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中国政府がまた著名人アカウントを閉鎖。異様な言論統制が続くワケ

「発禁本」を扱う香港の書店関係者や、共産党に対して批判的な発言をした不動産王が処分されるなど、言論弾圧の嵐が吹き荒れる中国。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』ではこうした動きを「政権が末期になっていることの現れ」と分析し、すべては習近平氏の無策ぶりに原因があると手厳しく批判しています。

【中国】習近平から地方幹部まで醜聞隠しのための言論統制が横行

「習発言」批判でツイッター閉鎖=3,700万フォロワーの企業家-中国

これまでも、習近平のなりふり構わぬ言論弾圧については取り上げてきました。2015年夏には300名以上の人権派弁護士が逮捕、拘束され、同年末からは香港の反中的書物を扱う書店関係者が中国当局に拉致・監禁されるなど、習近平政権は自分に批判的なものを次々と排除しています。

今回ニュースになったのは、北京の不動産バブルで不動産王として名を挙げた任志強氏。「華遠地産」という不動産会社の董事長で、2009年には中国人上場企業経営者番付でトップになったこともある、「中国の不動産王」です。同時に、歯に衣着せぬ毒舌ぶりでも知られており、いろいろな爆弾発言も出るので、「任大炮」というアダ名で呼ばれています。

問題となった任氏のツイッター「微博」での発言は次のようなものでした。

「人民政府」はいつ、党の政府に変わったのか。メディアが人民の利益を代表しなくなる時、人民は隅に捨てられ、忘れ去られる

これは、習近平が党機関紙・人民日報、国営通信・新華社、国営中央テレビを視察した後、報道世論工作座談会を開催し、「党・政府が管轄するメディアは宣伝の陣地であり、党を代弁しなければならない」と、党への忠誠を命じたことを受けて発言されたものでした。

中国国家主席が国営メディア視察、国際影響力の強化を呼び掛け

任氏は暴言を吐くことでも知られていますが、今回のことに限って言えば、当たり前のことを言ったまでです。ところが、3,700万人のフォロワーを誇る彼のアカウントは政府によって閉鎖されました。さらに、中国青年報など複数の官製メディアはその後、任氏を「共産党員の恥だ」などと連日批判しています。

具体的な内容はわかりませんが、中国共産党は、任志強氏が「党のイメージを著しく損なった」ということで、「党規律処分条例」に違反したとして厳正に処分する方針を示しました。

習主席批判の企業家を処分へ=党規律条例違反で-中国北京市

アメリカの大統領選挙が佳境となっていますが、その中心人物の1人であるトランプ氏も不動産王です。不動産で財を成した人物というのは、少なからず政府との交渉や関係を持つことになるからか、自分を偉くなったと考えてしまうのかもしれません。任志強氏も、それが仇になってしまいました。

冒頭で述べた香港の書店関係者の相次ぐ失踪ですが、それについて2月29日、中国のメディアは、銅鑼湾書店の親会社の大株主である桂敏海氏らについて、中国当局は「発禁本を許可なく本土で販売した」として、不法経営の容疑で捜査をしていると伝えています。ほかに失踪した同書店店長の林栄基氏ら4人についても、「同じ容疑で取り調べを受けているか、または捜査に協力している」そうです。

また、同書店株主の李波氏は香港警察当局者らと中国本土で面会し、「先月面会した妻に話したのと同様『拉致されたのではない』と説明した」といいます。結局、失踪した人々は中国当局に拘束され誰も帰ってきていないということです。

香港の反中書店関係者、不法経営容疑で捜査 中国報道

では、どのような「発禁本」が売られていたのかというと、1冊は、習近平の弟である習遠平に、美貌と肉体を武器に近づき、できちゃった婚で妻の地位を獲得し、習家というロイヤル・ファミリーに入り込んだ人民解放軍の歌手張瀾瀾を描いたものだったそうです。また、近日には「習近平と6人の女たち」という政治ゴシップ本も発売予定だったということです。

香港の書店関係者5人失踪 「発禁本」の中身とは

要するに、習近平本人、および家族の醜聞本が含まれていたということですが、それを阻止するための書店関係者拘束であれば、ずいぶんチンケな理由です。

そういえば、昨年は胡錦濤の側近だった令計画が逮捕されて失脚しましたが、その弟の令完成は機密情報を持ってアメリカに逃亡しています。一方、習近平政権は必死になってこの令完成を追っているといいますが、一説では、この令完成が持ち逃げした機密情報とは、習近平を含め、政権要人のセックススキャンダルだという噂もあります。

習近平が自身や身内の恥の暴露本を必死に取り締まれば、地方政府の小役人もそれを真似て、自らの不祥事を伝えようとするメディアに圧力をかけようとするのは必然です。

たとえば、中国の地方新聞の記者が、地方政府当局のいじめに遭って拘束されたとのニュースが流れました。以下、ニュースを一部引用しよう。

逮捕されたのは、甘粛省の省都にある新聞、蘭州晨報の記者、張永生氏。同紙の公開書簡などによると、7日に同省武威市内中心部で行われた防災訓練中、担当者が処置を誤り周辺の建物に引火し火事となった。武威市当局者は各メディアの担当記者に「取材するな」と圧力をかけたが、張記者は無視して、家族と同僚に「現場に行く」と伝えて車で現場に向かい、そのまま行方不明となった。

 

9日に地元警察が家族と蘭州晨報に対し「張氏を買春容疑の現行犯として逮捕した」と連絡したという。

 

