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アベノミクス相場崩壊、3つの予測シナリオ~日経1万円割れ、1ドル90円も=斎藤満

終わりのない相場はありません。「アベノミクス相場」もいつか終わりの日が来ます。そのシナリオとして、3つの展開が考えられます。順に検討してみましょう。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

大相場を終わらせるのは政権交代か、外的ショックか、それとも?

2016年アベノミクス相場の3大リスク

終わりのない相場はありません。「アベノミクス相場」もいつか終わりの日が来ます。そのシナリオとしては、以下の3つが考えられます。

1つは、「アベノミクス」自体の行き詰まりが露呈するケース、2つに、その生みの親である安倍政権そのものが交代を余儀なくされるケース、そして3つが、リーマン危機以来の外的ショックによるケースです。恐らく中国発です。

1.アベノミクス自体の行き詰まり~日経3千円下げ、1ドル100円割れ

最初の「アベノミクス自体の行き詰まり」による下げは、ショック度合いは小さいものの相場は時間をかけて下げ、日経平均の下げ幅は今後1年でもここから3千円以上下げ、1万4千円を割り込むことになるとみられます。昨年のピークからは約7千円の下げを見込みます。ドル円も100円を割る可能性があります。その下げの要素を次に説明しましょう。

アベノミクス相場の行き詰まりは、次の要素によります。まず最大のエンジンとなった日銀の金融緩和マイナス金利付きQQE(量的質的緩和)」が限界に到達しそうなこと、それに関連して株高のエンジンの1つである円安が、米国のドル高回避の姿勢の前に頭打ちになること。そしてアベノミクス自体に景気圧迫の要素があり、景気後退リスクが高まることです。

■裏目に出るマイナス金利政策

マイナス金利の対象となる日銀当座預金は日銀の試算では23兆円程度となり、民間銀行の直接的なコストは年間230億円となります。その多くはゆうちょ銀行と信用金庫にかかります。

しかし、実際の負担は、長期金利の低下による貸出金利、保有債券の利回り低下による分がずっと大きく、運用利回りが0.1%低下すれば民間金融機関は1千億円の減収となります。

運用利回りが低下しても、預金金利の下げ余地がなくなってきたので、これ以上金利が低下すると、預金者に手数料かマイナスの預金金利かを課さない限り、銀行の利ザヤが縮小し、経営が苦しくなります。銀行の資金調達コストは人件費込みで1%弱といわれますが、貸出約定平均金利はすでに1%を割り込み、国債利回りは10年までマイナスになっています。

銀行の利益を圧迫すれば金融仲介機能が低下し、預金者に手数料やマイナス金利でコスト負担させれば、預金流出となってマネーが縮小し、いずれも金融はむしろ引き締め的となり、金融緩和のはずのマイナス金利策が裏目に出ます。

かといって資産買い入れ路線に戻っても、買い入れ国債の利回りがマイナスでは、日銀のコスト高となって日銀収益を圧迫します。新日銀法は財政からの補てんを認めていません。

■円高・ドル安

日銀の金融緩和が限界となり、しかも米国がドル高を負担と感じ、日欧に対しても通貨安をけん制するようになったので、円安も行き詰まりました。米国の政策意図を知って、投機筋は通貨先物市場で円の買い越しに転じています。その円買いが次第に大きくなっています。円安が使えなくなると、日本株にも重石となります。

■トリクルダウン幻想の露呈

「アベノミクスの行き詰まり」ではもう1点、「トリクル・ダウン」が幻想であったことが露呈、企業に稼がせるほど景気が悪くなるという皮肉な現象が起きており、消費税後でも、そして企業が最高益を更新する中でも、GDPはマイナスになることが多くなっています。これは企業が市場拡大や利益の持続性に確信が持てないため、利益の多くを内部留保(貯蓄)にため込むためです。

例えば、財務省の「法人企業統計」によれば、安倍政権誕生後の3年間で、企業の利益は約4割も拡大しましたが、この間人件費は減少、企業は利益剰余金という「内部留保」に81兆円も貯め込んでいます。企業の貯蓄増加、需要抑制が景気全体を冷やしたのです。

マイナス成長が頻発するほど景気が悪化し、しかも円安になれないとなれば、企業収益も落ちてこざるを得ません。すでに昨年10-12月期は、製造業が前年比2ケタの減益となっていて、今後は市場の利益見通しも慎重になるとみられます。

もともと日本株の上昇も円安も、アベノミクスの結果を反映して上がったのではなく、アベノミクスへの期待によるものでした。為替も日米金利差以上に円安が進みました。ところが、アベノミクスの行き詰まりが広く認識されれば、期待で膨らんだ分がしぼみ、株価には下げ圧力がかかり、円高とならざるを得ません。

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2.安倍政権の交代リスク~日経2千円下げ、5~10円の円高圧力

