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中国の甘い誘惑「日本と和解することで、日米分断をはかる」

中国株の暴落から北朝鮮の核実験まで、年始から何かと騒がしい国際情勢。2015年はロシアのシリア空爆、中国「AIIB」事件、南シナ海問題など、世界中で大きな出来事が数多く発生しましたが、2016年の世界は、そして日本はどうなるのでしょうか? 無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者、国際関係アナリストの北野幸伯さんは、昨年よりも米中の覇権争いがますます激しくなると予想。2つの大国に挟まれた日本がとるべき外交戦略を提唱しています。

2016年世界はどうなる?日本はどう動くべきか?

「2016年世界はどうなる?」シリーズ5回目です。新規読者の皆さまは、まずこちらをご一読ください。今回の話の理解が深まります。

世界に再び吹き荒れるナショナリズム。斜陽の米国はどこへ行く?

世界はチャイナマネーにひれ伏すのか?米中覇権争いは歴史的分岐点に

英国は2度裏切る。米国と中国の間で揺れる「欧州」に不穏な動き

プーチンの次の戦略は「米中を戦わせて、ロシアが漁夫の利を得る

今回は、いよいよ日本です。それにしても、年初から大変なできごとが、続々と起こっています。

・サウジがイランと国交断絶

・中国株暴落に引きずられ、世界的株安に

・原油価格が04年の水準まで下落

・北朝鮮、また核実験(なんちゃって水爆実験)

今年は、大変な1年になりそうです。

ところで、国の利益のことを「国益」といいます。いろいろありますが、主なところは「経済」と「安全保障」。2016年日本経済はどうなのでしょうか? これは、中国経済減速の影響で厳しくなっていくでしょう。そして、中国経済悪化の理由は、大きく2つあります。

1. 中国経済がたくさんの大きな問題を抱えていること

2. 覇権を維持したいアメリカが、「中国経済崩壊論を日々拡散していること(=経済情報戦)

中国経済にさまざまな問題があることは、前から知られていました。しかし、2015年3月に「AIIB事件」が起こったとき、57か国がきそって参加した。当時は、中国経済に対する「楽観論」が「悲観論」を大きく上回っていたのです。

しかし、親米国家群(イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国など)がアメリカを裏切り中国についた「AIIB事件」で、状況は大きく変わりました。アメリカのメディアが「中国経済崩壊論一色」になっていったのです。その結果が、今の中国経済です。

つまり、アメリカは、「中国経済悪化でアメリカ経済も悪くなる」ことを承知で、「経済情報戦」をつづけている。覇権を維持したいアメリカが、中国経済を悪化させる。中国経済悪化にひきずられて、アメリカ経済も悪化する。日本も悪化する。こういう流れですので、日本の景気も厳しくなっていく。ですから、「今年は日本経済は厳しくなっていく」ことを覚悟して戦略をたてましょう。

※ちなみに「アメリカ・リベンジ戦略」の詳細を知りたい方は、ダイヤモンドオンラインの記事を参考にしてください。

リベンジ~AIIBで中国に追いつめられた米国の逆襲

2015年まで

次に安全保障の話をします。北朝鮮が核実験をして、世界を驚かせました。そうなのですが、日本の実質的脅威は、経済力(GDP)、軍事費ともに世界2位、「日本に沖縄の領有権はない!!!」と宣言している中国です。

毎回同じ話で恐縮ですが、中国は2012年11月、モスクワで「反日統一共同戦線戦略を明らかにしました。その骨子は、

1. 中国ロシア韓国で、「反日統一共同戦線」をつくろう!
2. 3国一体化して、日本の領土要求を断念させよう! 断念させるべき領土とは、北方4島、竹島、「沖縄」(!!!)日本に沖縄の領有権はない!
3. アメリカを「反日統一共同戦線」に引き入れよう

新規読者の皆さんから、「トンデモだ!!!」という叫び声が聞こえてきます。しかし、「解除」や「クレームメール」は、こちらの「絶対的証拠」を3回読んでからにしてください。

反日統一共同戦線を呼びかける中国

中国は、「日中で戦略的互恵関係を深めましょう!」などといいながら、今も「反日統一共同戦線」戦略をせっせと続けている。「平和ボケ」で「お人よし」な我々日本人も、このことを1日たりとも忘れるべきではありません。

さて、2013年中国は莫大な金を投じ全世界で反日プロパガンダ」を行いました。曰く、「安倍は右翼」「安倍は軍国主義者」「安倍は歴史修正主義者」。このプロパガンダは着実に浸透していった。その結果が、2013年末から14年初めに起こった「世界的安倍バッシング」だったのです。直接のきっかけは、総理の「靖国参拝」でした。中国のプロパガンダに嵌ったブルームバーグは、「安倍を罰するべきだ!」などと主張していました。

