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強大化する習近平の権力。対日外交の軟化は余裕のあらわれか?

二階俊博氏が率いる訪中団3000人に対し、“熱烈歓迎”とも取れる対応をした中国の習近平主席。ジャーナリストの高野孟氏は、今回の中国側の姿勢について、“関係雪解け”や“分断工作”といった視点ではなく、“習近平体制が中国国内でどれほどの支持を得ているのか”のバロメーターとして見るべき、と自身のメルマガで論じています。

日本における3つの反応

中国の習近平主席は5月23日、北京の人民大会堂で、二階俊博・自民党総務会長率いる訪中団3000人を前に演説し、奈良時代の遣唐留学生として西安に渡った阿倍仲麻呂が大詩人・李白らと親交を結び、また明代の中国の名僧・隠元が日本に渡って、江戸期の日本に大きな影響を与えたことなどを持ち出して、「中国は中日関係の発展を非常に重視しており、一時の風雨に遭ってもこの中国の基本方針は今後とも変わることはない」と強調した。

この演説を、翌日の人民日報はじめ中国の主要メディアはこぞって「重要講話」と位置づけてトップで報じた。
習近平演説全文(在日中国大使館訳)

近年の両国関係のギクシャクから見ると異例とも言える、この事態について、日本ではいくつかの見方がある。

第1に、昨年11月のAPEC北京サミット、今年4月のジャカルタでのバンドン会議60周年式典で日中首脳会談が(いずれも25分間程度ではあったが)積み重ねられ、ようやく中国も「対日友好ムード」に傾いて来たという見方があるが(例えば5月26日付東京新聞)、甘い

習は、1000年以上前から未来永劫にわたって中日関係の重要性は変わらず、それは「隣人は選ぶことができるが隣国は選ぶことができない」からだという大局的なことを言っているのであり、しかもその「中日友好の基盤は民間にある」と言い切っている。

他方、安倍政権の歴史認識をめぐる言動には相変わらず厳しい姿勢を保って、次のように言う。「今年は中国人民抗日戦争と世界反ファシズム戦争の勝利70周年」であり「日本軍国主義の当時の侵略の犯罪行為を隠すことは許されないし、歴史の真相をわい曲することは許されない。日本軍国主義の侵略の歴史をわい曲し、美化しようとする言動を中国人民やアジアの被害国人民は受け入れることはないし、正義と良識のある日本人民も受け入れることはないと信じている」と。日中友好は大局的に大事だが、それと安倍政権を許容することとは別だということである。

>>次ページ 安倍と二階の関係を分断しようとしているのか?

第2に、そうするとこれは、安倍と二階の間に楔を打ち込み、ひいては日本の世論に割れ目を入れようとする対日分断・攪乱工作だという、お定まりと言っていい対中警戒論が出てくるが、それは、浅い

習は、上の引用に続いて、「われわれは日本人民もあの戦争の被害者であると考えている」と語る。だから「抗日戦争終結後、中国人民は徳をもって怨に報い、中国にいた日本人100万人の帰国を支援し、数千人の日本人戦争孤児を育て、中国人民の大きな度量と限りない大きな愛を示した」と。

これは分断とか攪乱とかいうレベルの低い話ではなくて、1972年の日中国交正常化に当たって周恩来首相が先導して作り上げた、中国の対日姿勢の基本原理の再確認である。当時は戦後からまだ30年弱、7億人と言われた中国の人々のほとんどは、日本の侵略によって自身が傷ついたり、身近な者が被害に遭ったりしていて、「何で日本人などと仲良くしなければならないのか」という怨嗟の声が充ち満ちていた。

それに対して周恩来は、「そうではない。確かにあの戦争では日本が加害者であり中国が被害者であるけれども、その日本を仔細に見れば、戦争を起こしたのは一部軍国主義者であって、日本国民は一般兵士も含めて一面においては、戦争に駆り立てられて亡くなったり身近な者を失った被害者である。その両者を一緒くたにして、日本人全体を憎むなどということがあってはならない。二度とアジアで戦争が起こらないよう、中国人民と日本国民は友好を築かなければならない」と言って、大衆的な政治・思想教育を展開した。

なぜ中国が靖国参拝問題に拘るのかも、このことに直接に関わっていて、その「一部軍国主義者」そのものであるA級戦犯を祀ったところに、日本の政治指導者が参ることだけはやめてくれ、そうでないと日中の国交と友好関係の基礎にある中国側の基本原理が突き崩されてしまう──というに尽きる。江沢民はこの周恩来原理をよく理解しておらず、しばしば「反日」を弄んだ。胡錦濤は理解していたが、江沢民派の策謀で対日政策を妨げられた。習近平のこの講話に至って、ようやく中国はそこに立ち戻ったのである。

>>次ページ 習近平が強固な権力基盤を持った証左か?

第3に、加藤嘉一がダイヤモンド・オンラインで連載中の「中国民主化研究」第52回(5月26日付)で述べていることだが、「確かに、ここ半年における習主席の対日政策は“親日的”に映る。実際にそうかもしれない。しかし、仮にそのようなレッテルを誰かに貼られたとしても、そんな雑音を平然と無視し、跳ね返すだけの権力基盤がいまの習主席にはある」という見方があり、これが、正しい

加藤は、中国の一般大衆の間でも「習大大(習おじさん)」というニックネームがごく自然に使われるほど、習近平が国内で圧倒的な支持を得ており、「習近平の政策を公の場で名指しで批判したりする知識人は、一部の“異見分子”を除いて限りなくゼロに近い」と言っている。

つまり、習講話は、対日外交の軟化でもなく、対日分断工作でもなくて、習の国内権力基盤の固まり具合という視点から捉えることが肝要である。

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【権力基盤をほぼ固めた習近平 ──習・李体制2年半を暫定総括する!】
・日本における3つの反応
・胡錦濤の捨て身の「完全引退」
・「トラもハエも退治せよ」の反腐敗キャンペーン
・実はクーデター未遂だった薄熙来事件
・「人治から法治へ」の扉を開くか?
・荀子「性悪説」に傾倒する習

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『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.188より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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