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アメリカの「時限爆弾」~膨らみ続ける財政赤字の臨界点が近づいている

今回ご紹介するレポートの予測はすべて「ベース・ライン予測」です。換言すれば、楽観的視点にたった未来予測です。これまで当局は、ベース・ライン予測とは別に悲観的な予測もしていました。しかし最新のレポートでは省略されています。当然、悲観的視点の未来予測もしたはずですが、公表できない結果になったのでレポートから排除したのでしょう。(『いつも感謝している高年の独り言(有料版)』)

「もう無理だね」米国連邦政府の最新財政状況予測

まず下記は、米国郵政公社の財政赤字がもうどうしようもない状態に陥ったとの報道です。
Postal Service Faces Massive Unfunded Liabilities for Retiree Benefits

報道のポイント

米国政府会計監査局の報告書によれば、米国郵政公社は持続不可能な赤字状態に陥っており、その財政状況は非常に苦しく、格付としては高リスク格付=危険な状態になってしまった。

2015財政年度にはネットで5.1B$(約6120億円)の赤字となり、此処9年間の連続赤字である。会計監査局は、2009年7月から郵政公社を高リスクと位置付けており、現在まで その状態が続いている。報告書の結論として、郵便量の減少、コストの上昇により、財政状況は更に悪化していると報告している。

郵便の代わりに電子メール、そして小切手を郵送する代わりに電子決済の普及が拡大しており、さらに郵便局員の給与、社会福祉コスト等の支出が持続不可能な増加率で増大しているからである。

監査局の報告書によれば、近い将来に退職者の健康保険給付や年金給付に充分な財源がなくなり、「2015年度末時点で78.9B$の債務超過となっており、最終的には納税者、郵便局員、退職者だけでなく、郵政公社の存立自体が危険な状態になる」と結論付けている。

郵政公社のトップは財政の健全度に関して上院委員会の公聴会で懸念を示しており、「債務は持続不可能なレベルに到達しているが、もう打つ手は限られており、もしこれ以上のコスト削減をすると、これまでのような迅速で、信頼でき、かつ効率的な郵便サービスは提供できなくなるだろう。借り入れするにも限界に来ており、手持ち現金も公社の規模と比較すると非常に不足した状態になっている」と述べた。

「どうしようもない」グラフ

実際の米国政府会計監査局の報告書をチェックし、重要なデータを抜き出してグラフ化しましたので参照下さい。

(ア)年金給付資金の不足金額(単位:B$)のデータです。

(イ)1972年から2015年の郵政公社の収入と支出のグラフ。水色点線が支出、青色実線が収入であり、今後は赤字が継続すると予想されています。

(ウ)収入に対する債務の比率の推移を表したものです。2007年度は99%でしたが、2015年度(予想値)で182%です。つまり債務が収入の1.82倍になっています。

(エ)年金給付資金の不足金額(単位:B$)をグラフ化したものです。2010年度は充分な資金があったのですが、2011年以降は原資の不足が続いており、それも拡大傾向にあります。

ということで、この連邦政府機関をどうするか?答えは簡単です。連邦政府が支援資金を注入するだけです。その結果、米国連邦政府の累積赤字は増大するばかりです。どこかで増税せざるを得ないのです。

しかし富裕層への累進課税などするはずがありません。これまで富裕層や企業に対して減税をしてきた人たちが、増税する気持ちなど持っているはずがないからです。口では言っても実行はしません。

となると庶民には債務の棒引き――つまり福祉のカット、年金給付のカット、消費税増税が待っているのです。

Next: 米国連邦政府の最新財政状況予測(超重要)



米国連邦政府の最新財政状況予測(超重要)

2016年1月19日に、米国連邦政府の財政状況予測を議会予算管理局が発表しています。

大統領府発表の予算教書よりも少しは内容が信頼できるかもしれないと思われる方もいるでしょうか、このレポートの作成根拠となる各種データも結局は政府お手盛りの基礎データから積み上げたものですから、あまり信頼はできません。

そこで実際に、過去の将来予測(2010年発表)と、現在の将来予測(2016年発表)とを比較しましょう。その誤差が小さければ信頼できるでしょうし、誤差が大きければ信頼できないことになります。

