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「水爆」発表に懐疑的な声も。北の核実験を各紙はどう報じたか?

北朝鮮が1月6日に行った核実験に世界各国から非難の声が上がっています。被爆国である我が国のメディアはこの蛮行をどう伝えたのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』では、新聞各紙の「看板コラム」に着目し分析しています。

各紙の看板コラムは、「北の核実験」をどう捉えたか

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「北朝鮮が核実験」「『初の水爆』に韓国懐疑的」「中国に通報せず強行」
《読売》…「北朝鮮が4回目核実験」「安保理が緊急会合」
《毎日》…「北朝鮮『初の水爆実験』」「安保理 制裁強化へ」
《東京》…「北朝鮮核実験 規模小さく」「『水爆』は強化型原爆か」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「核実験 周到に計画」
《読売》…「核誇示 対米交渉狙う」「中国 制裁同調を示唆」
《毎日》…「北朝鮮 突然の強行」「国際社会 批判一色」
《東京》…「北朝鮮 窮余の強硬策」「狙いは弾頭小型化」

◆今日のテーマは…

各紙の看板コラムは、「北の核実験」をどう捉えたかです。

基本的な報道内容(《朝日》の1面記事などをもとに要約)

北朝鮮は6日、2013年2月以来となる、4回目の核実験を行った。朝鮮中央テレビは、「特別重大放送」で、初めての水爆実験に成功したとする政府声明を伝えた。今年5月に予定されている朝鮮労働党の党大会に向け、金正恩体制の結束を強める狙いと観られている。これに対し、日米韓に加え、中国も厳しく非難。国連安保理は緊急会合を開き、対応を検討。安保理決議違反として、制裁強化を検討する。

今回、北朝鮮は、前回には行っていた米国と中国への事前通告を行わなかった。韓国軍関係者によると、爆発は6~7キロトンと小さく、水爆とは考えにくいという。韓国は今回の実験の兆候を事前に把握できなかった。

冷たい手の女性

【朝日】のコラム、「天声人語」の書き出し。「異界に迷い込んだような気分になった」というのは、記者が取材した25年前の平壌のことだ。主体思想塔や建設中だった柳京ホテルの天を付くような有り様を「すべてが大ぶりで威圧的にできていた」と感じた記者は、当時の金日成主席と握手をする機会があったという。暖かく柔らかな手。ところが、参加させられた市民とのフォークダンスで相手となった女性の手は、対照的に、冷たく荒れていたという。

3代目の金正恩第1書記による核実験。「売り家と唐様で書く三代目」を地でいけば、自らの身を滅ぼすことにならないかという記者。締めは「この国の独裁者が狼藉を働くたびに、4半世紀前の女性の荒れた手が思い出されて悲しくなる」と。

uttiiの眼

取材をベースにしたようなスタイルだが、これはいかにも《朝日》流。かなり頭でっかちな、書斎で書いたコラムに見えた。いや、書斎で書くこと自体が悪いのではない。どうせ頭でっかちなら、北朝鮮の「米国など敵対勢力から国を守るためだ」という言い分をどこかに反映させたって良かっただろうに。何も、核実験を「よくやった」と誉めてやる必要はないけれど、これでは、余りにも一方的な決め付けに終始しているように思う。

25年前、女性の手が冷たく荒れていたのは、人民の生活を顧みない独裁国家ゆえのことだったという証明はどこにもない。裕福で幸せな人でも、手が冷たく、荒れがちな人はいる。

ビキニから豊渓里へ

【読売】の「編集手帳」は意表を突いたもの。「古今東西、歌の題名は数あれど、景気の良さでは指折りだろう」ときた。昭和32年に書かれた詩で、西條八十作詞、上原げん作曲の「大当たり景気ぶし」。この歌の歌詞に、国際政治が顔を出すというあたりから、本題に入っていく。

「さくら咲く咲く平和の空で、野暮な原爆ためすバカ」。

この歌の3年前、ビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験で、日本の第5福竜丸などが被ばくしたことを指す。記者は「敗戦の焦土からようやく復興の扉をあけた当時の人々は、核が繁栄の敵であることを骨身にしみて知っていた。「なんと野暮でバカな」は実感だったろう」と書いている。

北朝鮮による今回の核実験に話を移すと、記者は「国内経済が疲弊の一途をたどるなかで、救い手であるはずの国際社会からこれ以上孤立してどうする」とした。

uttiiの眼

ビキニ環礁でのアメリカの水爆実験と日本漁船の被ばく、そしてそこからアメリカが「核の平和利用」と原発売り込みの大宣伝を《朝日》や《読売》も巻き込んで展開し、やがて東電福島第1の事故に続いていく経緯を考えると、さすがに《読売》は「原子力ムラの一角と目されるだけあって、その間の事情をキチンと整理しているのだなと感じる。60年前の核実験を思い出すことを通じて、今回の北朝鮮の核実験を照射するなどということは、簡単に思いつくようなことではない。

