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新聞各紙は「五輪買収」疑惑をどう報じたか? そこに電通の名は?

突如降って湧いた、東京五輪誘致に絡む2億円以上の不正支払い疑惑。JOCの竹田恒和会長はあくまで「正式な契約に基づくコンサル料」との言を繰り返しますが、その真相は? メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんが、この「疑惑」を新聞各紙がどう伝えたのか詳細に分析しています。

各紙は、五輪招致2億円支払い疑惑をどう報じたか

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「復興「見通せず」5市町」
《読売》…「小中2,143人 心のケア必要」
《毎日》…「アベノミクス再起動」
《東京》…「子ども貧困率調査1県のみ」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「五輪招致2.3億円 使い道は」
《読売》…「与野党 見えぬ対立軸」
《毎日》…「コンサル費「必要」強調」
《東京》…「部分可視化は「冤罪生む」」

ハドル

熊本地震から1か月、そしてマイナス金利導入から3か月。新聞に限らず、こうした「節目」の重視は人間の性のようなものですかね。季節がめぐって一巡する1年には具体的な根拠があり、もちろん、月がめぐって一巡する1か月にも根拠はあるので、決して「こじつけ」ではありません。それに、マイナス金利はともかく、熊本地震の方は今も大勢の方が避難を続け、30日以上たった今も、まだ大きな揺れに対する恐怖のもと、原状復帰が見通せない不安の中で暮らしておられるということです。国会は補正予算を成立させつつあります。

さて、比較してみたいテーマは、五輪関係のスキャンダルです。1面と解説記事に扱いがない《読売》も社会面では大きく取り上げていますし、《東京》も解説面に準ずる大きな扱いです。というわけで…。今日のテーマは…「各紙は、五輪招致2億円支払い疑惑をどう報じたか」です。

基本的な報道内容

2020年東京五輪招致の不正疑惑で、招致委員会の理事長だったJOCの竹田恒和会長は衆院予算委員会に参考人として出席。2億3,000万円あまりを支払ったシンガポールのコンサルタント会社について、「ペーパーカンパニーではない」と疑惑を否定した。ただし、使途については「確認していない」という。

送金先の「ブラック・タイディングズ社」は、当時IOC委員だったディアク国際陸連前会長の息子の友人。票集めのために買収工作を行った疑惑が浮上している。

竹田会長によれば、招致決定2ヶ月前の2013年7月に開かれ、IOC委員が多く集まる陸上世界選手権の場を「決戦の場」と考え、電通に実績を照会した上で、ブラック・タイディングズ社と契約。IOC委員の動向と情報収集を委託し、対価として約9,500万円、五輪招致成功後の10月に約1億3,500万円、併せて約2億3,000万円を支払ったという。

ペーパーカンパニーでしょ!

【朝日】は2面の解説記事「時時刻刻」。見出しは以下の通り。

uttiiの眼

《朝日》はブラック・タイディングズ社(以下、BT社)について取材している。同社は2006年設立。「シンガポール市街地に近い築50年以上の集合住宅4階の一室を事務所として登録していた」が、14年7月に閉鎖されているとして、同じ集合住宅一階玄関付近の写真を掲載。まあ、これは、「現場にはここまで近付きましたよ」という証文のようなもの。ただし、記事内容と相俟って、BT社が極めて胡散臭い会社との印象を強める効果を生んでいる。

因みに、「Tidings」は吉報とか悲報というときの「報」にあたる言葉で、「知らせ」とか「報せ」ということだから、差し詰め、ブラック・タイディングズは黒い報せ」。なんとも胡散臭い。

《朝日》記事に戻ると…BT社の経営者はシンガポール人のタン・トンハン氏。電通スポーツ部門をサポートしているスイスのマーケティング会社がタン氏をコンサルタントとして契約していたというから、電通にとっては既知の人物だったことになる。また、氏は定期的に国際陸連の会合に出席し、ディアク前会長の息子とも関係が深かったという。