(ア)2016年最新発表の将来予測のデータです。

(イ)過去の時点、2010年発表の将来予測のデータです。

歳入

最初は政府歳入です。青色枠の数字です。このデータを自作グラフ(ウ)で表していますので見てください。2010年時点の予測では、2015年度は3,625B$入ってくるだろうと予測していたのですが、実際に入ってきたのは3,249B$で、10%減ったのです。誤差はちょうど1割でした。

さて、現在の2016年度は約5年前では3,814B$だと予測していたのですが、3,376B$と11%減の予測に変化しています。

未来に行くほど悲観的で、2020年度は、5年前予測では4,563B$と予測されていましたが、今回の予測では3,917B$と14%減に変化しています。歳入が伸びないのです。支出はなかなか抑えられるものではありませんので、赤字は増える傾向となります

財政赤字

政府財政赤字を見ましょう。黒枠の数字です。グラフは(エ)を見て下さい。

2010年の時点で2015年度の赤字は480B$と予測していましたが、実際の赤字は439B$と少なくなっています。これは無償食料配給、防衛等の支出等の削減をしたからです。しかしその効果も2016年には消えるようです。

2016年度の赤字は、2010年当時の予測では521B$でしたが、今回の予測では、544B$と増えています。その後も、5年前の予測よりも現在の予測の方が赤字幅が大きくなっています。全体で大体7%の増加です

2020年度では赤字687B$が810B$に増えると見ています。この年度の予測は過去の予測の1.18倍です。

2015年度赤字実績が439B$だったのが、2026年には予測で1,366B$(1.36T$)と3倍以上に増えると見ています。これは単年度の赤字であって、累積赤字ではありません。

対外債務

次は対外的な米国の債務です。米国債を買った人々に対する債務です。赤枠の数字です。グラフは(オ)です。

2015年度を見ますと2010年時点の予測12,055B$、即ち12T$の9%増加の13,117B$、すなわち13.1T$です。2026年度予測は23,817B$、23.8T$ですから、2015年度実績の1.8倍です。改善する見込みは皆無であり、これが一般家庭の家計であれば、とっくに破産状態で遠くへ夜逃げしているところでしょう。

Next: 悲観的シナリオはお蔵入り。これでもまだ楽観的な予測であるという事実



GDP

GDP予測です。緑枠の数字です。グラフは(カ)です。2010年の時点で2015年度のGDPは18,421B$、18.4T$と予測していましたが、実際の結果は17,810B$、17.8T$と少なくなっています。約3%減です。それぞれ2010年当時の予測よりも今回の予測のほうがGDPを約4%減らしています。

しかし、すでに始まっている2016年度のGDPが本当に18,494$になるのか?現在の状況を考えると達成不可能ではないか?と思います。

(キ)GDP成長率の予測グラフです。2015年第4四半期には2%強とこの議会予算管理局は予想していたのですが、もうすでに大外れです。

(ク)GDP成長率の2015年第4四半期の実績です。実績では0.7%プラスでした。大外れですね!

ということで、すべて過去の予測はあまりにも楽観的で、現実は悪化する傾向にあります。今後も常に、現実はこれらの予測より悪くなるのでしょう。

超重要な事実

さて、以上紹介した予測はすべて「ベース・ライン予測」です。換言すれば、楽観的視点にたった未来予測です。これまでは、ベース・ライン予測とは別に悲観的なシナリオ予測をしていました。

一例として下記の私の過去ログを開放していますので参照下さい。
米国財政赤字の現状と予測 – 2012年11月13日火曜日(一般公開)

本来ならば、今回のレポートにもこの悲観的視点にたった未来予測を出すべきなのですが、このレポートでは省略されています。当然、悲観的視点の未来予測もしたはずですが、公表できない結果になったのでレポートから排除したのでしょう。もし悲観的視点の未来予測を全くしていなかったとすれば、専門家としては怠慢であり、失格でしょう。

書けなかった事実こそが、未来を示しているのです。

【関連】黒田日銀の「大誤算」~マイナス金利で円高・株安が起きた真の理由=吉田繁治

いつも感謝している高年の独り言(有料版)』(2016年2月9日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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