みなさんの中に「イノベーションなんて大企業のための言葉でしょ、中小企業には縁がないよ」なんて思っている方はいませんか? メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』の著者でコンサルタントの理央 周(めぐる)さんは、中小企業こそ自由な発想で爆発的なヒット商品を生み出せる環境にある、と断言します。今回はパイロットインキのヒット商品、こすると消えるボールペン「フリクション」に焦点をあてて、「発想の転換方法」について解説しています。
パイロット フリクションペンから学ぶ
以前、経営者会の例会で、株式会社パイロットコーポレーション常務取締役、パイロットインキ株式会社取締役会長・中筋憲一氏の講演を聞く機会をいただいた。
フリクションの便利さ
テーマは、『イノベーションが切り拓く新しい市場 ~消せるボールペンができるまで~』書いてからも消すことができるボールペン、「フリクションペン」のこと。
僕自身、お話をお聞きしてからフリクションペンのファンになった。というのも、原稿の執筆時に編集者とのやり取りの中での、修正(校正といいます)に使うとかなり便利なのだ。
原稿を一旦書き、編集者に渡し、編集者のアイディアが入って、また返ってくる、というやりとりなのだが、推敲の途中で、「やっぱりニュアンスが違うな」と、何度も思い返すことが多い。
そんな時に、赤字でいったん書いたものを消すことができるのは、かなりの便利さなのだ。
僕の周りでも、愛用している方々は多いが、特に女性の方、デザインや広告系の仕事をしている、クリエイティブな感度が高い方々が多く使っている印象がある。
そのFRIXIONシリーズのボールペンの開発秘話をお聞きしたのだが、一番共感したのは、逆転の発想。
氏がおっしゃった、
「それまでのボールペンは、インクは絶対消えてはいけないものだった。つまり変化しないものを追求していたが、逆に変化する消せるものを開発しようと考えた」
という点。
イノベーションは、優れた画期的な発想から始まる。
しかしこの発想は思考が停止すると出てこない。
思考停止が起こる理由は、
- 固定観念 や
- 過去の成功体験
によっておこる。
ボク自身、イノベーションを扱った3冊目「ひつまぶしとスマホは、同じ原理でできている」にも書いた通り、なかなかこれらの「呪縛」からは逃れられないのだ。
その点、中筋氏をはじめとするパイロットインキさんは、ペンというシンプルなプロダクトに、以前からある「消せない工夫」の逆張りをすることができた。
この意識を持つことはそうそうできるものではない。
イノベーションをビジネスに展開する
昭和47年に試験管ベースで「色が変化する」ことを発見したとのこと。
名刺も、実際に触ったりして温めると体温で変化する。
次のステップで考えたのが商品化だが、ここでもやはり顧客視点、ユーザー目線で商品開発をされている。
それまでのペンの定義は「記憶を残す道具だった」とのことだが、商品化に当たって、「考える道具」というコンセプトとして定義して、ペンという形にしたとのこと。
ある意味で大きな「パラダイムシフト」だと言っても過言ではない。
ペンについた「付加価値」のために、価格を自身で設定できたため、利益率も上がることになる。
イノベーションは「価格競争から脱却できる」ことを示す好例である。
市場と技術がマッチして初めてヒットにつながる
この、技術を生かした製品をヒットに結びつけるには、市場にもニーズが無ければならない。
しかし、消費者がすでに知っている「顕在的なニーズ」では、ヒットには結びつかない。
消費者は自分が知っているものを欲しいとは思わないのだ。
「今は知らないけれど、教えてもらったら嬉しい」という「潜在的なニーズ」を掘り起こせるかどうかが、先行者利益につながる、ヒット商品になる。
マッキーの「1本に細字と太字」が両方あるペンが、サインペンのカテゴリーを凌駕したように、自社独自の技術が消費者ニーズとマッチし、市場の期待を超えた場合に初めてヒットにつながるのだ。
イノベーションは確かに多額な設備投資をともなう技術革新だけを指すわけではない。
この事例から学べることは、
- 真摯に自社プロダクトを愛し向き合う
- 固定観念を捨てる
- 顧客からスタートする
ことで、新しい価値を生み出すことにある。
私たちにできるイノベーションとは何か?
では、私たち中小企業にはこのような画期的な商品を生み出すことはできないのだろうか?
イノベーションの話をすると、「それは大企業のことですよね。うちには到底無理ですよ」という答えが返ってくる。
しかし、ちょっと考えて欲しい。
なにも、大規模投資をしてフリクションペンのような画期的な技術を使って、大量生産してください、と言っているわけではないのだ。
フリクションペンの開発ストーリーにもあるように、
- 既存の市場ではないところにも目を向ける
- 既成概念、固定観念、過去の成功体験にもとらわれない発想をする
- 事業の定義を考え直す
- 顧客価値を考える
というステップを踏むところは、大企業だろうが、中小企業だろうが同じなのである。
自社にまつわる画期的な発想をすることは、誰にでもできることである。
そしてそれは、形式にとらわれることのない中小企業の特権なのだ。
ものや情報が溢れかえっていて、違和感がないと振り向いてもらえない世の中だということは事実である。
私たちにできることは、それでも多いはずである。
image by: フリクション公式ページ
『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』
著者/理央 周(めぐる)
あのヒット商品はなぜ「ヒット」したのか?あのレストランの予約は、なぜいつも取れないのか?世の中で「売れているモノや人気者」はなぜヒットするのでしょうか?毎号実際の店舗や広告を取り上げ、その背景には、どんな「仕掛け」と「思考の枠組み」があるのかを、MBAのフレームワークとマーケティングの理論を使って解説していきます。1.「中小企業経営者・個人事業主」が売り上げを上げる 2.「広告マン・士業」クライアントを説得する 3.「営業マン」が売れない病から脱するためのメルマガです。
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