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北海道新幹線。開業から2ヶ月で何が変わったのか?

北海道新幹線が開業して早2ヶ月以上がたちました。北海道新幹線の一番列車に乗った、無料メルマガ「客車隊報」の中尾一樹さんが、開業後、北海道新幹線をめぐるまわりの変化についてレポートしてくれました。

北海道新幹線開業で変わった事情

北海道新幹線が開業して早くも2ヶ月が経ちました。この間に起こった様々な事象に「数字から」切り込んでみたいと思います。

新幹線の線路使用料、1.14億円

国土交通省の発表によると、北海道新幹線の「貸付料」が年間1.14億円となった。

これは東北新幹線の盛岡〜新青森が149億3000万円、北陸新幹線の高崎〜上越妙高が340億円、上越妙高〜金沢が80億円、九州新幹線が102億円なのに対し極めて安く設定されている。

基本的に整備新幹線は国が保有し、JRに貸し付けているのだが、その貸付料はそれまで運行されていた在来線収入額以上となる増収予測分だけを負担するルールとなっている。

にもかかわらずこの低額となったのは在来線特急(2002年12月以降、青函トンネルは普通列車の運行がないため、すべて特急・急行列車となる)だけでは青函トンネルの維持費が賄い切れず、増収となる部分がないためで、今回の貸付料設定も在来線部分の赤字額が減少する額を増収額とみなして設定されたと仄聞する。

つまり在来線旅客列車を全廃することで赤字額を全て新幹線に転嫁し、従来の赤字額を整備新幹線使用料の算出根拠とするためだけに(夜行列車を含む)在来線旅客列車を全廃したと考えるのは筆者の邪推だろうか?

JR東日本の「根元受益」22億円

上記の国土交通省の発表によると、貸付料の不足額を少しでも補うべく(?)、JR東日本から22億円を徴収する旨が併記されている。

これは従前JR東日本やJR東海が必死に回避してきた「根元受益」負担をついに押し付けられたということを意味している。

「根元受益」とは、例えば東京から函館まで新幹線で行く場合、JR北海道の売り上げとなるきっぷ代金は全体の2割に過ぎず、残りの8割がJR東日本の売り上げとなってしまうため、その分ほかの整備新幹線の建設費を(この試算例ではJR東日本に)負担させようという政治的な動きを指した用語である。

事実JR東海ではこの根元受益による請求を避けるべく全額「自前で」リニアを建設しており、今回(しぶしぶとはいえ)JR東日本がこの22億円を支払った事例ができてしまったことは本州のJR3社にとって脅威であろう。

カシオペアの運転日数、とりあえず22日間

多客臨時列車(時刻表に掲載される臨時列車のこと)としての運行を終了した寝台特急カシオペア号だが、4月6日付のJR東日本公式発表によると、今年6月から7月にクルーズ列車(団体専用で、ツアーとして発売される)カシオペア号はのべ22日間運行されるとのこと。

特に青函トンネル区間はJR貨物からのEH800型機関車をレンタルしての運行となり、GW連休前には青森駅乗り入れ訓練が行われた。

来年にはクルーズトレイン四季島も登場するが、上述の通り新幹線貸付料試算根拠として在来線列車を廃止する必然は最早なくなっており、四季島と隔日交互にて運行する「多客臨時列車」カシオペアの復活を期待したいところである。

夜行列車利用客、一日平均600人

4月13日付の毎日新聞に「新青森〜新函館北斗間の1日の平均利用者は上下合わせて約5700人。

在来線だった前年同期(中小国〜木古内間)の特急・急行は同2700人(うち夜行600人)だった」という記述がある。

新幹線の平均乗車率が試算値の26%を1%だけとはいえ上回ったのは良いことだが、同時に夜行列車に一日平均600人もの需要があったということもわかってしまった。

これまで夜行列車の廃止は利用率低迷が主たる理由であったが、いくら座席車が多い夜行急行「はまなす」がメインとはいえ1日平均600人という数字は見逃せない。

なぜならば仮に夜行列車が存続していた場合、道南いさりび鉄道の赤字額が0円になっていた可能性すらある。

開業前の試算値だが道南いさりび鉄道の赤字額は10年間で23億円。

つまり年間2.3億円の赤字が見込まれている。これを一日あたりにすると63万円・・・夜行列車利用者数の600人で割ると一人当たり1050円。

いさりび鉄道全区間(五稜郭〜木古内)の運賃が960円なので、仮に夜行列車に乗るには「いさりび鉄道の」急行券とかの購入を必須とすれば、余裕で赤字解消が可能であると推定される。