2つめは安倍政権が交代を余儀なくされるケースです。

アベノミクスへの期待で上昇してきた相場だけに、その前提となる政権が消失すれば、短期間にショック型の株価急落、円高になるとみられます。

次の政権が見えて、政策への安心感が戻るまでに、株価は2千円、ドル円は5円から10円の円高になるのではないかと思われます。

■改憲路線による支持率低下

政権交代リスクは、内外双方にあります。まず国内で最大の関門は、憲法改正を謳って衆参同時選挙をした場合で、ここで大きく負けると、安倍退陣となる可能性があります。自公政権は変わらずとも、選挙敗北の責任を取らされる可能性があります。

後継総裁として総理は稲田政調会長を推していますが、誰が継いでも、アベノミクスは幕を閉じます

新しい体制のもとに経済チームが組まれましょうが、安倍政権下でのリフレ政策には反発もあり、そこは仕切り直しになるとみられます。安倍政権誕生時に比べると、政策手段は限られるので、「アベノミクス」以上のインパクトをもった政策パッケージを提示することは至難の業です。

■米大統領選「サンダース」「トランプ」リスク

政権交代のリスクは海外にもあります。特に、安倍政権をサポートしたのは米国の保守派、新保守派(いわゆるネオコンサバティブ)です。米国も今年は大統領選挙が行われ、どういう体制になるか不透明です。

ヒラリー・クリントン氏が勝てば、民主党政権ながら、ネオコンサバティブの後押しは続き、安倍政権は維持されますが、その場合はさらに米国依存が強まります。

この場合、国際金融資本の影響力が健在ということになりますが、これに対し、民主党が仮にサンダース候補となり、共和党トランプ氏との戦いとなると、事実上これまで世界の政治経済を支配してきた国際金融資本の影響力、新保守派の影響力が低下した可能性があります。そうなると安倍政権の足元がぐらつきます。

米国が一時CFR(外交問題評議会)の強い影響下にあったころ、米国から「安倍おろし」の動きが強まりました。米国メディアは安倍政権を「危険な右翼政権」と批判しました。

米国の政治面での勢力が、ネオコン優位からCFR優位に変わると、再び安倍政権には逆風が吹き、安保、沖縄基地、TPPなどで攻め立てられ、体調を崩して降板となるリスクがあります。

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3.中国発の外的ショック~日経1万円の大台割れ、1ドル90円も

そして3つ目が、外的ショックによる上昇相場の終焉で、そのきっかけは米国の利上げ継続と中国経済のハードクラッシュになるのではないかと見ます。

特に米国の勢力図が中国覇権を警戒し、中国にハードな態度をとるネオコン勢力が維持される場合にこのリスクが高まります。

この危機が露呈すると、リーマン危機以来のショックが世界市場を襲い、日本もこれに巻き込まれることになります。

■米追加利上げを引き金とする中国ショック

早ければこの秋にも中国ショックが生じ、日経平均は短期間に昨年のピークから半値となる1万円まで下げ、ドル円は90円あたりまで円高になる可能性があります。

きっかけは米国が9月に今年2度目の利上げを行い、中国から大量の資金流出が起こることです。人民元の下げを狙った欧米ファンドが売り攻勢に出て、中国政府は為替介入でしのごうとしますが、外貨準備がかつての半分の2兆ドル近くまで減少して防戦しきれなくなる可能性があります。

人民元の下落は、中国の外貨建て債務の返済負担を高め、中国国有企業が債務の返済困難に陥り、中国の債務危機が金融危機に発展する懸念があります。

米国がCFR主導であれば、中国への配慮からFRBも無理な利上げを避けるでしょうが、ネオコン主導の米国ではむしろ利上げを対中戦略のカードとして使う可能性さえあります。

■原油・資源価格の下落

人民元の下落自体が昨年夏以降と同様に世界の株式市場を揺さぶりますが、同時に中国経済のクラッシュは原油価格など資源価格の一段下落を招き、ロシアやブラジル、ベネズエラなどの経済に大きな打撃となり、ジャンク債市場では債務不履行が広がり、オイルマネーの縮小で、主要国の株や債券も売られます。

リーマン危機の際には中国が4兆元の景気支援策を打ち、欧米の危機を救った面がありますが、今の世界にはこれに代わる救世主が見当たりません。金融財政面からの危機対応力も低下しています。

IMFは人民元が今年10月からSDRの構成通貨に加わることを承認しました。それまでに為替や資本の自由化を進める必要があり、そこを欧米ファンドが衝いてくるのではないかと見ます。

第1の「アベノミクス行き詰まり」シナリオはすでに始まっているともいえますが、今後市場に広く認識される過程ではさらにボディブローのように効いてきます。

第2と第3のケースは今年中にも起こりうるもので、とりわけ最後の中国を巻き込んだ外的ショックはマグニチュード9近い破壊力を持つのではないかと思います。心の準備が必要ではないでしょうか。

【関連】3人の“黒船”が演出する「アベノミクス第3幕」(強気論)


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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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