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事業規模108兆円の経済対策では不十分

4月7日、安倍首相は新型コロナウイルスの感染拡大に対して緊急事態宣言の発出に踏み切った。事業規模で108兆円とリーマンショック後の経済対策56.8兆円の1.9倍に上る緊急経済対策も発表した。海外メディアからは遅すぎ、かつ少なすぎるとの指摘もあるが、今回の経済対策はどのような効果があるのかを考察したい。

1929年の大恐慌期の日本のGDPは4年で元の水準に回復したが、産業区分ごとでは第1次産業の回復が遅れ、第2次産業、第3次産業の4年に対して8年もかかった。また、2007年のリーマンショック期には、GDPの回復に9年、第1次産業が9年、第2次産業が10年、第3次産業が8年かかっている。

大恐慌期には「高橋財政」と呼ばれる経済政策がすすめられた。高橋財政では金本位制離脱に伴う円安をある程度放任する一方、赤字国債の日銀引き受けを伴う財政支出の拡大と金利引き下げによって景気を刺激したことを評価する研究者もいる。また、当時の景気回復の原動力ともいわれる繊維品を中心とする輸出は1931年に増加へ転じているが、その要因の1つとして為替レート(円)の下落もあげられている。

また、リーマンショックの際には、国民全員に対する「定額給付金」、環境性能に優れた新車購入への「エコカー補助金」、省エネ性能の高いエアコン、冷蔵庫、地上デジタル対応テレビの購入に対する「エコポイント」などが経済対策として実施され、平成21年(2009年)度補正予算には15.4兆円の財政出動が計上された。また、雇用者報酬が8年もかかっているのに対して、民間消費支出が5年で回復したことから、政府の経済対策が民間消費の改善に一定程度の効果を及ぼしたと評価できる。

今回打ち出された経済対策の内容は、事業規模でこそリーマンショック期を大きく上回るものの実際の財政出動は39.5兆円であり、すでに決定された経済対策を除く新たな追加分は29.2兆円である。さらに「雇用の維持と事業の継続」へは22兆円が充当されているが、令和2年(2020年)度補正予算では景気に直接影響する中小企業や世帯への給付金と児童手当の上乗せに6.5兆円しか振り分けられていない。リーマンショック期の緊急対策に計上された家計・生活関連2.6兆円、中小企業・雇用対策0.7兆円と比較すると、規模的には2倍だがGDP比では1.2%程度である。もちろんマスクの配布やアビガン増産等の政策が経済に反映される部分を無視することはできないが、1,425億円と規模は小さい。また、新型コロナウイルス収束後の対策費や予備費は、3.2兆円と規模こそあるものの、効果が短期間で現れにくい。

4月7日に実施された令和2年度第4回経済財政諮問会議で提示された「民間調査機関等による経済見通し」では、2020年の日本経済の減少は0.2~4.8%と予想され、最も悪い予測を平均すると3.2%のマイナスとなる。GDPがこの予想に従って減少するとすれば、今回の経済対策は十分とは言えないかもしれない。

サンタフェ総研上席研究員 米内 修
防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。

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