覇権国家への道をひた走る中国。その勢いに日本が飲み込まれないためには、日米関係のさらなる強化とともに、ロシアの扱いにも大いに注意すべきだと、人気の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは力説します。
日本からみたロシアの戦略的位置づけ
前号では、「なぜアメリカは、日ロ接近を邪魔するのか?」という話をしました。
アメリカには、仮想敵国が4国ある。
・中国
・ロシア
・ドイツ
・日本(!!!!!!!)
そして、アメリカの戦略は、この4か国を分裂させておくことである。だからアメリカは、仮想敵国ロシアと仮想敵国日本がひっつかないようにしていると。「戦略的」にやってるわけですね。
今回は、「では、日本にとってロシアは戦略的にどうなのだろう?」という話をします。
日本の脅威は、どの国か?
「国益」にもいろいろありますが、もっとも重要なのは、「金儲け(=経済的利益)」「国の安全」です。
「金儲け」の話は、今回おいておきます。「安全」の話をしましょう。
日本の安全を脅かしているのは、どの国なのでしょうか?
まず思い出されるのは、「日本は、3か国と領土問題を抱えている」という事実。
・ロシアと北方領土問題
・韓国と竹島問題
・中国と尖閣問題(中国は、「沖縄」も自国領である」と主張…証拠はこちら)
日本では、この三つの問題、「同列」に扱われることが多いです。しかし、この三つは、「脅威のレベル」において明らかに違います。
まず、ロシアは、北方領土を70年間実効支配している。韓国は、竹島を63年間実効支配している。
日本は大いに不満ですが、ロシア、韓国は、現状に非常に満足している。ですから、ロシアや韓国が日本と戦争する理由は、ありません。
しかし、尖閣は、日本が実効支配している。(1895年以降日本領なので、当然ですが。)
中国は、現状に不満なので、勝算があれば、「日本と戦争する可能性」がある。
「平和ボケ」日本人には想像もできない事態ですが、実際中国政府の高官や軍関係者は、「日本と戦争するのは良いことだ」と語っています。
一つ例をあげておきましょう。
「世界戦争も辞さず」に凍りついた会場 ダボス会議で出た中国の“本音”
スイスで1月に開かれた「世界経済フォーラム年次総会」(ダボス会議)で、取材にあたった米メディア幹部がぞっとする「影響力を持つ中国人の専門家」の談話を伝えた。
この専門家は「多くの中国人は尖閣諸島への侵攻で軍事的な優位を地域に見せつけ、シンボル的な島を確保することができると信じている」と語った。
世界大戦の引き金になりかねない話の行方に、周辺は凍り付いたという。(2014.02.17 夕刊フジ)
出所全文はこちら。
こういう話、「南シナ海埋め立て問題」などを見るに、「本気だ」と思ったほうがいい。
ここまでまとめると、日本は、ロシア、韓国、中国と「領土問題」を抱えている。しかし、「領土問題」が原因で、「戦争になる可能性」があるのは、「中国一国」なのです。
もう一国、当然北朝鮮も脅威です。とはいえ、GDPでも軍事費でも世界2位の強国・中国とは、「比較にならないレベル」といえるでしょう。
さらに、ここ数年「脱自虐史観」が進んできた結果、「アメリカが全部悪い説」が大ブームになっています。
日本人が「自虐史観」に洗脳されたのは、アメリカGHQの仕業。ですから、理解できます。そして、いまだにアメリカは、日本を搾取しつづけている。
とはいえ、少なくともアメリカは、日本の領土を要求していません。アメリカは、沖縄を日本に返還しましたが、中国は突然、「沖縄は中国の領土である」といいはじめた。
どっちがマシか、常識で考えれば理解できるでしょう。
日本の戦略は「中国と戦争をしないため」にある
「戦略」という言葉は、もともと「戦争に勝つ方法」という意味です。
最近は、戦争以外、たとえば「国家戦略」「企業戦略」「人生戦略」など、いろいろな意味でつかわれています。しかし、オリジナルな意味は「戦争に勝つ方法」。
で、「誰に勝つの?」ということなのですが、上でざっくり見たように、現在日本の深刻な脅威は、「中国一国」である。
つまり「日本の戦略」は、「中国に勝つ方法」と同じ意味である。これ「決めておくこと」は、とても大事です。
戦前、日本は、「仮想敵ナンバー1」を決めていなかった。陸軍は、「ソ連だ!」といい、海軍は、「アメリカだ!」と主張した。これ、国として、どっちか決めておかないとダメでしょう? それが決まらないと、「戦略」がたてられない。
で、結局日本は、「大戦略不在」のまま、アメリカ、イギリス、ソ連、中国4大国と戦うハメになった。こんなもん、勝てっこありません。
もう一つ、「戦略」は「戦争に勝つ方法」ですが、孫子もいっているように、「戦わずして勝つのが上策」なのです。
だから、きっちり戦略をたてて動くことで、「中国との戦争を回避することができる」。
「平和憲法さえあれば戦争にならない」「中国は平和的台頭を宣言しているのだから戦争にならない」と思考を停止させている人たちより、私たちは、真剣に「戦争にならない方法」を考えているといえます。
実際、日本が「中国に勝つ」といっても、日本が中国領を侵略することなどありえません。
ただ、「日本には尖閣ばかりか沖縄の領有権もない」「尖閣だけでなく沖縄も中国領だ」などという、異常な主張をやめてほしいだけなのです。
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なぜアメリカとの関係強化が「最優先課題」なのか?