しかし、その約1週間後、張氏の容疑は「政府を恐喝した」に「変更」された。武威市の公安当局は、これまでの張氏が書いた政府の不祥事を追及する複数の報道について調査を始めているもようだ。張氏はこれまでも当局者に「気をつけろ」などと脅されたことがあったという。

(産経ニュースより)>

中国また言論弾圧か…甘粛の記者、不祥事取材が「売春」、さらに「政府恐喝」 新聞社「多くの疑問点」

このニュースの締めくくりとして、「北京の人権活動家は『甘粛省の記者逮捕も、香港の書店関係者失踪と同じく、当局による言論弾圧がますます強化された表れだ』と話している」と、あります。

その通りでしょう。さすがに一地方の出来事ですから、習近平政権が指示した可能性は小さいでしょうが、習近平のやり方にならって、地方政府の役人が不祥事隠しに動いたのでしょう。上から下まで腐っている中国共産党の体質そのものです。

しかし、言論弾圧がエスカレートしているということは、いよいよ政権が末期になっていることの現れでしょう。習近平は人心を失い、政策にも行き詰まり、外交でもインドネシアの高速鉄道建設事業の例のように、信用を失っています。

アメリカやロシアなどの大国と正面からぶつかる実力もなく、この先の行き場を暗中模索しています。そんな行き場のない政権が、もっとも容易にできることといえば、国内統制です。言論統制からはじまり、それに反対する勢力が出てくれば武力統制です。武力統制で政府側が負け、国内勢力が勝てば、政権交替となります。

経済や外交が順調ならば、これほど言論統制などする必要はありません。経済の大失速は言うにおよばず、現在では習近平のバラマキ外交に国内からも批判の声が出ている状態で、まったく人気がありません

習近平主席の「バラマキ外交」に批判 財政悪化なのに「また税金が」「誰か外遊を止めて」

習近平は、これまで多くの政敵を腐敗という名目で抹殺してきました。そのために、共産党内にも疑心暗鬼の空気が広がり、互いに不信感が増大してきています。このままでは孤立無援の裸の王様となる可能性もあり、党内と国内の引き締めを強化したところで、どこまで耐えられるのか、我慢くらべといった様相です。

中国共産党の強権政治をずっと支えてきたのは「両桿子」(2つの手)と言われています。それは、「軍桿子」(軍隊筆桿子」(マスメディア)の両者。この2つを統制するということは、共産党人民解放軍と情報統制によって権力を維持することを意味します。

そして、習近平はもっぱらこの2つを意識して、出る杭を打ってきました。とはいえ、軍にしてもマスコミにしても一方的に叩くばかりで、とてもうまく操っているとは言えない状況です。

もともと習近平は、中国でも「野暮だ」「アホだ」という人物評を得ていました。博士号を取得した経歴についても、学歴詐称だとか、秘書が代筆したなどとの噂があるほどです。上海閥が習近平を抜擢したのも、無能であるがゆえに、表舞台に立たせる操り人形として利用するのにちょうどいいから、とも言われています。つまり「神輿は軽くてパーがいい」ということです。

そのため、正式な場では側近の原稿がないと発言できない、原稿があっても、その通りに暗記できず間違えて発言してしまう、などの下馬評が常につきまとっています。

格差の拡大は「資本主義社会の原理」だとも言えます。そして、その洗礼は日米欧だけでなく、ソ連解体後のロシアも受けました。

ロシアでは、格差の拡大で貧しい民衆の不満が広がったときに登場したのが、KGB出身のプーチンです。プーチンは巨富を得た成金たちをすべてつぶしてくれる「救国の英雄」として、ロシアの貧民たちから絶大な人気を得たのでした。

かつて、ドイツでヒトラーが熱狂的に支持されたのも、わずか1年ほどで600万人の失業問題を一挙に解決したからです。

中国でも、重慶市の薄煕来が一時、「唱紅打黒」(革命歌を歌い汚職追放)として富裕層を攻撃したことで庶民の人気を得ましたが、政治闘争に負けて獄中の人となってしまいました。

そんな現在、中国では毛沢東が再び人気になっています。毛沢東の時代の中国は貧しかったですが、毛沢東は資産家階級である地主を皆殺しにしたため、誰もが貧しいけれど、格差は小さかったのです。

習近平はプーチンや毛沢東にもなりきれず、その行き先は不透明です。そういう意味では、台湾の馬英九元総統にも似て、すべてが裏目に出るタイプです。じっさい、国家主席に就任後、経済は急速に崩壊し、台湾でも香港でも反中意識が拡大し、アメリカのアジア回帰をもたらし、北朝鮮にもメンツを潰されてばかりです。

いずれも習近平の身から出た錆です。習近平は党内に「◯◯小組」という委員会のようなものをいくつも立ち上げ、自らがその委員長に就任することで、軍事や経済、インターネットの統制や治安問題まで、あらゆる分野における権力をすべて自身に集中させていますが、それでありながら、まったく成果が出せないでいます。

結局は、失政を隠すために国内の言論を統制するしか手がなくなっているというのが現状であり、すべては習近平自身の無策ぶりに原因があるのです。

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image by: Wikimedia Commons

 

黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』より一部抜粋

著者/黄文雄
台湾出身の評論家・黄文雄が、歪められた日本の歴史を正し、中国・韓国・台湾などアジアの最新情報を解説。歴史を見る目が変われば、いま日本周辺で何が起きているかがわかる!
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