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Frederic Legrand - COMEO / Shutterstock.com

沈み行くアメリカと米ドル。ロシアとイランの計画、新たな2つの兆候

ロシアが独自の原油価格基準を作り、米ドルから独立することを目指しています。イラン原油もユーロ建てのみとなり、既存のドル建て売掛金までユーロで返済要求をする状況。すぐに米ドル体制が崩壊することはないでしょうが、徐々に侵食されていくのは避けがたいでしょう。(『いつも感謝している高年の独り言(有料版)』)

米ドルとの決別に動き始めたロシア、そしてイラン

ロシア政府の基本計画

イスラム国を支援するトルコは、シリアのアレッポへ入り、同じくサウジアラビアも支援するはず。アサド政権を憎む米国は息をひそめている。シリアのアサド政権を支援するロシア、イランはシリアのアレッポのイスラム国を殲滅しようと必死の形相。

という図式からすれば、ロシアはサウジアラビアの敵。ロシア原油の価値を下げているのもサウジアラビアの増産がきっかけ。しかしロシアと同じくアサド政権支援のイランも原油を増産している産油大国。本質的にはイスラム内部の宗派戦争。

これに西欧世界が軍事介入するのは愚の骨頂であり、イスラム社会としてどうすべきなのかを決めるべきだと思うのは私だけなのでしょうか。軍事的にしか解決できないと分かっていても、それでも、その軍事的行動に西欧社会が参加するのは非常に危険だと思えるのです。

ロシア政府としては大事な国家収入源である原油価格を米ドル建てや米ドルだけの取引にはしたくないのです。また、自国通貨建て取引にして米国の原油価格操作介入を減らしたいはずです。

下記の報道は世界経済からペトロダラー(編注:原油など資源取引での米ドル決済のしくみ)を減らすためのロシア政府の基本計画です。
Russia Breaking Wall St Oil Price Monopoly

報道のポイント

ロシアはウォール街から原油価格決定権を奪い取りたい。原油市場全部の奪取は無理でも、ある程度の部分は取り戻したいのだ。

これはロシア経済のアキレス腱となっている原油輸出を、米ドル建てから切り離す長期的戦略である。

昨年2015年11月に試験的運用開始を発表していたが、もし今後も成功すれば、ロシア原油の取引はルーブル建てとなり、そうなるとロシア、中国だけでなく、そのほかの国々も静かに米ドルから離脱し始めるだろう。

ウォール街の世界原油価格支配の中核は米ドルの原油基準価格である。現在、ロシアの原油は常に「ブレント価格」と言う原油指標価格に基づいて計算されている。そのブレント価格の主体である北海原油はすでに産出量が極端に減っているにも拘わらず、ウォール街のGS、MS、JPMやCitibankが先物デリバティブで価格操作をしている。

中国、日本、ドイツ等の外貨準備が米ドル資産であること、米ドルが世界覇権通貨であることが、米国が世界覇権を握る1つの大きな柱であり、2つ目の柱が世界最強の米軍なのである。

米国以外の国々が原油輸入をするには米ドルが必要であり、ロシアや中国は貿易で稼いだマネーを米国債に投資して保有するからだ。

ユーロ債はリスクが高いから嫌われている。それまで対外決済に関しては準金本位制であった米ドルは、1971年のニクソンショック以降の時代に入っても、世界覇権通貨であることにより金利上昇を心配することもなく、無制限に累積債務を増やすことができた。

換言すれば、戦争のコストも、他国の米国債購入で支えられてきたのだ。

Next: ロシアは独自の原油価格基準を作り、米ドルからの独立を目指す



ロシアは独自の原油価格基準を作り、米ドルからの「独立」を目指す

1980年代の終りまでは、原油価格は実際の需要と供給関係で決まっていたのだが、GSがJ.Aron社というブローカー会社を吸収合併(初期の購読者の皆様は覚えておられますね。J.Aron社の記事を!)した時に、GSは悟ったのだ。

原油先物市場でペーパーオイルの取引を用いれば、噂やデリバティブ取引で価格不正操作ができるし、顧客のポジションも全部分かるので、大きな利益を得られることを。これで原油先物取引はGS、MS、JPM等の賭博場になったのである。

