにも大きかった。

これを避けたため、マイナス金利が銀行のポートフォリオをリバランスする効果は弱まりました。具体的にいうと、数%の円安という効果は生んでも、銀行の融資を増やす効果は弱いままということです。

(※注)ポートフォリオ・リバランスは、日銀のゼロ金利策、マイナス金利、及び量的緩和によって、銀行が、そうではなかったときの資金運用を変えることです。具体的には、貸し出しを増やすこと。

量的緩和の目的は、このポートフォリオ・リバランスを起こすことですが、GDPゼロ成長予測から企業の借り入れ意欲が弱いため、リバランスは起こっていません。

今回のマイナス金利でも、日銀が目的にしているポートフォリオ・リバランスは起こらず、ドルを買った円が海外流出するだけです。これが円安です。その円安によって株価が上がるという経路です。

株価が上がって円安ではない。円安が先にあって、株価の上昇です。円高になると、株価は下がります。外為市場での円の売買は1日100兆円以上と、株の売買額(2.5兆円/日)よりはるかに多いからです。

Next: 5.日銀の国債の買い超はどうなるか/6.銀行はどう対応する?



5.日銀の80兆円(年間)の国債の買い超はどうなるか

マイナス0.1%の金利の場合、日銀が金融機関から国債を買うオペレーションはどうなるのか?(1年に80兆円の増加枠)

新聞ではあまり報じられませんが、今回のマイナス金利の導入前に、満期までの期間4年以内の国債ではマイナスの金利がついていました。

国債1年物-0.024%、2年物-0.026%、3年物-0.015%、4年物-0.003%、5年物+0.011%、7年物+0.033%、10年物0.229%、20年物0.834%です。

国債のマイナス金利は、額面金額より高い価格で日銀が買い上げているということを意味します。0.01%の金利で100万円の額面だった残存期間5年の国債の金利がマイナス0.1%に下がると、その国債は以下の価格に上がります。

国債価格=(1+0.01%×残存期間5年)÷{1+(-0.1%×残存期間5年)}=1.0005÷0.995=1.0056

つまり100万円で流通していた国債(5年物のケース)を、100万5600円で日銀が買うのが、金利をマイナス0.1%に下げることの実際です。この国債を満期までもつと、100万円の償還しかないので、5600円の損をします。マイナス金利では、国債の保有者が損をするのです。

国債を満期までもつと、償還される金額が買った価格に足りないため損をしますよというのが、マイナス金利です。プラス金利のときは償還金額が下回ることはありませんが、マイナス金利では、国債の流通価格を償還金額が下回ります。

このためマイナス金利になると、金融機関は保有国債を高く買ってくれる日銀に一層多く売る方向になります。

6.当座預金金利のマイナス0.1%に金融機関はどう対応する?

その国債を売って日銀当座に預けていた代金には、従来は0.1%の金利がついていました。金利のつく国債を保有したままの金利効果があったのです。

今後は、現在より増えた日銀当座の預金の金利はマイナス0.1%です。1年に0.1%の金利を日銀に取られます。

金融機関はどうするか?国債を日銀に売って得た円で、プラス金利の米国債を買う動きになるということです。これが、瞬間に3円程度の円安(=ドル高)になった理由です。

このマイナス金利がデフレ脱却に効果を生むかと言えば、それはほとんどないでしょう。数%の円安により輸入物価が上がる分の卸価格の上昇だけが起こります。

日銀は、原油と資源価格の下落により「物価目標2%」の達成の見込みがなくなって焦っています。それを示したのが今回のマイナス金利でした。これを受けて日経平均が上昇、ドル円は下落(円安)となりましたが、ハリケーンではない。真冬の一陣の風です。

【関連】異次元緩和は失敗だった。クルーグマンの『Rethinking Japan』を読む=吉田繁治

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