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デフレ脱却を阻む敵~なぜ岩田規久男氏は消費増税に異を唱えないのか=三橋貴明

政府が緊縮財政に走っている以上、金融政策のみでデフレ脱却はできません。ところが、不思議なことに岩田規久男日銀副総裁は消費税増税に表立って異を唱えたことがないのです。

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年2月29日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

「真逆」の日銀と政府、これでデフレ脱却できると思う方がおかしい

インフレ率ゼロ近傍は「当たり前」の現象

2016年1月のインフレ率が総務省から発表になりました。

日銀のインフレ目標の定義であるコアCPI(生鮮食品を除く総合消費者物価指数)で0%コアコアCPIでも0.7%に伸び率が落ち込んでしまいました(12月は0.8%)。

日本銀行が200兆円ものおカネ(日銀当座預金)を増やしたにも関わらず、なぜインフレ率がゼロなのか。

別に、難しい話ではなく、インフレ率とはモノやサービスが購入されない限り、上昇しないためです。日本銀行が購入しているのは国債であり、モノでもサービスでもありません。

黒田日銀総裁が語ったように、

「マネタリーベースそのもので直ちに物価、あるいは予想物価上昇率が上がっていくということではない」

のです。当たり前です。

岩田規久男日銀副総裁の「学説」は、インフレ目標とコミットメント、量的緩和(マネタリーベース拡大)により、期待インフレ率が上昇する。期待インフレ率が上昇すれば、フィッシャーの方程式、

実質金利=名目金利-期待インフレ率

により、「名目金利が下がらなくても」実質金利は下がる。結果、銀行からの貸し出しが増え、消費や投資が拡大し、デフレ脱却できる、というものでした。

問題は、

「マネタリーベースを拡大しても、期待インフレ率が全く上がらないというのか!」
「実質金利が下がっても、銀行からの貸し出しが一切増えないというのか!」

といった極論ではなく、インフレ目標と量的緩和により、国民経済の需要不足が解消するほどに「十分に」消費や投資が拡大するか、という話です。

Next: 消費税増税に表立って異を唱えたことがない岩田規久男氏の不思議



金融政策のみではデフレ脱却できない

さらに言えば、政府が消費税増税や財政支出の削減といった緊縮財政という「需要縮小策」を推進したとしても、インフレ目標と量的緩和により「十分に」消費や投資が拡大するか、になります。

日本銀行が(ロジックとしては)需要を拡大し、デフレギャップを埋める政策を推進する反対側で、政府が緊縮財政により需要を縮小させようとしているわけです。

これで「デフレ脱却」できると思う方がおかしいのです。

というわけで、わたくしが岩田教授の立場にいたとしたら、13年10月1日に安倍政権が14年4月の消費増税を決定した瞬間に、

政府が緊縮財政という需要削減に走っている以上、金融政策のみではデフレ脱却できない

と宣言し、辞表を叩きつけたでしょう。

岩田氏をはじめとするリフレ派の責任

ところが、不思議なことに岩田教授は消費税増税に表立って異を唱えたことはありませんでした。

それほどまでに、金融政策の効果を過大評価していたのか。あるいは、政権に絡めとられ、自らの学説に殉ずるよりも「権力」を選んだのか。

分かりません。分かりませんが、いずれにせよ一つ、明らかになったのは、岩田教授をはじめとする「いわゆるリフレ派理論」が、財務省が望む緊縮財政の背中を押してしまったという政治力学なのだと思います。

【関連】異次元緩和は失敗だった。クルーグマンの『Rethinking Japan』を読む=吉田繁治

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