一連の疑惑は、そもそも、ディアク前会長がロシアのドーピング隠しに関わった疑いでフランスの検察当局が捜査を開始し、モナコの国際陸連本部を捜索した過程で、今回の振り込みが発覚したという経緯。さらに、世界反ドーピング機関独立委員会の第2回報告書は、「東京の招致委側が国際陸連に協賛金400万~500万ドルを支払った」という関係者の証言を紹介していて、ただし、この問題は反ドーピング機関の調査対象外とし、フランス当局やIOCに調査を委ねていた。

《朝日》に成り代わって、事件の構図を判りやすく読み解けば、こうなるだろう。

東京の招致委は、招致を勝ち取るため、おそらくは売り込みを掛けてきたBT社の実績について電通の助言を求め、また、BT社が何か根拠を示すことによって、その影響力を信じた。そして、指示されるまま、国際陸連に対して5億円もの協賛金を支払い、さらに会長個人に対して渡ることが確実な2億円以上の賄賂をBT社の口座に振り込んだ。カネの大半はBT社からディアク氏の息子、さらに父親であるディアク陸連会長本人に渡った。会長側は影響下にあるIOC委員を説得するなどして「東京支持」を固めた。

つまり、東京五輪はカネで買ったものだったということになる。

捜査機関はこんな筋書きを脇に置きながら、捜査をしているに違いない。大変なことになった。

5年以下の拘禁刑…

【読売】は社会面。見出しを以下に。

uttiiの眼

《読売》が指摘する重要なポイントは、世界反ドーピング機関の独立委員会がまとめた報告書で、「ディアク氏と(息子の)パパマッサタ氏が関わった不正なカネのやりとり」に、BT社の口座が使われたと書いてあるところだ。《朝日》記事の記述ではその点が曖昧だったし、後で取り上げる《毎日》《東京》も、その点には触れていない。

また、《読売》記事の特徴は、この問題の刑事捜査がどう展開するかということについての説明を書き込んでいる点。この点の記述も、他紙にはない。

それによれば、日本と違い、フランス刑法では民間人同士も贈収賄罪に問われ、贈賄側は5年以下の拘禁刑が科せられるという(未確認:内田)。仮に、BT社がコンサル料の一部を票のとりまとめ以来など贈賄名目で渡していれば罪に問われることになり、日本側が共謀していれば同様に罪に問われる可能性があるという。また、日本とEUの間には、刑事共助協定があるので、事情聴取など、「捜査共助」を要請してくることもあり得、日本の捜査機関がJOC関係者から事情聴取したり、口座記録を取得したりしてフランス当局に提供することになるかもしれないと。ただし、民間人同士の贈収賄は、日本では罪に問わないので、強制捜査の要請は拒否できるという。

思うに、フランス当局は、ロシアから賄賂をもらっていたとおぼしきディアク親子の、いわば「余罪として、五輪招致に関わる贈収賄事件を発見してしまった形だろう。現在のヨーロッパでは、スポーツに関する汚職を罰する国が多いようだ。刑法が直接適用されるドイツやオーストリア、特別刑法が用意されているらしいフランス、スペインなど。日本は公務員に対するものしか罰しない法体系になっているが、竹田会長の見え透いた全否定の様を観るにつけ、そろそろ考えた方が良いのかもしれないと感じる。この問題で、日本だけアウトサイダーというのは具合が悪そうだ

東京招致委の危険な「背伸び」

【毎日】は3面の解説記事「クローズアップ」をこの問題に充てている。見出しは以下に。

uttiiの眼

《毎日》は、招致活動にかかった経費89億円のうち、海外コンサルタント費については、民間からの寄付や協賛金を集めていた招致委で負担しているので、東京都の経費つまり税金からの支出ではないという竹田会長の主張を紹介している。その通りなのだと思うが、さすがに税金が原資となっているところからは、買収用の汚いカネは出せなかったというだけのことだろう。会長自身汚いカネと認識していたからに他ならない。

