これまでの日本の歴史を振り返ったとき、第2次世界大戦における「敗北」を抜きに語ることはできません。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者、北野幸伯さんは自身のメルマガで「敗戦国として自虐的になるよりも、失敗を踏まえて未来を見据えよう」と提唱しています。
自虐史観からの脱却を図るために
さて、私は常々、「自虐史観から脱却しましょう」と書いています。
しかし、それだけでは足りません。
次に必要なことは、「なぜ日本は戦争に負けたのか」を冷静に分析することです。冷静に分析するだけでなく、今の時代に活かす。でなければ、「また敗戦」ということになりかねません。
日本史、世界史を研究してみると、「日ロ戦争まで、日本、イギリス、アメリカの関係は非常に良好だった」という事実がわかってきます。
しかし、日ロ戦争後、アメリカは明確に「反日」になっていきました。アメリカは日ロ戦争時、戦時国債を大量に購入し、資金面で日本をサポートしました。
そして、講和の仲介もした。
終戦後、鉄道王ハリマンは、「日ロ戦争で日本がロシアから譲りうけた南満州鉄道を共同経営しよう!」と提案。日本はこれを拒否します。今考えると、とても残念なことでした。
なぜか?
「日本は悪くなかった説」の重要ファクターは、「ロシアの南下政策」です。日本が韓国を併合したのも、満州にむかったのも、「ロシアが脅威だから」でした。
そうであるなら、満州にアメリカを入れたらどうなったでしょう?
そう、ロシアの南下をアメリカが食い止めてくれたでしょう。日本にとって、安全保障上、非常においしい話だったのです。
しかし、日本政府はこの提案を拒否した。
それでアメリカは、「日ロ戦争時、日本を一生懸命支援したが、利用されただけで何も得ることがなかった。日本は、満州利権を独占したいのだ」と激怒します。
そう、「第2次大戦敗北」の種は、終戦40年前すでにまかれていたのです。
イギリスの恩に「仇」で報いた日本
さて、日本が世界最強の陸軍国ロシアに勝った。
もちろん、日本軍が死力を尽くして戦ったことが第1の理由です。しかし、当時世界の覇権国家だったイギリスと同盟関係にあったことも非常に大きな要因でした。(日英同盟=1902~1923年)
イギリスは、
・フランスやドイツが、ロシア側に立って戦わないようけん制してくれました
・戦費の調達を助けてくれました
・軍事情報を提供してくれました
・情報戦において、国際世論が日本に味方するよう誘導してくれました
・ロシアが「軍艦を購入しようとしている」情報があれば、イギリスが先回りして購入。ロシアが軍艦を買えないようにしてくれ
ました
・バルチック艦隊がこれないよう、足止めしてくれました
などなど、最大限のサポートをしてくれたのです。
そんなイギリスですが、日ロ戦争から10年目、史上最大の危機に直面します。
そう、第1次大戦が勃発したのです。日本は、地中海に艦隊を派遣し、大いに貢献しました。
しかし日本は、陸軍派兵の要求を拒否しつづけた。イギリスは、同盟国日本の冷淡さに、心底失望します。
「我が国は、日ロ戦争時、全力をあげて日本を助けた。しかし、今我が国が存亡の危機にたっているとき、同盟国日本は、われわれを見捨てるのか!」と。
イギリスの失望と怒り
日本側の冷淡さについて、駐日イギリス海軍武官エドワード・H・ライマー大佐は、1918年3月11日「日本の現状」という文書の中で、以下のように報告しています。
われわれが強い態度で状況を明確に説明し、イギリスが過去いかに日本を援助したか、同盟国として何をすべきかを明確に説明し、同盟国としての義務に耐えるべきであると強く示唆すると、日本人はわれわれから離れてしまう。
そして、イギリスが援助を哀願し、へつらい譲歩すると、賢い者はうまくやったと秘かに得意になり、無知な者は単に自信を増加させ要求をエスカレートさせるだけである。(中略)日本は金に酔いた太平洋のリーダーという夢に目が眩んでいる。
第1次大戦中、駐日大使だったウィリアム・C・グリーンさんは、
戦争が勃発しわれわれが手一杯の時に、わが同盟国にいかに失望したかを語る必要はないであろう。任期中に加藤高明、本野一郎、後藤新平、石井菊次郎の四人の外務大臣に接したが、イギリスの協力要請に対する対応は常に同一態度、すなわち、直ちに拒否するか、後程回答すると述べて拒否するか、未だ考慮中と述べて時間切れを待って拒否するかの何れかであった
当時の日本政府には、「同盟国イギリスを助けよう」という気持ちは「まったくなかった」ようです。
外務次官ニコルソンさんは、
私は日英同盟を全然信用していない。日本は最小のリスクと負担で最大の利益を引き出そうとしている
そして、最大の衝撃は、1917年3月に大英帝国会議で配布された、「日英同盟に関する覚書」でしょう。
日本人は狂信的な愛国心、国家的侵略性、個人的残忍性、基本的に偽りに満ちており、日本は本質的に侵略的国家である。日本は自分の将来に偉大な政治的未来があると信じている。すべての日本人は侵略的な愛国心、近隣の黄色人種、褐色人種よりも優れているとの優越思想を、生まれた時から教えられてきた。そして、近隣諸国に日本独自の文化を押し付けることを道義的義務と考えている。この日本の侵略的な野望とイギリスの適正な要求とを調和する余地があるであろうか。
う~む。
「世界一広大な植民地をつくったイギリスに、『道義云々』を口にする権利があるのか?」と突っ込みたくなりますが。
しかし、事実として、イギリス議会は日本に対して大いに憤っていたのです。
これは「人種差別」でしょうか?
