五輪とFIFA、「ふたつの裏金」に絡む電通のキーマン

五輪とFIFA、「ふたつの裏金」に絡む電通のキーマン
 

FIFAスキャンダルを暴いたジェニングスが最初に目をつけたのはサマランチ会長時代のIOC(国際オリンピック委員会)だった。ソルトレイクシティ冬季オリンピック(2002年)の開催地が決定した1998年、招致委員会によるIOC委員の買収疑惑をあぶり出し、過去の招致活動でも不正行為が行われていたことを突き止めた。

その後、2001年にサマランチが退任すると、ジェニングスはFIFAに矛先を変えた。そのせいか、IOCスキャンダルは沈静化していた。ジェニングスによると、「スポーツ記者の多くは、この問題に触れたがらなかった」のだ。その理由は、「組織幹部やアスリートに接触できなくなるのを恐れたため、あるいは単に時間やエネルギーをかけたくなかったため」らしい。つまり、世界スポーツ最大の祭典をとりしきるIOCのまわりには、汚いものには耳目を塞ぎ、ひたすらオリンピック賛歌に舞うスポーツ記者ばかりいるということだ。

そんなぬるま湯につけておくと、巨大利権の王国では、必ずといっていいほど腐敗菌がはびこるものだ。

2013年9月、「トーキョー」と、ジャック・ロゲが声をあげ東京への五輪招致が決定した裏側で、日本から振り込まれた買収資金による集票工作が行われた疑いが濃厚になっている。

疑惑の内容はこうだ。

同年7月と10月の2回にわたり、シンガポールのアパートの一室を住所とするブラック・タイディングス社の口座に、日本のオリンピック招致委員会サイドから2億3,000万円が送金された。同社代表のイアン・タン・トン・ハンなる人物は、その当時IOCの有力委員で国際陸上競技連盟(IAAF)の元会長でもあるラミン・ディアクの息子、パパマッサタ・ディアクの親友なのだ。ラミン・ディアクはIAAFのドーピングにからむ収賄と資金洗浄の疑いで仏当局に逮捕されている。パパマッサタ・ディアクは母国セネガルに逃亡し、国際手配中だ。

仏当局によるこのドーピング事件の捜査の過程で、オリンピックの東京招致にからむ買収工作が浮かび上がった。世界反ドーピング機関(WADA)は今年1月27日、汚職疑惑の独立調査委員会の報告書を発表したが、この中にも、オリンピック招致に関する次のような記述が見られる。

トルコは国際陸連に協賛金400万ドル~500万ドルを支払えと求められたが断ったためラミン・ディアク会長の支持を得られなかった。日本側はこの額を支払ったので、2020年の五輪は東京に決まった…。

息子のパパ・ディアクがパリで約1,600万円もの高級時計を買いあさっていたことが明らかになっている。東京の招致委員会から受け取った裏金がその元手になっているとすれば、開催地を決めるための投票権を持つIOC委員に高級時計を配って多数派工作をした可能性が高い。

これについて、日本オリンピック委員会(JOC)の会長であり、招致委員会の理事長であった竹田恆和は「ブラック・タイディングス社への支払いは、あくまでコンサル業務に対する適切な対価だ」と、買収工作を否定したが、2億円以上も支払わねばならないコンサルタント業務とはどんなものなのだろうか。

IOCは契約書や、業務報告書などブラック・タイディングス社からもらっていなければならないはずの資料の公開をさまざまな理由をつけて拒んでいて、ブ社がどんな仕事をしたのか、いまだ不明だ。何をしてくれるのか分からないままに2億3,000万円ものカネを渡すバカはいない。

馳浩文科大臣の説明は竹田会長に比べると、まだしも正直だ。

「あれは買収ではない多数派工作だ」
「ロビー活動を展開するため、より核心に触れる情報が必要だった」

要するに、多数派工作であることは確かなのだ。振込を招致決定前と決定後に分けたのは、前金と成功報酬の性格を帯びたカネだとみることもできよう。

この問題を国会で追及した民進党の玉木雄一郎議員によると、WADAの報告書には、「『マーケティング・コンサルタント業』が、不正な賄賂を隠す便利な隠れ蓑であるということは捜査当局間の共通認識である」との記載もある。

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