強大化する習近平の権力。対日外交の軟化は余裕のあらわれか?

image by: Wikipedia
 

第2に、そうするとこれは、安倍と二階の間に楔を打ち込み、ひいては日本の世論に割れ目を入れようとする対日分断・攪乱工作だという、お定まりと言っていい対中警戒論が出てくるが、それは、浅い

習は、上の引用に続いて、「われわれは日本人民もあの戦争の被害者であると考えている」と語る。だから「抗日戦争終結後、中国人民は徳をもって怨に報い、中国にいた日本人100万人の帰国を支援し、数千人の日本人戦争孤児を育て、中国人民の大きな度量と限りない大きな愛を示した」と。

これは分断とか攪乱とかいうレベルの低い話ではなくて、1972年の日中国交正常化に当たって周恩来首相が先導して作り上げた、中国の対日姿勢の基本原理の再確認である。当時は戦後からまだ30年弱、7億人と言われた中国の人々のほとんどは、日本の侵略によって自身が傷ついたり、身近な者が被害に遭ったりしていて、「何で日本人などと仲良くしなければならないのか」という怨嗟の声が充ち満ちていた。

それに対して周恩来は、「そうではない。確かにあの戦争では日本が加害者であり中国が被害者であるけれども、その日本を仔細に見れば、戦争を起こしたのは一部軍国主義者であって、日本国民は一般兵士も含めて一面においては、戦争に駆り立てられて亡くなったり身近な者を失った被害者である。その両者を一緒くたにして、日本人全体を憎むなどということがあってはならない。二度とアジアで戦争が起こらないよう、中国人民と日本国民は友好を築かなければならない」と言って、大衆的な政治・思想教育を展開した。

なぜ中国が靖国参拝問題に拘るのかも、このことに直接に関わっていて、その「一部軍国主義者」そのものであるA級戦犯を祀ったところに、日本の政治指導者が参ることだけはやめてくれ、そうでないと日中の国交と友好関係の基礎にある中国側の基本原理が突き崩されてしまう──というに尽きる。江沢民はこの周恩来原理をよく理解しておらず、しばしば「反日」を弄んだ。胡錦濤は理解していたが、江沢民派の策謀で対日政策を妨げられた。習近平のこの講話に至って、ようやく中国はそこに立ち戻ったのである。

>>次ページ 習近平が強固な権力基盤を持った証左か?

print
いま読まれてます

  • 強大化する習近平の権力。対日外交の軟化は余裕のあらわれか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け