では、「中国と戦争しない」「たとえ戦争になっても圧勝する」方法はなんでしょうか?
これは、簡単で、「アメリカとの関係」をますます強化していけばいい。
なぜかというと、中国は現時点で、「アメリカに勝てない」ことを知っている。だから、中国が尖閣を侵略したとき、「アメリカ軍が出てくる」と思えば攻めてくる確率は減る。もし攻めてきても、日米で圧勝できる。
こう書くと、必ず「尖閣有事の際アメリカは日本を助けてくれませんよ!」と「断言する」人がいます。なぜわかるのでしょうか?
実をいうと、これ「誰にも」「アメリカ政府自身」もわからないのです。
たとえば小沢さんみたいに、「私は人民解放軍の野戦軍司令官です!」なんて宣言している人が政権にいたら? アメリカだって、「おまえなんか助けるか!」となるでしょう。
それに、アメリカは、傀儡国家のジョージア(旧名グルジア)やウクライナがロシアと戦うのを、十分助けませんでした。
とはいえ、オバマさんをはじめアメリカ政府高官たちは、これまで繰り返し、「尖閣は日米安保の適用範囲だ」と宣言しています。そして、ジョージアやウクライナと違い、日本は「軍事同盟国」である。
結局、「アメリカは尖閣有事の際、日本を助けるかどうか?」というのは、「答えのない質問」なのです。
しかし、中国に「アメリカが出てくる可能性が高い」と思わせておくことが「抑止力」になる。だから、アメリカとの関係をますます強固にしていくことが、日本にとって「戦略的最重要課題」なのです。
最近の例を。
安倍総理の「希望の同盟」演説で、日米関係はとてもよくなった。そしたら、習近平が突然日本にやさしくなった。
「安倍のせいで日本は危険になった」という人たちは、この現象をどう説明するのでしょうか?
要するに、この世では、「のび太君」みたいな「か弱い平和主義者」はいじめられる運命なのです。「平和主義者なら戦争が起こらない」のなら、中国が虫も殺さぬチベット人を120万人も殺した現実をどう説明するのでしょうか?
結局、日本が戦争をしたくなければ、「自国が十分強くなる」「強いアメリカと近くなる」しか方法がない。
「アメリカ製平和憲法」は、決して日本を守ってくれません。
ロシアの戦略的位置
では、日本にとって、ロシアの戦略的位置はなんでしょうか?
「日米 対 中国」……こういう戦いになれば、日米は圧勝できます。
では、「日米 対 中、ロシア」の戦いだったら、どっちが勝つのでしょう?
難しい質問ですね。
難しいですが、「日米 対 中国」の方が、「日米 対 中ロ」よりずっとマシなことは素人でもわかります。
もちろん最良の形は、「日米ロ 対 中国」である。それが無理ならば、少なくとも「日米 対 中国 (ロシア=中立)」にしておくことが、戦略的に重要です。
だから日本は、中国とロシアを分裂させておかなければならない。これが、日本の戦略からみたロシアの位置づけです。
日米中ロの4国関係で、日本が取るべき戦略は以下のとおりです。
1、中国に「戦争をする気」を起こさせないよう、アメリカとの関係をますます強固にする
2、それをベースに、中国とロシアを分裂させる。具体的にはロシアを日米陣営に取り込む
ですから、「対ロシア政策」は、日本とアメリカが一緒になって行う必要がある。日本だけがフライングしてロシアと仲良くなり、日米関係を犠牲にしてはいけないのです。
そして、前号でも書いたように、アメリカは戦略的に、日ロ接近を嫌がります。
それなら、「米ロ接近」だけでも、戦略的には同じこと。結果的に、「日米 対 中国 (ロシア=中立)」になるのですから。
ちなみに、世界3大戦略家のルトワックさんは、「ロシアを中国包囲網に取り込む重要性」を繰り返し説いておられます。
最後に、引用しておきましょう。ルトワックさんは、日本が独立を維持できるか、それとも中国の属国になるかどうかについて、以下のように述べています。
もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。(188p)
ちなみに、ルトワックさんの自滅する中国
image by:Wikimedia Commons
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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