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新規上場したダブルエーは、泥跳ねを気にしない婦人靴の開発でさらなる業績拡大なるか

ダブルエー<7683>は、2019年11月1日東証マザーズに新規上場しました。同社の株価は、公募価格4,690円に対して初値は-0.21%の4,680円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化

本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月8日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。

初値は公募価格から0.21%下落し、4,680円でスタート

ダブルエーをジョブ理論の視点からみる

株式会社ダブルエー<7683>(以下、同社)は、2019年11月1日東証マザーズに新規上場しました。業務内容は、婦人靴を中心とした自社商品の企画と販売です。

同社の株価は、公募価格4,690円に対して初値は4,680円をつけました。差異率は-0.21%と値を下げました。なお、1月7日時点の株価は3,460円です。

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。

では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社グループは、一般消費者を顧客とし、直営店舗および販売代理店、他社の運営するECサイトを通じて主に婦人靴を販売し、その対価として収益を得ます。また、他社とのコラボレーション商品を卸売販売し、その対価として収益を得ます。

ビジネスモデル的にみれば、同社グループのそれは、未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品──主に婦人靴──へと変換する価値付加プロセス型事業です。

同社グループは、対処すべき課題の一つとして「商品企画開発力の向上」を、事業等のリスクとして「経済状況及び消費動向について」「消費者嗜好の変化について」「市場構造の変化について」等をあげています。

Next: ダブルエーが今後、成長するために取り組むべき課題とは?



思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。

2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。

3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。

4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。

5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社グループが課題とする「商品企画開発力の向上」を取り上げます。同社グループはそれを、次のように認識しています。

当社グループの企業理念の実現にあたり、世の中に幅広く認められる商品・サービスを適正価格及び適正品質で提供してまいります。そのため、店頭における消費者動向や競合他社の把握・分析のほか、市場全体のニーズ・トレンドを迅速に捉え、消費者とのコミュニケーションを密に重ねることで、より顧客満足度の高い商品・サービスの企画開発力の向上に取り組んでまいります。

同社グループのブランドの特徴は次の通り。

定番ものからトレンド感を取り入れたデザイン性のあるものまで幅広いアイテムを取り揃えている(後略)。

自分のライフスタイルをもった女性に向けて、デイリー使いできるベーシックなデザインが中心。

思わず、「軽い!」と言ってしまうような軽さと履き心地で、機能性に特化したブランド。

トレンドをさりげなく取り入れ、都会的なデザインを提案する大人の女性に向けたシューズブランド。

こうしてみると、デザインや美観を重視するブランドが3つ、機能性に特化したブランドが1つということが分かります。ここで着目したいのは、軽さと履き心地以外の機能性、具体的には歩いた後の「泥はね」です。

雨の日に婦人靴を雇うとする顧客がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「駅まで急ぐ」ということ。感情的側面として「デザインや美観」以上に「泥はね」を気にするでしょう。また、「防水性」という面も見逃せません。

Next: ダブルエーがすべきは、婦人靴の新たな機能を開発すること



体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

雨の日に婦人靴を雇うとする顧客にとって障害となり得るのは、一つには先にあげた泥はね。ただし、それは本人の歩き方に大きく左右されるといいます。日経の記事は次のように指摘しています。

「泥がはねて足に付くのは歩幅やつま先の向きが影響しているはず」。つま先を真っすぐにして歩くのと内またや外また歩きでは泥のはね方が違うという。

「あとは靴のフィッティングの善しあしも関係がある」と大高さんが続けた。靴が足にしっかりフィットしていないと、地面をけった際に靴が揺れ動くので、泥がはねやすいらしい。

いずれにしても、こうした障害が取り除かれれば、顧客は「雨のに日に急いで駅に向かっても、泥はねでズボンが汚れることがない」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

社内プロセスの統合という意味で同社グループの課題となるは、ハード面でいえば防水性にすぐれ顧客の足にフィットする婦人靴を開発すること、ソフト面でいえば顧客の歩き方のクセをつかみ泥はねしない歩き方をアドバイスすることです。

では、同社グループがこうした婦人靴を開発しようとするのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要
な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社グループはリトル・ハイア──顧客が新しく開発した婦人靴を履いた回数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。なお、これは定期的に顧客アンケート等を実施すればある程度は確認することはできるでしょう。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・泥はねしない靴と歩き方は?
ttps://style.nikkei.com/article/DGXDZO09459690Y0A610C1W08101
・有価証券届出書(新規公開時)


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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2020年1月8日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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