先日開かれた有識者会議で、ノーベル経済学賞受賞経験のあるジョセフ・スティグリッツ氏が、安倍総理に「消費税を今引き上げるべきではない」との助言をしたことが話題となっています。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんはこれを「大変ありがたいこと」として、自身が「消費税引き上げ」に反対する理由について述べています。
消費税を上げるな!ノーベル賞学者スティグリッツ氏の賢明なアドバイス
ノーベル賞学者のスティグリッツ先生が、安倍総理に大変ありがたい進言をしてくださいました。
増税延期を首相に進言 ノーベル賞学者スティグリッツ氏
朝日新聞デジタル 3月16日(水)13時22分配信
政府は16日、世界経済について有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」の初会合を首相官邸で開いた。
講師役のノーベル経済学賞受賞者、ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授は会合で、「消費税は総需要を増加させるものではないので、引き上げるのは今のタイミングは適切ではない」と述べ、2017年4月の消費税率10%への引き上げを延期すべきだという考えを示した。
すばらしい! そして、ありがたい(なぜそうなのかは、後で説明します)!
会合後のスティグリッツ氏の説明によると、同氏は会合で世界経済の見通しについて「15年は世界金融危機以降、最悪の年になった。16年は15年よりもさらに弱くなるだろう」と指摘。
そのうえで「金融政策は限界に来ている。G7では、需要を刺激するような各国間の調整策について議論して欲しい」として、各国で協調して財政出動をするべきだという考えを示した。
(同上)
確かに、「異次元緩和」をし、「マイナス金利」もし、「この後どうするの?」ということですね。
スティグリッツ教授は、「財政出動」を勧められたそうです。同感です。
会合は5回程度の予定で、17日には、デール・ジョルゲンソン米ハーバード大教授と元日銀副総裁で日本経済研究センター理事長の岩田一政氏を、22日には、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大教授をそれぞれ招く。
(同上)
はっきりはわかりませんが、世界中の誰もが「中国の景気急減速で、世界的危機が近づいている」ことを知っている中、「消費税をあげなさい!」と進言する教授はいないでしょう。安倍総理は、是非賢い有識者の皆さんのアドバイスを聞き、「天下の愚策」(=消費税再引き上げ)をストップしていただきたいと思います。
なぜ消費税引き上げは「最悪」なのか?
昔からの読者さんは、ご存知ですが。私は、大昔から「消費税引き上げ」に反対してきました。2013年11月30日発売の『日本自立のためのプーチン最強講義(集英社インターナショナル)』では、「消費税引き上げ阻止」のために、1章丸々さいています。「なぜ消費税をあげたらダメなのか?」一部引用してみましょう。
消費税増税で日本経済はどうなる?
みなさんご存知のように、民主党の野田内閣は現在5%の消費税を、2014年4月から8%、15年10%まで引き上げることを決めました。その後の自民党・安倍政権も事実上これを踏襲しています。ここまで読まれたみなさんは、この「消費税倍増計画」が、日本経済に落とされる「原爆」であることをご理解いただけるでしょう。
消費税が上がったら、みなさんどうします? そう、「買い物」(消費)をひかえますね? 消費が減ると、物をつくっても売れないので「生産」を減らします。物やサービスが売れなくなれば、企業の売り上げと利益は減り、「所得」が減ります。すると企業は、給料を減らしたり、リストラをするでしょう。そのために当然、個人の「所得」も減ります。所得が減るということは、手元に残るお金が減るということで、個人も企業もさらに「消費」と「投資」を減らすでしょう。こうして、不景気のスパイラルはさらに加速度を増し、日本経済を奈落の底に突き落とすことになるのです。
野田さんは、「財政再建」を目指して、「不退転の決意」で消費税増税を目指していた。安倍政権も同じ。しかし、その意図とは正反対のことが起こる可能性が非常に高いのです。
図にしてみましょう。現状は、
● 消費減→生産減→所得減→(以下同じプロセスのくり返し)
ここで、「消費税引き上げ」が行われます。
● 消費減→生産減→所得減→「消費税引き上げ」→消費激減→生産激減→所得激減→(以下同じプロセスのくり返し)
はたして、これは私だけのファンタジーでしょうか?
