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投機筋は本当に悪者か?「ジェットコースター相場」のウソと現実=近藤駿介

株価の変動が大きくなると、テレビ報道などで必ず湧き上がってくるのが「投機筋暗躍説」である。これは、視聴者の手の届かないところに「悪役」を作り、視聴者を為す術のない「哀れな被害者」のように演出することで視聴者に意味のない安心感を与え、共感を得ようとするマスコミの常套手段といえる。

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるメルマガ『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』がまぐまぐ大賞2015メディア賞を受賞。

誰が「ジェットコースターのような相場」を作るのか

「投機筋暗躍説」のウソ

それまで1週間で1,866円下落していた日経平均株価が、週明けの15日に突然1,000円を上回る大幅上昇を見せた。こうした株価の乱高下を報じる5日夜のニュース情報番組のなかで、著名な国立大学教授は次のようなコメントをしていた。

ジェットコースターみたいに上がったり下がったりするというのは、我々個人の投資家から見るとちょっと危険で中に入れないなと思いますけど、彼ら(投機筋)にしてみればこれはもう絶好のビジネスチャンスです。専門で短期の売買をしている人にとっては、値動きがあればあるほど収益の期待値が上がるんですね。つまり大きく動きますから、うまく安いところで買い高いところで売り、高いところで売ったものを安いところで買い戻すと大きな利益をあげることができますから、彼らは今はほとんど寝ないでディーリングしている状況だと思うんです。

このコメントを受け、番組のコメンテーターを務めていた国立大学院准教授も次のようなコメントを加えていた。

「株価の変動が大きい時は、これは短期売買で投資家が稼ぎやすい状況にあるということですね。それでいろいろなお金が流れてくるわけです」

株価の変動が大きくなると必ず湧き上がってくるのが、このような「投機筋暗躍説」である。これは、視聴者の手の届かないところに「悪役」を作り、視聴者を為す術のない「哀れな被害者」のように演出することで視聴者に意味のない安心感を与え、共感を得ようとするマスコミの常套手段といえる。

一見もっともらしく見えるこうした専門家のコメントも、根本的な部分が抜け落ちている。それは、「誰がジェットコースターのような相場を作るのか」という点だ。

「投機筋」が「絶好のビジネスチャンス」を得るために意図的に「ジェットコースター相場」を作っているのだろうか。

「うまく安いところで買い高いところで売り、高いところで売ったものを安いところで買い戻すと大きな利益をあげることができる」というのは、なにも「ジェットコースター相場」だけに限ったことではない。もし「投機筋」がこうした高い能力を身に付けているのであれば、日常のマーケットからも大きな収益をあげていくことは十分可能なはずなので意図的に「ジェットコースター相場」を作る出す必要性はないはずである。

「ジェットコースター相場」を作り出すのは投機筋ではない

この大学教授は、「投機筋」は自分達が意図して作り出した「ジェットコースター相場」でだけ「うまく安いところで買い高いところで売り、高いところで売ったものを安いところで買い戻す」能力を発揮できると考えているのだろうか。

日経平均株価が5日に1,000円を上回る反発を見せたこともあり、足下の日経平均株価のボラティリティは50%を超えて来た。日経平均株価のボラティリティが50%を越えるのは2013年5月にバーナンキFRB議長(当時)がテーパリングに言及した時以来である。

2012年1月4日から今月15日までの1,011営業日のうち、日経平均株価のボラティリティが50%を超える「ジェットコースター相場」となったのは僅かに5日、全営業日の0.5%に過ぎない。さらに、ボラティリティが40%を越えた日を含めても全営業日の4.4%の44営業日でしかない。

「ジェットコースター相場」が1年に1回訪れるかどうかだという現実からいえることは、「投機筋」が意図的に「ジェットコースター相場」を作り出しているわけではないということだ。

もし「投機筋」が意図的に「ジェットコースター相場」を作り出すことができ、かつ彼らが「ジェットコースター相場」で「うまく安いところで買い高いところで売り、高いところで売ったものを安いところで買い戻して大きな利益をあげる」という特殊能力を身に着けていて、「ジェットコースター相場」を「絶好のビジネスチャンス」だとみなしているのであれば、1年に何回も「ジェットコースター相場」を意図的に作り出すはずだからである。

