マネーボイス メニュー

アイスランドとレバノン【フィスコ・コラム】

新型コロナウイルスの感染拡大で金融市場の混乱が続くなか、中東の小国レバノンが事実上の債務不履行(デフォルト)に陥りました。リーマンショックの時に財政破たんに追い込まれたアイスランドを彷彿させ、トルコなど周辺国への波及が警戒されています。

世界的な感染リスクを背景とした金融市場の収縮に歯止めがかかりません。NY株式市場は2008年の金融危機以降、初めての弱気相場に入っています。ドル・円はいったん112円台に上昇した後は急激な巻き戻しで101円台まで落ち込む場面もありました。そこに産油国による減産協議の決裂を受け、NY原油先物(WTI)が一気に30%も急落するおまけつきです。

そうしたなか、レバノン政府は外貨準備高の不足などのため、3月9日に償還期限を迎えた外貨建ての国債12億ドル分の返済を見送り、デフォルト危機を迎えました。同国は1990年の内戦終了後に、海外からの資金の借入れで復興に乗り出しますが、シリア内戦による国内情勢の混乱や経済の混迷で利払いが困難な状況に陥りました。発足したばかりの政権による国家再建への道は相当に険しそうです。

レバノンポンドの公式レートは1ドル=1507.50ポンドで固定されているものの、直近の闇レートでは2600ポンド程度まで値下がりし、それが物価を押し上げ生活を圧迫する要因になっています。今後変動相場制に移行すれば、6割近くも切り下げられそうです。物資のほとんどを輸入に依存している現状を踏まえると、債務返済の条件緩和に向けた関係国との交渉や緊縮策などの財政改革は急務と言えます。

リーマンショックの時のアイスランドでは、海外の投資家が一斉に資金を引き揚げたため流動性危機が発生しました。当時「優等生」とされていたアイスランドが金融危機によって非常事態宣言し、国際通貨基金(IMF)の支援を受けるようになるなど、想定外だったのではないでしょうか。他方、レバノンの破たんは時間の問題とみられていたため、金融市場への影響も限定的です。

ただ、デフォルトは周辺国に伝播する可能性もあり、目下、市場関係者の間では、レバノンの破たんがトルコに飛び火するとの見方も浮上しています。カルロス・ゴーン元日産自動車会長が昨年末にレバノン入りしたとの報道を受け、トルコリラが動意づく場面がありました。シリア問題ではスタンスの異なる両国ですが、地政学リスクとして意識されやすい面は否めません。

新型ウイルス感染拡大で南アフリカやメキシコなど新興国からマネーの流出が加速するとの観測が出始めています。トランプ米大統領は国民向けの演説で「金融危機ではない」と平静を呼びかけましたが、レバノンのデフォルトをきっかけにトルコをはじめとする新興国などから一斉にマネーが引き揚げられる状況になれば、まさにリーマンショックの再来です。

あれから12年。大きな変動の発端は、人があまり注目していないようなところにも表れるという当時の教訓は生かされるでしょうか。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。