しかし、2014年3月の「クリミア併合」で、欧米の安倍バッシングは沈静化。2015年3月の「AIIB事件以降日米関係は、とても良好になりました。

一方、中国はアメリカを怒らせ、「最大の敵に浮上しました。アメリカは、中国との戦いに集中するため、ロシアと和解した。それで「ウクライナ問題」は、事実上忘れ去られた。

さらにアメリカは、中東への関与を大きく減らしています。ISとの戦いをロシアにやらせ、アメリカは2011年の宣言どおりアジアシフト」を進めている。サウジとイランの国交断絶問題についても、アメリカ国務省の報道官は、「アメリカは、仲介する気はない」、つまり「アメリカに頼らないでくれ!」と断言しています。

1月6日付、読売新聞。

米国務省のカービー報道官は4日の記者会見で「我々はこの問題の仲介者になろうとしているかと問われれば、答えはノーだ」と述べた。

こうして世界は、はっきりと「米中冷戦時代」に突入したのです。

「よいポジション」にいる日本

第2次大戦後のことを思い出してください。世界は、アメリカとソ連の「冷戦時代」に入りました。日本はアメリカ側にいて、「大きな利益」を得た。なぜかというと、「日本を軍事的に復活させたくない」アメリカが、日本の安全保障を全面的に引き受けた。結果、日本は経済成長にのみ集中し、40年間つづく「奇跡の成長」を実現したのです。

しかし、ソ連が崩壊した頃、日本経済は暗黒の20年」に突入しました。アメリカで日本異質論」が台頭。アメリカは、「ソ連の後は日本だ!」とばかりに、激しいバッシングを行った。

あれは、なんだったのでしょうか? わかりますね? アメリカは、「覇権を維持したいのです。アメリカは、宿敵ソ連と組んで、日本、ナチスドイツをぶちのめした。その後は、敵だった日本、(西)ドイツと組んでソ連を崩壊させた。その後は、「経済覇権」の脅威だった日本経済をバッシングした。

それだけが理由ではありませんが、結果として日本は、「25年間GDP水準が変わらない」という驚愕の事態になっている。1人当たりGDPも、世界2位から27位(2014年)に転落した。

繰り返しますが、日本経済の低迷は、アメリカだけが原因ではありません。しかし事実として、アメリカはソ連崩壊後、せっせと「日本バッシング」をしていたのです。

その後もアメリカは、さまざまな国と戦争したりバッシングしたりしてきました。そして2015年、アメリカは、はっきりと中国に狙いを定めたのです。

アメリカ中国覇権争奪戦が起こっている。

このことを、私たちははっきり知っておく必要があります。そして、アメリカから見ると日本は、「中国と戦うための味方」である。あたかも冷戦時代日本は、「ソ連と戦うための味方」であったように。

「反日統一共同戦線」戦略では、「アメリカと中国が組んで、日本を叩きつぶす」となっていた。ところが、日米中関係は二転三転し、現在は、「日本とアメリカが組んで中国を叩きつぶす」になっている。「米中が一体化して日本をつぶす」と比べると「ずいぶんマシなポジションだ」といえるでしょう。

日本が注意すべきこと1~中国の誘惑にダマされるな!

2012年11月から現在に至るまで、中国は全世界で「反日プロパガンダ」をつづけています。相当な成果をあげているものの、「AIIB事件」でアメリカを怒らせ、逆に日米が親密になってしまった。

で、今年中国はどう動くのか

はっきりわかるのは、「日本と和解することで日米分断をはかる」。

2015年3月までは、「日本の悪口をひろめることで、アメリカを日本から引き離す」作戦だった。今は、「日中関係を良好にすることで日本をアメリカから引き離す」作戦に変更しています(しかし、「反日プロパガンダ」も継続中)。

中国は、「GDP世界1のアメリカと3位日本が一体化していたら勝てない」ことを知っている。だから、いろいろな作戦で、「日米分断工作」を行う。見た目の言動は変わりますが、背後の「戦略」は不変なので要注意です。

何が言いたいかというと、「日本は中国に接近しすぎるな!」ということ。

習近平が「会いましょう」といったら会って、「私は、小さい頃三国志が好きで、特に諸葛孔明にあこがれたものです。今は日本の首相になって、孔明というよりは劉備に近いですが。孔明のような有能な軍師がいないのが悩みです。習主席は、有能な人々に囲まれてうらやましいかぎりです」などと世間話に終始し、具体的な投資話」などは無視することです。

日本外交今年の注意点

中国の戦略は日米分断

中国は今年、「日本に接近する」ことで、日米分断をはかる。だから、日本は、中国に接近しすぎてはならない

日本が注意すべきこと2~中国を過度にバッシングするな!