Next: 「投機筋暗躍説」は学者が言い訳のために創り出したお伽噺である



「投機筋暗躍説」は学者が言い訳のために創り出したお伽噺である

「投機筋」が意図的に「ジェットコースター相場」を作り、「うまく安いところで買い高いところで売り、高いところで売ったものを安いところで買い戻して大きな利益をあげる」という特殊能力を発揮して大きな利益を上げているという指摘は、被害妄想の強い社会では受け入れられやすいお話かもしれない。しかし、それは「ジェットコースター相場」の原因を論理的に説明することのできない学者が言い訳のために創り出したお伽噺に過ぎない。

「株価の変動が大きい時は、これは短期売買で投資家が稼ぎやすい状況にある」という指摘も全く的外れな指摘である。

「株価の変動が大きい」つまりボラティリティが高いという状況は、「困った状況に追い込まれた投資家の数が増えた」ことを意味するものである。つまり、「短期売買で投資家が稼ぎやすい状況」なのではなく、「困った状況に追い込まれた投資家」が苦しみから何とか逃れようと「もがき苦しんでいる状況」だというのが現実である。

このことは「投機筋」にも当てはまる。彼らが「ほとんど寝ないでディーリングしている」のは儲けを拡大するためだけでない。「ほとんど寝ないでディーリング」をするのは、想定外の損失を被る可能性も同様に高いからに他ならない。

お伽の国の住人である学者は、「稼ぎやすい状況」だから「いろいろなお金が集まってくる」ように考えるかもしれないが、「困った状況に追い込まれた投資家」が必死なって投資資金の回収に走る、つまり市場からお金が逃げようとするから「株価の変動が大きく」なるというのが現実だ。「いろいろなお金が集まってくる」局面では市場のボラティリティは低下するか、安定的に推移するものだ。

「困った状況に追い込まれた投資家」がもがき苦しんでいる時に集まってくるのは死臭を嗅ぎ付けたハイエナ投資家達である。本当に「稼ぎやすい状況」なのであれば、多くの個人投資家が参戦してくるはずで「我々個人の投資家から見るとちょっと危険で中に入れない」という状況にはならない。

真犯人

では誰が「ジェットコースター相場」を作り出すかというと、それは「株価を投資判断基準にしている投資家」である。

「株価を判断材料基準にしている投資家」というのは、政府と同様に「ファンダメンタルズに変化はない」という盲目的な信仰のもとに、「ジェットコースター相場」にならないことを前提に投資をしている人達である。こうした投資家の判断基準は、「ファンダメンタルズが安定した局面でしか通用しないチャート分析」と「実際には存在しない理論株価」というものだ。

こうした投資家がどんなに「ファンダメンタルズに変化はない」という強い信仰心を持ち続けようとも、ファンダメンタルズは変化する。こうした投資家の信仰心と現実のファンダメンタルズとの間に生じる歪みが「ジェットコースター相場」を引き起こす原動力となる。

そして、投資家の信仰心と現実のファンダメンタルズの間の歪みが大きければ大きいほどエネルギーは大きなものになり、それが限界に達してその歪みエネルギーが解放されるときに「ジェットコースター相場」が示現することになる。

「ジェットコースター相場」が示現する際に「投機筋」が担う主な役割は、市場に充満したエネルギーに火種を近づけることくらいであり、歪エネルギーを蓄積していくのは「株価を判断基準にしている投資家」なのだ。

リーマン・ショックの時も、昨年から続く一連のチャイナ・ショックにおいても、日本は震源地と同等か上回る被害を被っている。これは、「ファンダメンタルズに変化はない」という盲目的な信仰を持った投資家の比率が高いことが原因だといえる。

何があっても「ファンダメンタルズに変化はない」という強い信仰心を抱く投資家と、「ジェットコースター相場」は常に「投機筋による陰謀である」と繰り返す専門家が跋扈している限り、日本市場は「投機筋」の餌食になり続ける運命にある。

ファンダメンタルズは常に変化する。

「自己責任原則」が問われる現在、こうした当たり前のことを前提に投資判断しなければ生き延びることのできない時代になってきているという認識が必要である。「恋は盲目」というが、「投資は盲目」になってはいけない。ファンダメンタルズの変化を感じるのに必要な客観的情報は十分に出回っているのだから。

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年2月17日号)より
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