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特別対談 高城剛×石田衣良「これからの出版はライブと同じ」

世界を股にかけ、幅広いメディアで活躍中の高城剛さん。最近ではノマド的生活をしていることでも注目を集め、その経験を書いた本も出版されています。そして、ベストセラー作家として多くの小説やコラムを発表し続けている石田衣良さん。近いようで遠い世界にいるお二人が、自身の視点で日本の出版業界の先行きについて語り尽くしたスペシャルトーク。お二人の有料メルマガをご購読いただいている読者限定で公開している対談を、今回は特別に一部だけお見せします。本が売れなくなったと言われて久しいですが、このまま日本の出版は終焉を迎えてしまうのでしょうか…? 

大手出版の終焉と作家たちの夜明け

石田:高城さんは先日、本を出されたんですよね。ちょっと待って下さい……これですね。『人生を変える南の島々 アジア編』。2480円です!

高城:ありがとうございます(笑)。紙の本は、それなりに価格高くしました。しっかり作って、贈答品にもなるように。それが、今の紙の本の役目のようなものだと考えています。デジタルはもう少し安価に出して、そのうち文庫みたいに廉価版も出したいですね。これは、スマホ用のアプリの仕事かもしれません。

石田:紙の本でも、いわゆる文芸書は、1800円を超えるあたりが分岐点って言われているんですよ。

高城:それ以上の価格はダメだと言われるんですか?

石田:……まぁ、デフレなんでしょうね。これまでも吉野家の牛丼並に本の値段が下がらなかったってだけで、本は高いと言われちゃう。

高城:僕もいろんな出版社とお付き合いがありますが、この『人生を変える南の島々』シリーズは、原価からくる価格にたいしても僕の意見をしっかり言える小さな出版社から出しました。これは今までの作家と出版社の関係というより、共同プロジェクトのような感じです。価格は高いと思われるかもしれませんが、昔のLPレコードやCDより安い設定にはしました。

石田:確かに。2480円ですもんね。

高城:世間ではデフレと言われながらも、タクシーも電車代も、ちょっとずつ値段は上がっているわけですから、それを考えると極端には高くもないと思っていますし、紙の本価格こそ、規定を破るべきです。本当に良いと思った人は、多少高くても買うと信じてますし、もっと1万円の本があっても50円の本があってもいいはずです。

石田:そうなんだよなぁ……でも、なんで、その理屈が出版業界の人には通じないんだろう。

高城:それは大きい出版社や流通の旧来型のシステムを守るためだと思いますよ。それに挑むのは、面倒くさいし。価格でも装丁でも流通方式でも、ちょっとしたことも変えるのはダメなんです。前例がないから。だから僕が自分の本の値段に意見するのは、講談社や集英社とか、大きな出版社では絶対ダメだったと思うんですね。営業的にダメだって言われるだろうし、担当編集者はいいって言っても、社内的にOKは出ないと思います。役員会にかけるレベルだと思いますよ。

石田:そうですよねー。

高城:この本は、小さい出版社で出した上に、電子版著作権は、僕が持てるようにしたんです。だから、本当に共同事業なんですよ。

石田:電子版はどこで出すんですか?

高城Amazonです。自分のタイミングで自分の好きな時に出します。

石田:ちなみに、書籍は2480円じゃないですか。Amazonの電子版はいくらぐらいで出すんですか?

高城:決めていません。

石田:決めていないんだ!