もちろんそういう要素もあったでしょう。
しかし、「イギリス史上空前の危機に、日本は同盟国としての義務を果たさなかった」ことが最大の理由といえるでしょう。
第1次大戦の結果、イギリスは「日英同盟破棄」を決意します。
そればかりではありません。大戦時イギリスを救ってくれたアメリカと急速に接近していった。
米英はこの時から、「日本をいつか叩きつぶしてやる!」と決意し、「ゆっくりと殺していく」ことにしたのです。日本は、日ロ戦争直後、第1次大戦時の不誠実な対応で、「敗戦への道」を歩みはじめていたのでした。
現代への教訓
さて、「日英同盟破棄」から私たちは何を学ぶべきでしょうか?
「集団的自衛権行使容認」について、反対している人がたくさんいます。その一番の理由は、「アメリカの戦争に巻き込まれて日本人が死ぬから」です。
わかります。
しかし、同盟国アメリカの立場から見てみましょう。日本は、「有事の際、アメリカは日本を守らなければならない」と当然のごとく考えています。
つまり、
「日本人がアメリカのために一人死ぬのは絶対ダメだが、アメリカ人が日本のために何千人死のうが、それは『当然だ』」と。
もちろんそんな風には考えていないでしょうが、アメリカから見るとそうなります。
日英同盟のときもそうでした。
「イギリスが日本を助けるのは当然だが、日本はイギリスを助けたくない」
これは「エゴ」であり、「不誠実」です。
日本は「武士道」の国なのではないですか? 日本は「道義国家」なのではないですか?
「おまえ(アメリカ)が俺(日本)のために死ぬのは当然だ。だが、俺(日本)は、おまえ(アメリカ)のために、決して死なない。なぜなら、俺(日本)は『平和主義者』だからだ」
こういう論理は、果たして「尊い」のでしょうか?
アメリカから見ると、ただの「狡猾さ」にしか思えないでしょう。
ちなみにアメリカから、「日米同盟はおかしい」という声があがっています。
大統領選で人気ナンバー1のドナルド・トランプが、
「日本が攻撃されたとき、アメリカは日本を守る。アメリカが攻撃されたとき、日本は何もしない。これはおかしくないか?」
と叫ぶ。
すると会場にいるアメリカ人はみな、「イエ~~~ス!!!」 と大声で叫んでいます。国家は、皆「自分の利益」(国益)を追求しています。それは、私たち自身、あるいは会社も同じ。
しかし、会社が利益をあげるために不誠実な行為をしたらどうでしょうか? 短期的には、利益を増大させることができるでしょう。長期的にはお客さんの信用を失い、失墜していきます。国も同じですね。どの国も、自分の国の利益を第1に考えています。
しかし、あからさまに不誠実な行動をすれば、それはブーメランのように自国に戻ってきます。日本は第1次大戦時、ほとんど無傷ですみ、好景気で大いに儲けました。
しかし、長期的には、自分の不誠実な行動でイギリスを敵にしてしまった。
今、日本はアメリカの同盟国です。
自国の利益ばかり最優先で考えていれば、アメリカは日本に失望し、「中国と組んで日本を叩きつぶそう」となることでしょう。
ちなみに今回は、平間洋一先生の
●「日英同盟 ~ 同盟の選択と国家の盛衰」(詳細はコチラ )
を参考にさせていただきました。30年海上自衛隊で勤務された平間先生の本は、濃いです。絶対お勧めです。
image by: Wikimedia Commons
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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