1973年のオイルショックのとき原油価格は5倍となった。1975年米国の財務省Jack F. Bennett財務次官がサウジアラビアに派遣され、サウジアラビアや湾岸産油国の原油はすべて米ドル建て取引になった。このBennett財務次官は後にExxon社の経営陣に加わった。

サウジアラビアは見返りに王家の防衛を米国に保証させた。このようにしてウォール街の大手金融機関は、原油価格の決定権を握ることができたのだ。

当時、米国の国務長官だったヘンリー・キッシンジャーは「原油を握れば、世界を握れる」と嘯いたと言われている。1945年以降、原油が米ドル体制の心臓部となった。

ロシア原油の取引はドル建てブレント原油の価格が中心指標となって決まっている。もうほとんど採掘され、生産量が減っているブレント原油という油種の基準価格が、国際取引原油総量の3分の2以上に適用される。

他方、ロシアは世界最大規模の原油生産国であり、ロシア独自の原油価格の基準を作れば、それが米ドル建値からの独立となる。

2013年のロシアの生産量は日量1050万バーレルで、サウジアラビアよりも少し多い。ロシア国内では原油ではなく、天然ガスを主に使用するので、原油生産の75%が輸出に回るのだ。主な輸入国は欧州で、日量350万バーレル(輸出の8割程度)を買っている。

ロシア原油の油種はウラルブレンドと呼ばれるロシアの各種原油を混合したものであり、一番の顧客はドイツ、そしてオランダ、ポーランドである。

欧州が輸入する他の原油は、日量ベースで並べると下記の様になる。

他方、北海油田の生産は急速に減少しており、2013年で日量300万バーレルでしかない。これが所謂北海ブレントと言う基準価格の原油である――

(ア)2014年の国別原油生産量(推定値)のリストです。1位がロシア、2位がサウジアラビア。
(イ)欧州の原油輸入、輸入相手国別。
(ウ)ブレント原油を含む北海油田の産出量です。すでにピークを過ぎています。
(エ)オリジナルのブレント原油は一番下の濃青色の部分で、もうほとんど枯渇しています。しかし他に代わる基準油種がないということでブレント油種の基準価格が使用されている状態です。

Next: イラン原油もユーロ建てのみに。ドル建て売掛金もユーロで返済要求



イラン原油も「ユーロ建て」のみに。ドル建て売掛金もユーロで返済要求

イラン原油は米ドルでなくユーロ建てのみ。これまでの売掛金もユーロで返済して欲しいとの姿勢。ロイター報道です。
Exclusive: Iran wants euro payment for new and outstanding oil sales – source

報道のポイント

イラン政府は、イラン原油取引に今後はユーロ決済を導入するだけでなく、過去の経済制裁で凍結されていた何百億ドルものドル建て原油売掛金もユーロ決済で受け取りたいとインド等の相手国に申し入れをしていることが分かった。これは米ドルへの依存度を減らす目的である。

内部消息筋によると、国有イラン石油(NIOC)社はロイターに対して、Total社(フランス系石油ガス大手)、Cespa社及びLitasco社(スペイン系石油精製会社)、Lukoil(ロシア系)との最近合意した売買契約ではユーロ決済を用いる事を明かし、「我々の請求書には、代金決済は納期時点でのユーロ建てと明記している」と語った。

また、この消息筋によると、原油代金の債務者に対しては、過去の売掛金は米ドル支払いではなく、ユーロでの支払いを要求しており、その理由は「イランの政治的な理由からである」と語った。

この米ドル建てからユーロ建てへの動きが示すのは、米国との間で経済制裁解除合意に至っても、両国間の間には拭い難い不信感や隔たりが存在する証拠である。

米国政府による、イランの海外における凍結資産は約100B$(約12兆円)程度であり、その中の半分程が実際に凍結解除で持ち帰ることができるものだろうと推定しているが、その中のどの程度がイラン原油決済金なのかは不明である。

インドの場合、約6B$(約7200億円)程度がイランに対する債務であることが分かっており、インド政府もこのイラン原油のユーロ建て支払い決済を認めている。

インド政府は、イラン原油取引の決済はその納入時点の対米ドル・ユーロ為替レートを用いること、および支払い遅延の金利もユーロ建てになることを認めている――

すぐに米ドル体制が崩壊することはないでしょうが、徐々に侵食されていくのは避けがたい状況です。

いつも感謝している高年の独り言(有料版)』(2016年2月15日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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