高城値段自分で決めますから。デジタルなら、今日価格を決めても、明日出したいと思ったら、販売できますし、日によっても変えられます

石田:そうかぁ、電子版の版権を切り離すっていう手もあるんだよね。

高城:コンテンツってナマ物ですよね。当然、価格もどんどん落ちていきます。アメリカではハードカバーもどんどん安くなっています。日本は、不思議な制度で守られているワケですけど、電子版に関しては、自由に値が付けられるのと、僕の裁量で決められるので、青果店のオヤジみたいに「今はバンバン安く売っちゃえ!」って、突然どんどん売ったり、「今だったら高く売れるぞ」ってことで、値段を高くすることもできるんですよ。

石田日本の出版業界は、もうずっと縮小を続けているんですが、業界が縮小していく状況に関して、高城さんだったらどういう提案をなさいます? みんなで悩んでいて、何にもできていないっていうのが、現実のところなんですが。

高城:僕は出版社自体の未来はあんまり考えてません(笑)。僕は、自分個人が出版社みたいなもんじゃないですか。ですから石田さんなら「石田出版」っていうものになるんじゃないでしょうかね?

石田:そっかぁ。でもそれをやるとな……。今の出版の生態系って、とても気持ちがいいものじゃないですか。みんなでバカ話して、お酒を飲んでと。

高城:わかります。僕も好きですよ、そんな古い世界も。

石田:何とかそれを、もうちょっと守れたらいいなぁ、と思うんですけどね。

高城:でも限界がありますよ。これが10年続くとは思えない

石田:確かに思えないです。次の消費税増税のタイミングが分水嶺ですね。前回、消費税が上がった時も、ガクッと販売が落ちていましたから。

高城:今の大手総合出版社では、マンガ雑誌の収益が書籍を上回ってますが、その雑誌自体は完全にダメになっていくメディアですよね。あるジャンルの1位か2位の雑誌しか残らなくて、3位以下は全部淘汰されてしまうでしょう。しかも広告主のための本作り。だから、出版社の未来って、本当は書籍にかかっていると思うんですよ。ただそれが、価格を守ったり古いシステムを維持していたりする間は、とても良くなるとは思えません。

石田:そうかぁ。やっぱり、どこかで壊れる時期は来ないといけないのかなぁ。

高城:そう思いますね。音楽業界だってそうだったじゃないですか。あっという間に変わる。

石田:音楽業界は阿鼻叫喚ですもんね。傍から見てると何だかかわいそうで。

高城:アーティストが真剣に歌ってるかどうとかはさておき、産業構造としておかしくなってますよね。ところが世界的に見ると、音楽市場って伸びているんですよ。

石田:なるほどなぁ。でも音楽業界全体が伸びていても、個々のアーティストの生活って、昔みたいなメガヒットはないので、結構下がっていますよね?

高城:ただ世界的に見ると、ライブなどの収入益がものすごいわけですから。結果、多角経営をしているので、昔のアーティストより稼いでますよ。DJなんかが典型です。

石田:そう、そこなんですよね。要するに小説家の場合はライブはないじゃないですか。

高城:僕は講演会をやってますね。

石田:あぁ、講演会ね。ただ講演会って、できる人とできない人がいるからなぁ。

高城:講演会といっても、作家が壇上で話す今までの講演会とちょっと違うんです。いい言葉がないから、講演会と例えていますが、実際は読者と共有する場のようなもので、ライブのようなものなんです。僕は出版業界や映像業界って、音楽業界に10年とか20年くらいビハインドしている気がします。

石田:それはありますね。

高城:音楽業界の人たちのほうが進んでいますね。かつてCDを産業の中心に置いていた時には、ライブの方はプロモーションと捉えていて、赤字でも良かったんですよ。CDが売れればOKで。僕が今やっていることもそれと同じような感じで、講演会やるときは赤字でもいいんです。読者とともに良い体験することだけを考えています。

石田:なるほどね。でもそういうことは、そのうち作家も握手会、握手券付きの本を出すようになるのかもね(笑)。

高城:握手券まではわかりませんが(笑)。方向は共有感があるライブに向かうでしょう。最近、若い読者と話していて気づいたことがあるんです。たとえば今日こうやって石田さんと1対1で対面すると「お会いしました」と僕は感じます。ところが、若い読者が石田さんの講演会に行くと、会場に500人ぐらいの参加者がいたとしても、彼らは石田さんと「会った」って言うんですよね。