だが、核実験だけが「野暮でバカ」なのではない。原発もまた、「野暮でバカな試みに過ぎないと私は思う。もちろん、《読売》はそのように書いているわけではないが。

花火と核

【毎日】の「余録」の書き出しはロシア。ピョートル大帝が大変な花火マニア」だったというところから。「花火研究室」を作り、自ら花火を作り、打ち上げや仕掛けの演出もしたというから驚く。そのあたりのディテールが続くが、ここまでの話は、清水武夫「花火の話」がネタ本として紹介されている。そして、このピョートルとは違い、「国の政治や経済の近代化に背を向け、国民の窮乏をよそに危険な火遊びに熱中する独裁者のいまわしい道楽」と断ずるのが、今回の北朝鮮の核実験という展開。

記者は、「思い起こされるのは、先頃金正恩第1書記が「水爆の爆音を響かせる核保有国になった」と発言した後、北の楽団の北京公演が急に中止された一件」だと言う。金正恩発言に中国が不快感を示し、公演を中止させたのだと記者は言いたいようだ。コラムの締めは「花火代わりに核をもてあそぶ絶対君主気取りを許してはならない21世紀である」と結んだ。

uttiiの眼

楽団の北京公演の件を書いた後、記者は「テスティング(実験)」には、子どもが保護者をわざと困らせて自らへの関心を試す行為という意味もあり、今回の北朝鮮と中国の関係に準(なぞら)えている。

花火の譬えが全体を貫通していないので、まあ、なんとなく、話の種として書き始めに使っただけのような形になっているのが惜しまれる。それに、ピョートルはロシアを文字通り帝国に拡大強化した人で、近代化以上に、戦争に明け暮れた人物という印象。花火も決して風雅な楽しみというわけではなく、戦意高揚とか国威発揚の道具だったのではないか。だとしたら、「花火はよいが核実験は…」というような印象で扱うのはどうだろうか。大いに疑問だ。私自身は、ZEDDがコンサートで使うものを含めて、花火は大好きだが(笑)。

ヒロシマから豊渓里へ

【東京】の「筆洗」は、63歳の詩人、柴田三吉さんの経験から書き始める。柴田さんは10年ほど前に広島での平和祈念式典に行き、そこで、3万人もの韓国・朝鮮人が原爆の犠牲になったことを知ったという。後にそのことを「ちょうせんじんが、さんまんにんという詩に書いた。夫と2人の子どもを失った女性の独白で、「生涯をかけて見るはずだった光を わたしはそのとき 一瞬にして見てしまいました。生涯をかけて見るはずだった光が束になって からだのなかに入ってしまったのです」とある。3人の小さな遺骨を入れた牛乳瓶だけを持って半島の故郷に帰った女性。彼女は、身体の中に入った光に埋もれて夫の顔、子どもの顔を思い出すことができない。「思い出すためには闇が必要でありますが、私のからだの中に、夜の草原のようなやわらかい光はありません」と続く。

その残酷な光を手にしようと、核実験を強行した北朝鮮の行為は、ヒロシマとナガサキで焼かれた幾万人の同胞の残影を踏みにじる「民族史的大暴挙」なのだと、記者はコラムを締めている。

uttiiの眼

余りにも文章が稠密に仕上げられているので、紹介しようとすると、そのまま書き写したい衝動に駆られてしまう。それくらい緊張感のあるコラム。通常なら、構造にしたがって分解することができるのだが、今日の「筆洗」に関しては困難。類い希な詩人の作品を使っているということはあるにせよ、この筆力は凄い

私は30年以上前、広島の平和祈念式典で同じことを知った。長崎と併せて3万人という数字は記憶していないが、平和祈念公園の一角に朝鮮人被爆犠牲者のための碑が建てられており、そこに在日の人たちが大勢集まって、追悼の式典を開いている場に、たまたま遭遇したからだった。

《読売》は豊渓里を逆照射するにあたって60年前のビキニ環礁を選んだが、《東京》は70年前のヒロシマ・ナガサキから。いずれも切れ味が鋭い

「筆洗」の文中、「3万人もの韓国・朝鮮人が原爆の犠牲になった」とあるが、これは微妙だ。原爆投下時点では、まだ韓国は存在しないので、少なくとも、「大韓民国の国民」という意味で韓国人を使うのはおかしい。ただ、原爆投下後、韓国成立後に亡くなった方の中には「韓国人」はいたかもしれない。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

やっぱり、コラムに順位を付けたくなりました。今日は間違いなく《東京》の「筆洗」が1位、2位は《読売》の「編集手帳」、3位は《毎日》の「余録」、最下位は《朝日》の「天声人語」となりました。《朝日》ファンの皆様ごめんなさい。では、また明日。

image by: Wikimedia Commons

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/1/7号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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