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消費増税の行方とその影響~過去の増税タイミングで何が起きていたか=久保田博幸

消費増税を再延期するのかどうか、それに合わせる格好での衆参同時選挙があるのか。5月の伊勢志摩サミットあたりまでには何らかの結論が出ているかもしれないが、現状ではリーマン級の事態の有無に関わらず、再延期される可能性は高いのではなかとみている。ここでは過去の消費増税のタイミングで何が起きていたのかを確認してみたい。(『牛さん熊さんの本日の債券』久保田博幸)

3%、5%、8%――消費増税のタイミングで何が起きていたか

強かった国民の反発

1979年9月の大平総理の所信表明において、特例国債を含めた国債の本格的な償還が始まる1985年を控えた1984年までに特例国債依存体質から脱却するための目標が明らかにされた。この財政再建のために一般消費税の導入が図られ、10月の総選挙で国民に問われることとなったが、国民の反発は強く自民党は大敗した。

その後、1986年の中曽根政権の際にも、赤字財政を解決するために、税制を是正しようとの動きがあった。売上税法構想であるがこれも世論の反発等もあり導入は失敗に終わる。

3%の消費税導入

1988年の竹下政権時に消費税法が成立し、1989年4月からは所得税や法人税などの大規模な減税と引き換えに3%の消費税が導入された。消費税導入後の1989年5月に日銀は公定歩合を3.25%に、10月には3.75%に、12月には4.25%と引き上げ、完全に金融引締策へと転向した。

これは消費税の導入の影響ではなく、景気の過熱感というかバブルへの対処であった。日経平均株価は1989年の大納会の大引けで3万8915円を付け、これが最高値となってバブルは崩壊する。

このように1989年4月の消費増税導入の金利への影響については、バブル期という特殊事情もあり、その影響だけを判断することは難しいが、消費税導入後の短期金利は上昇し、債券相場も1989年には下落基調となっており、金利は上昇局面にあった。

1993年8月に38年ぶりの非自民政権である細川内閣が誕生した。1994年には細川政権で消費税を廃止し、税率を7%とするという国民福祉税構想を突然打ち出した、しかし、これは与党内からの反対もあり翌日白紙撤回した。

1995年11月に武村大蔵大臣は財政危機宣言を行った。1996年度の国債発行額が22兆円近くに迫り、税収の約半分にも達する見込みとなったためである。

消費税3%から5%への引き上げ

1997年4月に橋本内閣において、減税の財源として消費税の5%への引き上げが実施された。財政構造改革と消費税の導入がその後の景気後退の要因とも指摘されたが、バブル崩壊後の金融システム不安などによる影響もあり、その影響だけを判別することは難しい。

長期金利の動向だけみれば、消費税導入以降は上昇基調となり、そして5%への消費税の引き上げ以降は歴史的な水準にまで長期金利は低下した。このように消費増税のタイミングは金利にとっても何か大きな変革期であったことは確かである。

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安倍内閣での5%から8%への引き上げ

そして、2014年4月1日に安倍内閣時に消費税は5%から8%に引き上げられた。このタイミングで何が起きたのか。いわゆるアベノミクス相場は継続中であったが、いったんピークアウト感も出ていた。ただし、最もピークアウト感が強かったのが消費者物価指数であり、このため同年10月に日銀は異次元緩和第二弾を決定した。

そして2014年11月18日に安倍首相は2015年10月に予定していた消費税率10%への引き上げを2017年4月まで1年半延期し衆院解散・総選挙に踏み切る考えを表明した。

米国株式市場の上昇も追い風となって日経平均は2015年4月に2万円台を回復し、ドル円は2015年6月に125円台をつけたが、ここで完全にピークアウトすることになる。そして、金利については2016年1月に日銀がマイナス金利付き量的・質的緩和策を決定したこともあり、10年債利回りもマイナスとなった。

個人消費がこの間、落ち込んでいるため、リーマン級の事態が発生しているとの見方もあるようだが、個人消費の落ち込みをすべて消費増税の影響とするのはかなり無理もあるまいか。

国債の利回りについては消費増税の有無よりも、日銀の金融政策などに影響を受けやすい。これは海外格付け会社の日本国債への格下げの際にも言えることではあるが、財政規律等が意識されて日本国債が動揺することは過去にあまりない。それだけまだ国債への信認は厚いとの見方もできようが、その信認は今後も維持されるから何を行っても大丈夫であるとの保障はない。

信認は積み上げて維持する事は大変な労力が必要であるが、崩れるときはあっけない。これは近年のギリシャなどが良い事例となろう。

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牛さん熊さんの本日の債券』2016年4月11日号より
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