石田:ほほう。つまり生を見ればいいってことなんですね。

高城:時代は、想像以上にインターネットの力が大きくなってきてるから「会う」「ライブ」「」というモノの価値観が想像以上に高くなってきてるんですよ。これをいかに提案できるかっていうのが、物書きの人たちのこれからの使命だと思います。別に講演会に限らず。マイケル・ジャクソンの「スリラー」以降、音楽は聞くものではなく、見るものになったのと同じで、時代は移り変わると思いますね。

石田:そういえば、堀江(貴文)さんと対談した時も、要は会う経験とか読者と作家を結びつける機能を、今の出版社まったく果たしていないということを言われて「ああー」と思ったんですね。それは今も同じ点をついてますよね。ところで、高城さんの講演会はどんなところでやるんですか?

高城:昨年はトークライブを渋谷公会堂でやりました。

石田:どんなことをやるんですか?

高城:ただ話すだけです。

石田:どれくらいしゃべり続けるの?

高城1時間半です。2500人の客を相手に1時間半、僕ひとりでしゃべります。

石田:なるほど。講演会のネタは決めてないんですよね?

高城:書籍が出たタイミングだったので、それに基づいて「旅は人を幸せにするのか?」というテーマにはしていました。一応、そういうタイトル、というか向かう先はあります。

石田:でも、実際は脱線、脱線になるんですか?

高城:脱線っていうかライブです。出てから考えながら話します。

石田:そうか。でもそれにハマるとすごい楽しいですよね。

高城:楽しいですねぇ。はじまる前の選曲まで自分で、現場で会場の雰囲気を見ながらやっていました。音楽をかけながら盛り上げていって、僕が自分で出るっていう。

石田:おー。じゃあ“演出全部自分”って感じですね。

高城:スタッフがいないだけですよ。

石田:でもそうなると渋谷公会堂はすごく大変じゃないですか?

高城:そんなことはないですよ。入場無料にしたので、チケットは販売しませんから、お客さんを入れるだけじゃないですか。だから手間ヒマがそこまでかからないんですよ。

石田:ガードマンとか警備員とかもいらない?

高城:開場前に何百人もお客さんがいらしたので、それを整理する人はお願いしました。当日予想以上に早くお越しになる方々が多くて。

石田:1人でもそれくらいできるんですね。

高城:できますよ。昔は小さいライブハウスで興行をやっていたミュージシャンはいっぱいいたじゃないですか。それがちょっと大きくなった程度です。

石田:うわー、なんかいいな。人生の明るい展望がチラリとのぞけた感じがしました。

高城:いやー(笑)。僕は自分がただ楽しいからやってるんですけど。来てくれたお客さんもそれなりに喜んでくれるだろうなと思ってやってはいますが。

石田:男女比は?

高城6:4くらいだったかな。

石田のほうが多い?

高城:そうですね。その前の年は全国縦断ツアーをやったんです。北海道から始まって、東京では7か所くらいやったんですけど、他は名古屋、大阪、仙台、広島、福岡かな。

石田:それは何年くらいやってるんですか?

高城:この3、4年ですね。

石田:わー! でも、すごいね。

高城:体験がやっぱり重要なんですよ。今年は国技館でやりたいと思っているんですよ。

石田:えー! すごい!

高城:最近は東京オリンピックの関係で、あちこちの会場潰されちゃって、いい所があまりないんですよ。じゃあ国技じゃないけど、国技館でやろうかって(笑)。

石田:でも、土俵はないんだもんね? 土俵の上でやって欲しかったなぁ(笑)。

高城:相撲協会が土俵を貸してくれないと思いますが(笑)。

石田:いいと思うけどなぁ。高城さんは羽織袴も似合いそうだし。……でも、おもしろそうですよね、講演会。

……と、まだまだ終わらないこの対談の全文は石田衣良さん、高城剛さんの有料メルマガをご登録いただき、1月のバックナンバーを購入すれば読むことが可能です。この機会にぜひ、ご登録ください。この対談は、第2弾に続きます。

 

 

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