《毎日》は、不信の目を向けられる理由として、BT社の人脈について書いている。「ロシア選手のドーピングを黙認する代わりに現金を受け取っていた疑い」で捜査対象となっている前国際陸連会長ディアク氏と息子のパパマッサタ氏。そのパパマッサタ氏と親しいのが、BT社の経営者イアン・タン氏(《朝日》の記事に登場するタン・トンハン氏のことだろう)ということになる。しかし、《読売》が書いているような、口座のことは書いていないので、もう1つ関係が分かりにくい。要するに、ディアク前会長のウラ営業担当がタン氏とBT社であり、その会社口座がウラ金の入り口になっていた可能性が高いということ。これが決定的だと思うが…。

しかし、《毎日》の記事の最大の特徴は別の所にある。後段の1,000字ほどは、コンサル費支出に至る招致活動を取り巻く状況についての解説と、この問題に止まらず、「五輪への不信感を招いた背景についても筆が及んでいる。

猪瀬都知事の「イスラム諸国はけんかばかり」発言や東電福島原発事故での汚染水漏れなどで逆風に晒されていた東京が、最大のヤマ場と考えて力を集中したのが、13年8月にモスクワで開かれた陸上の世界選手権。「その前に、タン氏が自ら売り込みを掛けてきた」という。なり振り構わず、招致委が打った手が、2億3,000万円の契約だった(東京がカネを使ってでも必死になってやってくるという「情報」を誰がタン氏サイドに伝えたのか、そのあたりは是非知りたいところだ。そこも利益の分け前に与っているはずだ。:内田)。

さらに、大会費の膨張の背景には、最大の弱点だった国内支持率の低さを改善するためには、大会諸経費をできるだけ低く見せかける必要があり、だからこそ、招致決定後にそれらの「甘い見通しが次々と覆されてきたということだ。《毎日》のこの視点は素晴らしい。

竹田会長の矛盾だらけの発言

【東京】は2面に大きな記事。参考人として衆院予算委員会に出席した竹田恒和JOC会長が、口を一文字に結んで答弁席に立っている写真。その後ろでは石破大臣が斜めの上目遣いで竹田氏を背後からにらんでいるような風情。見出しを並べておく。

uttiiの眼

《東京》の強調点は、竹田会長の発言の矛盾点。13年8月モスクワ開催の世界陸上選手権が「決戦の場」と捉えられていたことは各紙書いている通り。竹田会長は、リオデジャネイロに破れた16年五輪招致の際には、やはり開催都市決定直前に開かれたベルリン世界陸上の場があったのに十分に活動できず、「同じ失敗は繰り返せない」ということから、BT社と契約したと説明した。そして、ここが肝心だが…。

陸上関係については影響力があると各方面から聞いていた。

こんなことを理由として、BT社と契約したと説明したのだが、「招致委としてそこまで同社を重視していたにもかかわらず、ロビー活動の最前線にいたはずの竹田氏は13日の説明で、経営者のタン氏に「会ったことはないし会社も知らない」と話して」いるという。

確かに、BT社登場の経緯には強い疑問がついて回る。電通も「JOCからの問い合わせ」に対して、ただ、ロビイストとしての実績があると言っただけだと、いわば知らん顔を決め込んでいるが、どうも信じがたい。そもそも竹田氏は、BT社のどんな実績に納得し、2億円もの支払いに応じたのだろうか。それをハッキリさせてもらわなければなるまい。

あとがき

オリンピック、新国立問題からエンブレム問題、大会費用膨張問題と来て、ついにはその原点である招致活動の、怪しげなだけでなく、実に「ロ・ク・デ・ナ・シな実態が見えてきてしまいました。嘘を嘘で固め、無理に無理を重ねて勝ち取ったオリンピックに、どんな意味があるのか。疑問に感じるのは私だけでしょうか。

 

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/5/17号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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