アメリカは、「目的のためには手段を選ばない国」です。既述のように、日独に勝つためには、宿敵ソ連と組む。日独に勝ったら、今度は両国と組んでソ連をつぶす。

日本のリベラルがよくいう、「梯子を外す」こともよくあります。たとえば08年8月、旧ソ連のグルジア(ジョージア)は、ロシアと戦争し、結果、アプハジアと南オセチアを失いました。この時グルジアの大統領だったサアカシビリは、「親米傀儡」だった。グルジアは、この戦争の後、「アメリカから捨てられた」ような状態になっています。

14年2月、アメリカは、ウクライナの革命を支援しました。

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親ロシア・ヤヌコビッチ政権が倒れ、親欧米傀儡政権ができた。3月、ロシアはクリミアを併合。ウクライナは、新政府軍と東部親ロシア派の「内戦状態」になりました。しかし、実際は、欧米とロシアの「代理戦争」だった。ウクライナの親米傀儡ポロシェンコ大統領は、国際社会で激しくロシアを非難しつづけた。アメリカ、特にバイデン副大統領はしばしばウクライナを訪れ、ポロシェンコを煽っていました。

しかし、アメリカは2014年8月、ISへの空爆を開始。2015年3月にAIIB事件で、中国が最大の問題になった。それで、ウクライナ問題は忘れられてしまった。「ウクライナは梯子を外された」といってもよいと思います。

最後にもう一例。

シェール革命で、アメリカ既に世界一の産油国産ガス国に浮上しています。結果、中東への関心が著しく薄れた。それで、アメリカは、サウジアラビアやイスラエルに、とても冷淡になっています。今回のサウジとイランの対立。既述のように、「アメリカは仲介するつもりはない!」と断言している。

以上3つの例からわかることはなんでしょうか?

「アメリカは、他国を遠慮なく利用し、利用価値がなくなるとあっさり捨てる」ということ。特にどういう風に使うかというと、「敵と戦うために、『他国として使う」。

これを「バックパッシング」といいます。たとえばアメリカは、ロシアを叩くために、自分は戦わず、グルジアやウクライナに戦わせた。言葉は悪いですが、グルジアやウクライナは、ウルトラセブン(=アメリカ)の「カブセル怪獣」のような立場。

ただ、ウルトラセブンは、「カプセル怪獣」を愛していますが、アメリカは、グルジアやウクライナを「使い捨て」し「愛がない」ところが違います。

アメリカは、日本の軍事同盟国です。「日本には沖縄の領有権がない!」と宣言している中国が、尖閣・沖縄への侵攻を躊躇している唯一のファクターはアメリカです。

だから、アメリカとの関係は、「最重要」。しかし、あまりアメリカを信用しすぎて、ロシアと戦争させられるハメになったグルジアやウクライナの二の舞になることは、絶対に避けなければなりません

対中国で日本は、アメリカの「オウム」になれ

情けない話ですが…。

・アメリカとの関係を損なわず(=中国に接近しすぎず)
・アメリカに利用されて中国と単独で戦うハメになるのを避ける

方法がこれです。

日本は対中国において、「アメリカに同調することに徹する」。アメリカが、「中国は南シナ海埋め立てをやめろ!」と批判する。すると日本も、「そうだそうだ!」という。アメリカが、「サイバー攻撃をやめろ!」と批判する。すると日本も、「そうだそうだ!」という。

なぜ、そうなのでしょうか?

「バックパッシング」という話をすでにしました。日米中の関係でいえば、「アメリカが中国に勝つために、自分で戦わず、『日本に戦わせること」、これが「バックパッシング」です。

もう1つ「バランシング」(直接均衡)というのがあります。これは、日米中関係でいえば、「中国に勝つために、アメリカが直接先頭にたち、(たとえば)中国包囲網を形成する」。つまり、「他国をぶつける」のではなく、「自国が責任をもって中国と戦う」のです。

日本の国益は、「アメリカが対中バランシングを行うようにもっていくこと」です。これは、日本が「アメリカのカプセル怪獣として中国と戦争する」ことを回避する道です。

だから対中国については、「いつもアメリカがその中心にいる」状態を維持しなければならない。それで、「アメリカが中国を批判したら、それに追随する」のです。

日本が、「反中の急先鋒」になると、「梯子を外される」可能性が出てきます。グルジアやウクライナは、そそのかされて反ロシアの「先陣」になってしまったので、ひどい目にあったのです。

中国に接近しすぎてもダメ、批判しすぎてもダメ。

アメリカとの関係を緊密にしなければダメ。

しかし、アメリカを喜ばせるために中国バッシングしすぎてもダメ。

ということで、なんだか複雑に感じますが。

しかし、私たちの実生活を見れば、そんなに難しくはありません。私たちは皆、複雑な人間関係の中で、「バランスをとりながら」生活しています。国際関係もそういうことなのです。誰ともなるべくケンカせずに、目的を達成していく。目的とは、いうまでもなく、「日本の自立」です。

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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