大部分の人は、「減税したら税収が増える」ということを考えもしなかったでしょう。しかし、アメリカ、イギリス、ロシア等で過去にそういう事例があることを知れば、否定できなくなります。
では一方、「増税の影響」についての事例はあるでしょうか? 実は、「消費税を上げたら、景気も財政も悪化した例」は、日本にあります。
日本に消費税が導入されたのは、1989年のこと。当時、税率は3%でした。バブル最末期で、翌年にはバブル崩壊がはじまっています。しかし、これは既述のように不動産売買の「総量規制」が原因と考えられ、消費税導入と景気の相関性がよくわかりません。
消費税が5%に引き上げられたのは、1997年のことです。それで、どうなったか?
まずGDPが以後、全く増えなくなりました。日本の名目GDPは、バブルが崩壊した1990年、約440兆円でした。しかし、その後もGDPは少しずつ増えていたのです。
91年…468兆円
92年…480兆円
93年…484兆円
94年…486兆円
95年…493兆円
96年…504兆円
97年…515兆円
数字を凝視してみましょう。GDPは確かに増えています。97年に消費税が引き上げられた後はどうでしょうか?
98年…504兆円
99年…497兆円
00年…502兆円
01年…497兆円
02年…491兆円
03年…490兆円
04年…498兆円
05年…501兆円
06年…508兆円
07年…515兆円
09年…494兆円
消費税引き上げ前と後で、違いは明らかでしょう。それまで、GDPは緩やかな増加を続けていた。引き上げ後は、500兆円をはさんで、増えたり、減ったり。
ところで、肝心の税収は増えたのでしょうか? 消費税が引き上げられた翌年の98年、消費税収は96年比で4兆円増加しています。しかし、所得税収は2兆円、法人税収は3兆円と、それぞれ減少。結局、税収全体で見ると、1兆円減るという結果になりました。その後も、「消費税増税」で財政状態が好転するどころか、借金が雪だるま式に増加しているのは、みなさんもご存知のとおりです。
普通の人は、「だから増税しなければ!」と考えますが、経済はそう単純ではなく、「増税したら税収が減った」事例がそんなに遠くない過去にあったのです。
ちなみに私は「いつでもどこでも増税に反対」というわけではありません。景気が過熱気味のときは、増税によって、それをおさえることも必要でしょう。
つぶされた好景気の芽
皆さん、覚えておられるでしょうか? 「アベノミクス」は、本当に効果がありました。2013年は、久しくなかった「好景気の予感」で日本中がわいていたのです。2013年2月、「株高が止まらない!」と驚く記事。
円安・株高、一本調子どこまで続く 「アベノミクス」に期待高まる
SankeiBiz 2月7日(木)8時15分配信
6日の東京株式市場の日経平均株価は、2010年4月につけたリーマン・ショック後の高値を更新した。
前日に日銀の白川方明総裁が任期満了前の辞任を表明したことを受け、次期総裁による一段の金融緩和への期待が高まり、東京市場の円相場が一時、1ドル=94円台に急落。円安の進行で、企業業績の改善がさらに進むとの見方から、幅広い銘柄が買われた。
同じく2013年2月、実体経済も。
「アベノミクス」業績回復に反映 円安・株高促し営業益伸び率改善
SankeiBiz 2月6日(水)8時15分配信
大胆な金融緩和などを掲げる安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の効果が早くも企業業績に表れている。
1日までに発表された東証1部上場企業557社の2012年10~12月期決算をSMBC日興証券が5日までに集計したところ、営業利益の伸び率は前年同期比11.3%増と、7~9月期の2.0%減から大幅に改善。
円安進行による採算の改善で輸出企業などが通期の業績見通しを上方修正したほか、株高で保有株の評価損が縮小した銀行や証券も業績が上向きになった。
2013年のGDP成長率は、+1.59%という結果。あの時、余計なことをせず、まっすぐ進んでいれば、どれだけ好景気になっていたことか…。
ところが、2014年の消費税引き上げで、すべて台無しです。この年、GDPは、マイナス0.1%。マイナス成長なのに、「アベノミクスは成果があがっている!」などといえるでしょうか? そんなはずはありません。
再引き上げをしたら、いったいマイナス何%になるのでしょうか? 総理は是非とも、「スティグリッツ先生もおっしゃっているので、消費税引き上げはやめます!」と宣言していただきたい。そうすれば、支持率も急上昇し、次の選挙で圧勝できることでしょう。
image by: 首相官邸
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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