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相続こそ「印鑑廃止」の聖域。押印を省略すべきではない合理的な理由=池邉和美

行政手続きでの「印鑑の廃止」が話題になっていますね。相続の手続きにおいても多くの印鑑が必要ですが、これらは今後も残っていく可能性が高いでしょう。(『こころをつなぐ、相続のハナシ』池邉和美)

プロフィール:池邉和美(いけべ かずみ)
1986年愛知県稲沢市生まれ。行政書士、なごみ行政書士事務所所長。大学では心理学を学び、在学中に行政書士、ファイナンシャルプランナー、個人情報保護士等の資格を取得。名古屋市内のコンサルファームに入社し、相続手続の綜合コンサルに従事。その後事業承継コンサルタント・経営計画策定サポートの部署を経て、2014年愛知県一宮市にてなごみ行政書士事務所を開業。

相続の手続きは印鑑が「廃止されない」?

行政手続きでの「印鑑の廃止」が連日話題になっていますね。車を新しく買った際に必要な車庫証明なんかも、押印の廃止に向けて進んでいるようです。

さて、相続の手続きにおいても、多くの印鑑が必要です。

例えば、相続が起きた後で、特に遺言書等がない場合には、原則として遺産分割協議書が必要ですが、これには、相続人全員の実印が求められます。

では、こういった印鑑も廃止されていくのでしょうか。

これについて、現状で特に個別で言及されているわけではありませんが、印鑑廃止の趣旨からいけば、遺産分割協議書の印鑑は「廃止されない」可能性が非常に高いと思います。

また、遺産分割協議書に限らず、現状で実印での捺印が求められている書類、つまり印鑑証明書とセットで考えられている書類については、押印は廃止されない方向でしょう。

慣習としての印鑑は廃止されていく

これは、そもそもの印鑑の役割を考えると、分かりやすいと思います。

例えば、車庫証明を取る時に押す印鑑は、もともと、実印に限られていませんでした。100円均一等にいけば認印など誰でも入手できますが、こういった印鑑でも、まったく問題なく申請は通っていたわけです。

つまり、車庫証明にとっての押印は、押印により本人確認をするという意味合いではなく、単に慣習として押印を求めていた、ということでしょう。

私の専門は遺言書作成サポートや相続発生後の手続きですが、資格としては行政書士ですので、こういった役所への申請手続きもたびたび行なっています。

役所への申請手続きの中には、この車庫証明の例のように、実印を求めるわけでもなく、いったい何のための押印なのかよくわからないものが数多く存在しているのです。

こうした、単に慣習としての印鑑は、今後、順次廃止されていくことになるでしょう。

Next: 相続の押印は事情が違う。本人が自分の意思で捺印したことの証明に



相続の押印は事情が違う

一方、遺産分割協議書への押印は、これとは事情が異なります。

遺産分割協議は、大前提として、共同相続人全員で行なわない限り、無効です。

また、仮に認印で手続きができたり、印鑑そのものが不要となったりすれば、一部の相続人が遺産分割協議書を偽造することが容易になってしまいますし、さらに、金融機関などの手続き先にとっても、提出された遺産分割協議書が偽造かどうかの判断が、非常に大変になってしまいます。

つまり、遺産分割協議書においては、本当に「その本人が、本人の意思で捺印した」ということが、非常に重要なのです。

そのため、通常は認印では手続きはできず、「実印」での捺印+印鑑証明書の添付が求められています。

このように、本人の意思を担保する意味合いで捺印を求めている書類、すなわち、実印での捺印+印鑑証明書が求められている書類については、原則として、当面は印鑑の廃止はされないと考えた方が良いでしょう。

電子署名が普及するまでは印鑑必須

なお、「当面は」というのは、仮に将来、電子署名を多くの人が使いこなせるようになれば、その電子の署名が印鑑証明と同じ役割になりますので、紙への押印から電子での署名に移行する可能性は充分考えられる、という意味合いです。

ただ、マイナンバーカードさえ普及していない現状ですから、ここ数年では難しいのではないでしょうか。

いずれにしても、遺産分割協議書など、相続手続きに必要な書類への押印は、いま進んでいる改革の中では、廃止されないと考えて良いかと思います。

連日、印鑑廃止のニュースを聞いていると、すべての手続きで印鑑がなくなる、と思ってしまいがちですが、遺産分割協議書など、重要な書類の押印までなくなるわけではありませんので、誤解の無いようにしておかれると良いでしょう。

image by:mapo_japan / Shutterstock.com

こころをつなぐ、相続のハナシ』(2020年10月28日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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