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なぜ首都圏の電車はこうも雪に弱いのか?在米作家がメカニズムを解説

1月18日、東日本や北日本を中心に大雪が降り、東京の都心など関東の平野部でもかなりの積雪がありました。このため、首都圏では交通機関に大きな遅延が発生。なかには出勤・通学に半日ほど掛かった方もいたようです。メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で米国在住の作家・冷泉彰彦さんは、なぜ降雪が交通遅延に繋がるのか、そのメカニズムについて詳しく分かりやすく解説してくれています。

降雪と鉄道の運行障害

1月18日(月)は東京を含む首都圏で降雪があり、公的交通機関が大混乱しました。多くの人が勤務先にたどり着くのに4時間から5時間を要したというのですから大変なことです。

この、鉄道の運行障害ですが、基本的には「ポイント不転換」つまり、ポイントに雪が詰まって動かなくなるという事故が多くの場合、不通や遅れの原因になっています。

ですから、雪国の鉄道では、様々な対策が講じられています。例えば、日本海側などの降雪地帯では温水を使った「散水消雪」といった技術が使われたり、北海道などの低温で多雪の地域では、電熱式の融雪機構、あるいは圧縮空気での除雪などの機構も使われています。

この3月に開業する北海道新幹線では、更に多くの技術が使われていますが、この点については今月の1月21日に発売となる、雑誌『鉄道ジャーナル』の3月号に詳しく寄稿していますので、ご覧いただければと思います。

こうした技術ですが、首都圏でも導入が進んでいます。たとえば、ポイントに「温水を噴射」して不転換させないようにする機構などは、特に山梨での一件を契機として危機感を強めたJR東日本などは、かなり広範囲で導入を進めているのは事実です。

ですが、首都圏とはいえ、通勤通学輸送のマーケットには限界があり、その一部では縮小の兆しが出てきています。一方で、通勤の運賃を値上げすると、通勤手当の支払いについて、多くの勤務先が「自動的に100%払う」という制度を維持できなくなる危険性もあるわけです。

そんな中で、各鉄道事業者は必ずしも無限にはコストをかけられない中で、安全な運行のために様々な努力をしているのが実情だと思います。その中で、どうしても首都圏の場合は「降雪時のポイント不転換対策」を100%実施するということは不可能になります。

さて、ポイントに「融雪・消雪などの不転換対策」が100%装備できないとしたら、どうするか? それは、車両をとにかく運行することです。車両が一定の頻度と速度で運行されていれば、ポイントに雪が溜まって凍結することは避けられるからです。

今回、大きな問題になった「間引き運転の原因はここにあります。首都圏の鉄道では、雨が降ると遅れるという現象が悩みの種となっています。雨が降ると、徒歩や自転車、あるいは自動車の流動が鉄道にシフトするということもありますが、濡れた傘を持って「晴れた日のように満員電車に身体を押し込む」のは遠慮されるために、混雑時の乗車にはプラスアルファの時間がかかる、それが積もり積もって遅延の原因になるのです。

降雪時には同じことが、より深刻な形で起こります。仮に遅延があるレベルを超えると、駅間での停車ということが増えます。そして、その際に降雪のペースが強くなると、「渋滞で電車が来ない時間帯にポイントに雪が溜まって凍結するということも起きます。

こうしたトラブルを避けるために、今回は各線ともに大幅な間引き運転を行ったわけです。その結果として、各駅で大幅な積み残しが出る、そして鉄道事業者としては「ホームから人があふれる」ということは最大のタブーですから、駅構内の入場制限ということになったわけです。

本来でしたら、事前に「相当程度の輸送力の低下」が見越せていれば、首都圏では広範囲で職場における「不要不急の通勤の抑制」や、学校の「休校判断の早期決定」などによって、エリア全体の流動を削減することが必要でした。

そのような要請を鉄道事業者が行って、それを官民が協力するようなことは、やろうと思えば出来るはずです。告知方法としては、実際にネットによるコミュニケーションのインフラがあるのですから、これは社会的な課題として今後へ向けて議論が必要と思います。

image by: Shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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