インフレは長期投資における大きなリスク。今回は大正時代に設定された「100年定期預金」の失敗を題材に、実際どのような資産が長期的なインフレに強かったのかを見てみましょう。この100年間のインフレは、単に金(Gold)を買うだけではヘッジしきれなかったのです。(『一緒に歩もう!小富豪への道』田中徹郎)
プロフィール:田中徹郎(たなか てつろう)
(株)銀座なみきFP事務所代表、ファイナンシャルプランナー、認定テクニカルアナリスト。1961年神戸生まれ。神戸大学経営学部卒業後、三洋電機入社。本社財務部勤務を経て、1990年ソニー入社。主にマーケティング畑を歩む。2004年に同社退社後、ソニー生命を経て独立。
Goldを買うだけはNG!この100年間、価値を保った現物資産とは?
年利6%の定期預金、100年後の本当の価値は?
大正時代の日本に、100年定期預金という預金があったことを、先日僕は知りました。昨年12月30日の日経朝刊に、以下のような見出しの記事が出ていましたので、ご覧になった方もおいでではないでしょうか。
旧新潟貯蓄銀の100年定期、満期到来 でも…「すずめの涙」- 日経新聞(2015年12月29日)
なんでもある方がお父様の遺品の整理をしていて、この預金の証書を見つけたそうです。この100年定期預金の募集条件は、
- 募集開始は1915年(大正4年)
- 満期は100年後の2015年
- 利率は年利6%の複利
で、例えば1円を預けると2015年に339倍の339円になる計算でした。
100円が33,900円に増えたのに大損
預けたお金の339倍、素晴らしい高金利だと思います。
その方が同行(現「第四銀行」)に問い合わせたところ、「証書は有効だが、解約しても額面のお金しか支払われない」との回答を得たそうです。
紙くずにならずによかったと思いますが、この預金、いったいいくらをご遺族は受け取ることができるのでしょうか。
当たり前ですが、例えばこの方のお父様が当時100円のお金を預けていたら、その339倍ですので33,900円ということになります。
確かに100円が33,900円にもなると、すごく増えたということになると思いますが、問題は当時の100円の価値です。この記事によれば当時の小学校の先生の初任給が10円から20円程度とありますので、たぶん当時の1円は今の1万円程度だったのではないでしょうか。
したがって、もしこのお父様がお預けになったお金が100円だったとしたら、その100円は今の感覚でいえば100万円程度だったと思います。
そして100年後、その定期預金は33,900円になって遺族に支払われることになったわけです。
思えばこの100年に間に、我が国ではいろんなことが起きました。敗戦もありましたし、高度成長期もありました、バブルの崩壊も経験しましたし、大きな地震や台風も何度かありました。
ただこれだけはいえるのではないでしょうか。この100年を経て通貨の価値は大きく下がり、超長期の高利回り預金ですら、インフレに勝てなかった…。
金(Gold)なら100年間のインフレに耐えられたのか?
ではこのお父様が、インフレに強いとされる金(Gold)をこの100円で買っておけばどうだったでしょうか。
大正4年当時の金の価格を調べると、グラムあたり1円30銭ほどだったことが分かります。したがってこの場合、購入できる金は77グラム(注)ほどになります。
(注) 100円÷1.3円≒77グラム
これに対して現在の金の価格は、1グラムあたり税込みで4500円ほどになります、したがって77グラムの金価格は約35万円と計算できました(注)。
(注) 4500円×77グラム≒346,500円
確かにさきほどの33,900円に比べると、大きな金額ではありますが、それでも当時の100円は、今の感覚でいえば100万円に相当するわけです。
したがってインフレに強いといわれる金で持っていたとしても、この間の資産価値は減ってしまったといえるでしょう。
ではなぜ金の価値がインフレに負けてしまったのでしょうか。おそらく金は地中から市場に供給され続け、その希少性が少しずつ減ってきたからではないでしょうか。
Next: 本当にインフレに強い、意外な現物資産とは?
本当にインフレに強い現物資産とは?
では仮に新たに供給されない資産に投資していたら、どうだったのでしょうか。たとえば金貨です。金貨の素材は金ですが、こちらは新たに製造されることはありません。
(注) 明治金貨は正確に言えば金90%と銅10%でできています。
大正4年に発行された新二十円金貨を例に考えてみましょう。
当時の新二十円金貨は、当然ながら通貨ですので20円支払えば購入することができます、購入というより両替といった方がよいかもしれません、いずれにしても比較的簡単に購入できたはずです。
この場合お父様がお持ちだった100円で、この20円金貨5枚に両替することができたわけです。ではこの20円金貨が、箪笥のなかからそのままの状態で5枚見つかったとしたらどうでしょう。
現在の新二十円金貨は、未使用状態で概ね30万円程度になりますので、5枚で150万円となります。さきほどの33,900円と比べると、ずいぶんと大きな金額になることが分かります。
これに対してお父様の100円の当時の価値は、今の100万円程度だったと考えられますから、元本を50万円ほど上回ることになるといえるでしょう。
いずれにしてもさきほどの33,900円と比べると、ずいぶんと大きな金額であることが分かります。
ではなぜ金と違って金貨の方は、インフレに負けなかったのでしょうか。これはあくまで1つの可能性ではありますが、金と違って金貨は新たな供給がなく、したがって金のように価値が薄まらなかったからだと思います。
まとめ
- 紙幣や現預金は長期的に価値の保存が難しい場合があること
- 金のような新たに供給され続ける資産は、たとえ現物資産でもインフレに勝てない場合があること
- これに対して新たな供給が見込めない現物資産はインフレへの抵抗力があること
この100年定期預金の事例から、私たちは以上のことを学ぶことができます。
『一緒に歩もう!小富豪への道』(2016年1月26日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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