もちろん車両や乗務員のレンタルコストがかかるので急行券の額を200〜500円程度にする必要はあろうが、それでも道民の負担が減るのであれば今からでも夜行列車復活を真剣に検討すべきであろう。

新型機関車EH800の両数、20両に

現在(新幹線開業後)に青函トンネルを通過できるのは、新幹線車両と貨物用の新型電気機関車(EH800)のみとなっている。

2012年2月27日に国土交通省にて実施された「第4回整備新幹線小委員会」の配布資料(URLは下記参照)にJR貨物が提出した説明資料があり、その中(資料4ページ)に「専用の新型機関車(約20両)を導入する必要があり」と記されている。

それに対し北海道新幹線開業時点までに製造された新型機関車(EH800型)は17両だが、3月30日付の交通新聞によると残り3両の増備が発表された。

この3両が夜行列車用であったと推測され、仮に2012年段階のダイヤに当てはめると「北斗星」「はまなす」で2両、「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」の交互使用で1両(当然ながら予備機関車は貨物用の予備機と共用)運用と仮定すると、計ったように数値が一致する。

この新型機関車は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の特別業務勘定利益剰余金にて調達(半額が助成金、半額が無利子融資)されており、これまで報道されているような「JR北海道が青函トンネル用の機関車を買う」予算がないという事実はない。

残り3両は上記内容とカシオペアクルーズの運行がなされるか否かを見極めてからの発注と推定され、JR北海道の報道ごまかし体質が問われるべきであろう。

 

最後に

このように明と暗がうずまいた北海道新幹線ですが、一方で奥津軽いまべつ駅の開業を盛り上げる活動(東奥日報2016年3月12日の記事も実施されており、奥津軽いまべつ〜木古内間がJRの青春18きっぷで唯一、新幹線に乗れるということを「積極的にPRし若い鉄道ファンを呼び込もう」という動きもあります。

前回の記事にもありますように、筆者自身1988年の青函連絡船最終便にも、2002年のスーパー白鳥一番列車にも(勿論「海峡特例」で!)、そして2016年の北海道新幹線一番列車にも乗って津軽海峡を越え続けてきましたが、今回が一番「希望のない」旅となってしまったのは、北海道新幹線待望論者である筆者としては悲しい限りでした。

ただ上記の展開を見るに、未来においては希望の持ちうる展開はまだまだ可能であると信じております。

開業ご祝儀需要がおさまる2017年度以降、JRグループがどのような施策(もちろん夜行列車や「海峡特例」の復活も含め)を打ち出してくるか期待しつつ、この連載を終えたく存じます。

いつの日か再び青函トンネルを走る「在来線列車」の車内で、読者の皆様とお目にかかれる日を楽しみにしております。

 

Source by: 整備新幹線小委員会 , 第4回整備新幹線小委員会配布資料 , 第4回整備新幹線小委員会配布資料(資料3)JR貨物 説明資料

 

客車隊報

著者/中尾一樹(海峡同盟 代表)
青春18きっぷやクルーズ列車等の情報を中心としたメルマガを配信中。旅行サークル「海峡同盟」では青春18きっぷで北海道に行けなくなる可能性が発生したことをきっかけに2001年に結成。最近は海峡特例を守ることを目的として、国土交通省・運輸審議会が主催する公聴会に参加し公述人として意見するなど活動を行っている。「海峡同盟」は2016年12月末に解散予定。

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