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米国よ、本気か? 現実味を帯びてきたトランプ次期大統領

誰もが予想しなかった、米大統領選でのトランプ氏の快進撃。その理由は様々な場所で様々な人により分析されていますが、メルマガ『高城未来研究所「Future Report」』の著者・高城剛さんは、「今回の選挙はインターネットとテレビの覇権争い」と斬新な論理を展開、さらになぜ全米でトランプ支持が拡がったのかを解説しています。

トランプの大統領候補リアリティショー

今週は、いよいよ本気で考えねばならなくなった次期大統領ドナルド・トランプにつきまして、現在大きく評価されている背景を含め、私見たっぷりにお話ししたいと思います。

ハフィントンポストが、「エンターテイメント」欄に掲載していた米国次期大統領選に出馬中のドナルド・トランプを「政治」欄に移し替えてまだ日が浅いことからもわかるように、誰もがドナルド・トランプを泡沫候補と見下していました。しかし、現実的には現在の共和党最有力候補であり、ヒラリー・クリントンと並ぶ米国次期大統領です。

この背景には、レーガノミクス以降の新自由主義、規制緩和等で生活を阻害された米国を作ってきた白人中間層の怒り」が想像以上に大きく、社会民主主義者と自称する事実上無所属のサンダース候補以外、すべての候補者がウォール街からの献金を受けて出馬している大統領選システムに嫌気がさしている米国民の真の姿が伺えます。

いままで、ウォール街やイスラエルロビーの代理人以外選択肢がなかった」米国大統領候補は、出馬に大金を要するため、結果的に「資本家」の代理人しか立候補できない仕組みでしたが、その「資本家そのものが立候補し、ある日を境に「他の資本家」を攻撃するような事態が起きることになりました。この様相は、昨日の友は今日の敵であるサバイバル番組そのものです。それもそのはず、近年ドナルド・ドランプを押し上げたのはリアリティショーのアプレンティス」で、その仕掛け人はリアリティ番組の王者「サバイバー」を手がけたマーク・バネットだからです。

次ページ>>日本人が知らない、トランプ氏「お前はクビだ!」のキメ台詞」

日本ではほとんど話題にもならないリアリティショーの「アプレンティス」の全米人気はスゴいものでして、その内容は、企業に試験雇用された仕事見習い(アプレンティス)を追いかけるドキュメント番組で、そのひとつが不動産王ドナルド・トランプをホストにしたシリーズでした。番組の最後に脱落者を選び、トランプが「お前はクビだ! (You’re Fired!)」と宣告するキメ台詞が、全米で大きな話題となったのです。これにより、トランプはキャラクターと同時にそれなりの辣腕実業家であることが米国民に知られることになり、これが今回の大統領候補で人気の土台にあることは、このリアリティショーを見てない国の人にとってはわかりづらいものだと思います。

今回、トランプは共和党から出馬していますが、いままでの共和党政策である小さな政府・民営化・トリクルダウン理論をキーワードとする新自由主義を真っ向から否定し、今後は大資産家や富裕層への課税を強化、ウォール街や国際的な資本流動への規制も強化、そして社会福祉を拡充し、格差を縮小すると主張しているのです。さらにグローバリズム拡散による単一市場に対しては否定的で、中産階級以下には減税すれば経済が活性化すると強く訴えています。これだと、米国民主党左派と極めて近いことになるのですが、その表現方法は大きく異なります。

トランプの手法とは、大統領選をリアリティショーにしてしまうことにあります。政治および類する番組等を討議の場にしてしまうと、キャリア含めトランプの弱さが露呈しますが、現在、ヒラリーを含めすべての大統領候補を「トランプの大統領候補リアリティショー」に出演させてしまうことに成功しています。トランプが優れているのはこの一点だけで、この自分の土俵にすべての人々(競合候補やメディア、投票権を持つ人々)を巻き込むことに成功しているのです。

そして現在、トランプ旋風と呼ばれていることの本質は、大統領選をリアリティショー化させることに成功したテレビの復権です。

改めて言うまでもなく、米国はテレビ産業がインターネットに駆逐されてきました。しかし、失われた中間層同様、インスタにウキウキしない人たちが実は社会のほとんどで、その人たちに大統領選を現代テレビ的メソッド=リアリティショー化することで、「リアル」を演出しています。これは、まさに「サバイバー」のプロデューサー、マーク・バネットの手法そのもので、結果、インターネットにとって代わられた(情報時代についていけない)人に、強くアプローチして人気を博しているのです。

全米で空前の人気だと言われた「アプレンティス」をほとんど他国の人たちが知らないように、テレビ産業は、米国でもグローバル化できない典型的なドメスティックな産業です。それゆえ、強いアメリカを復権させることは、グローバル化の否定であり、同時にモンロー主義の肯定で、ドメスティックなテレビ産業的アプローチであるリアリティショーと相性が良いのです。

多くの政治のプロフェッショナルが見誤っていたのは、残念ながら現代社会において投票率と視聴率はほぼ同じ意味になってしまっていることで、ここまで「テレビ的」である人物が、国民の評価を得られるとは思わなかった点にあります。同じ異端者と呼ばれるサンダースが「インターネット的」だとするなら、トランプは「テレビ的」であり、現在、米国で起きていることは、インターネットとテレビの覇権争いにも置き換えられます。

どちらにしろ、インターネットによって「リアル」を多くの人が知ることになり、それによって生まれたテレビの「リアリティショー」によって、偽善者があぶり出されるようになりました。一見良い人や素晴らしい人では、社会は変わらないことが誰にもわかり(サバイバル番組で生き残れない)、毀誉褒貶ある人しか世界を変えることは無理だと多くの人々が知っているのです。

米国を制するのは、インターネットなのか? それともテレビの復権なのか? その回答まで、あと数ヶ月となります。

 

 

高城未来研究所「Future Report」』より一部抜粋

著者/高城剛(作家/クリエイティブ・ディレクター)
1964年生まれ。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。毎週2通に渡るメルマガは、注目ガジェットや海外移住のヒント、マクロビの始め方や読者の質問に懇切丁寧に答えるQ&Aコーナーなど「今知りたいこと」を網羅する。
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